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» 2013年11月05日 00時00分 UPDATE

佐野正弘のスマホビジネス文化論:“抱き合わせ”で注目 スマホのオプションを店頭で加入させる背景

スマホの購入時に、さまざまなオプションサービスやコンテンツへの加入を勧められることが多い。なぜ、キャリアやコンテンツプロバイダーが店頭での契約獲得にこだわっているのだろうか。

[佐野正弘,ITmedia]

 一部の携帯電話販売店が、スマートフォン購入時に特定のオプションやサービスを契約しないと端末自体を販売しないと案内していたことが問題視され、キャリアにも非難が集まるなど、大きくクローズアップされた。なぜショップは、端末購入時にさまざまなサービスを契約させるのだろうか。

auスマートパスなどの強制加入が問題に

 最近、KDDI(au)の「auスマートパス」に関するある問題が、ソーシャルメディア上で大きな話題となった。同社のスマートフォンを購入しようとしたところ、auスマートパスをはじめいくつかのサービス契約が強制的になされた上、それらを契約しないとスマートフォン自体を販売しない“抱き合わせ”のような措置をとるショップがある――という指摘があり、KDDIに批判が集中したのだ。

 auスマートパスについて一応解説しておくと、月額390円を支払うことで、さまざまなサービスが受けられる有料の総合サービスである。従来は“アプリ取り放題”などデジタルコンテンツの提供が主体であったが、最近ではiPhoneユーザー向けにApple Care+の修理代金を実質無料にしたり、さまざまな店舗で利用できる割引クーポンを提供したりするなど、有料サービスだからこそ実現できる価値を、多くの人に分かりやすい形で提供する取り組みを進めている。

photophoto 「auスマートパス」は携帯電話ショップでの会員獲得に力を入れ、有料サービスながら800万会員を突破した

 KDDIは、auスマートパスを主力サービスとして多くのスマホユーザーに利用してもらいたいと考えており、ショップ店頭での積極的な加入者獲得に取り組んでいる。そうした成果もあり、9月時点で800万の会員を抱える、有料のインターネットサービスとしては非常に大きな存在となった。またKDDIは、auスマートパスの上位サービスとして「ビデオパス」「うたパス」「ブックパス」などの専門サービスを提供。合計で200万会員を獲得している。

photo 10月28日の決算発表会会場で、KDDIの田中氏はオプションサービスの強制加入をさせないよう、店舗の改善をすると発言した

 だがこれらのサービスは、あくまで付加サービスの1つであり、契約するか否かはユーザーが自由に選択するはずのもの。それがスマートフォンを購入する時点で“強制”されたことから、KDDIに多くの批判が集まったわけだ。

 こうした声を受けてか、同社の2013年度3月期第2四半期決算発表会において、KDDIの代表取締役社長である田中孝司氏は「店頭で加入を勧めるのはあくまでお試しのためであり、必須条件にするのは決して許されるものではない」と、店舗改善に向けた取り組むことを明言。また10月31日には、auスマートパスの入会・退会ページが変更され、退会しやすくなるなどの措置がとられた。

大きな実績を上げてきた店頭でのサービス誘導施策

 今回のケースは、店舗での対応がかなり行き過ぎた事例といえる。だが、携帯電話ショップで端末を購入する際、何らかのオプションやサービスの契約を勧められることは日常茶飯事だ。特にスマートフォンの扱いに慣れている人は、不要と感じるサービスやコンテンツを勧められ、契約させられることに不満を抱くことが多い。

 それゆえ携帯電話やスマホを使いこなす先進層を中心として、こうしたサービスの契約を店頭で勧めることに対し、批判的な声は以前より多かった。にも関わらず、なぜ、店頭でサービスの契約を勧めようとする動きが進んでいるのか。

 それは、ショップで顧客に自社サービスの契約を直接勧めてもらうことが、他の広告・宣伝手段と比べて確実性が高いためだ。ゆえにキャリア各社は、ショップでサービスの契約を勧め、加入へ結び付けてもらうよう、ショップに対してサービスの契約数に応じた報酬を支払っている。

 特に携帯電話が高機能化して以降、音声通話主体の時代と比べキャリア自身が提供するサービスが大幅に増加し、複雑化した。そうしたサービスをより多くの人に知ってもらい、使ってもらう上でも、コストをかけてショップに向けた施策に力を入れるようになったといえるだろう。

photo BeeTVを引き継ぐ「dビデオ」なども、ショップ店頭での会員獲得で大幅にユーザー数を伸ばしている

 実際、NTTドコモとエイベックスの合弁会社が2009年5月にサービスを開始した「BeeTV」などは、店頭での誘導施策を中心として会員を獲得したことで、開始後1年に満たない期間で100万会員を実現するなど大きな実績を残した。

 と同時に、BeeTVの会員獲得手法は後のコンテンツ拡販施策に大きな影響を与えた。他の広告手段と違い、ショップの店頭で直接顧客にサービスを勧められるこの方法は、キャリアにとって重要なサービス会員獲得の手段となっている。

ショップでアプリをインストール「リアルアフィリエイト」とは

 店頭では、キャリアが提供するサービスだけでなく、他の企業が提供するアプリをインストールしたり、Webサービスのショートカットを設置するよう勧めるケースも増えてきた。新しいスマートフォンを手に入れたら、いくつかのコンテンツがプリインストールされていたかの如く入っていた人も少なくないのではないだろうか。

 実はこれは、「リアルアフィリエイト」と呼ばれる広告手段の1つ。仕組みは先のキャリアサービスの事例とほぼ同じで、自社のサービスを利用してもらいたいコンテンツプロバイダーが、携帯電話ショップに店頭での加入を勧めてもらう代わりに、そこで得られた契約数に応じた報酬をショップ側に支払っているのだ。

photo 携帯電話販売店を使ったリアルアフィリエイトの大まかな仕組み

 リアルアフィリエイトは、フィーチャーフォン時代から有料コンテンツの利用拡大を狙う企業が力を入れてきた手法だ。特に公式コンテンツの競争が激化した2000年代後半には、リアルアフィリエイトが急速に広まった。

 そして現在、市場のスマートフォン化で、リアルアフィリエイトの利用が急加速している。コンテンツ環境のオープン化が急速に進んだことから、コンテンツプロバイダーの多くは突如、公式メニューなどのユーザー接点を失ってしまった。そこで有料コンテンツへの誘導だけでなく、アクセス数の向上やアプリのインストール数自体を増やし、ユーザーとの接点を増やすためにも、リアルアフィリエイトが用いられるようになったのだ。

 スマートフォンの登場によるモバイルコンテンツの急激な変化は、有料会員登録からプリインストールへと、リアルアフィリエイトに対する敷居の低さをもたらした。それがリアルアフィリエイトを一層活況化し、実施する店舗を大幅に増やした要因になったといえるだろう。

“抱き合わせ”の背景にある競争激化

 ショップの側にとっても、キャリアのオプションやサービスを契約してもらうことで得られる報酬や、リアルアフィリエイトで得られる報酬は、貴重な収入源だ。ショップ側が店頭でのコンテンツ・サービス加入施策に積極的に取り組むようになったのには、収益手段の拡大が大きく働いているといえよう。

 そしてもうひとつ、店頭での加入施策が拡大しているのには、報酬を端末割引の“原資”として端末価格を割り引くことで、集客に結び付けたいというショップ側の狙いも大きい。特に最近、“激安”をうたう店舗では、端末を安価で購入できる代わりに、キャリア提供のオプションに加え、さまざまなアプリやコンテンツのインストールが求められることが多い。その理由は、リアルアフィリエイトなどによって得られる報酬が、“激安”を実現する割引の原資となっているためなのだ。

 店頭でコンテンツやサービスを契約されてしまうことに不満を持つ人は多いが、一方で詳しい知識を持たない人にとっては、こうした機会がなければ便利なサービスやコンテンツを知ることなく、スマートフォンを持て余してしまう可能性があるのも事実。リアルアフィリエイトも本来は強制されるものではないし、断ってもユーザーが受ける影響は、端末価格が上昇することくらいなもの。事前の説明がしっかりなされ、有効に機能していれば、あながち悪い施策――とはいえない面もある。

 とはいうものの、ショップによっては報酬を得ることが先鋭化し、冒頭で触れたような“サービス強制加入”というケースを生み出しているのも、また事実だ。特に最近ではスマートフォンの販売競争の激化により、ショップが端末販売で得られる利益は大きく落ち込んでいる。それだけに、リアルアフィリエイトなどで収益を向上させるべく、無理のある取り組みを実施するショップが出てきている感は否めない。

 こうした問題を生み出している原因には、MNP利用者への過度な成果報酬などと同様、キャリア間の激しい顧客獲得競争が大きく影響している。競争のしわ寄せがショップやユーザーに降りかかっている現状を見るに、キャリア各社には、ユーザーの視点に立ったより本質的な競争を展開する必要性があるといえるだろう。

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