スマートフォンアプリで、ゲームに劣らず高い人気を博しているのがカメラ関連のアプリだ。フィルター系アプリや、プリクラ風に写真を加工するアプリなど、さまざまな種類のカメラ関連アプリが登場している。だがその一方で、ビジネスの側面からすると非常に大きな課題も抱えている。カメラアプリの現在を追った。
カメラはスマートフォンで人気の機能の1つであり、気軽に撮影できる使い勝手のよさと、性能の向上から人気が高まっている。今やコンパクトデジタルカメラの売上に影響を及ぼすほど、スマートフォンのカメラは多くの人々に利用されるようになっている。
もっとも、カメラ機能自体はフィーチャーフォンの頃から携帯電話に搭載されている。しかしスマートフォンになって、そのカメラ機能に大きな変化がもたらされた。その1つが多彩な“アプリ”の存在だ。フィーチャーフォンはその仕組み上、アプリにさまざまな制限が設けられており、カメラ機能をカスタマイズすることは難しかった。だがスマートフォンはアプリ開発の自由度が高く、端末に搭載されたカメラを制御できるようになった。そのため、数多くのカメラ関連アプリが登場。人気に拍車をかけることとなったのだ。
カメラ関連アプリの代表的な存在となるのが、撮影した写真に何らかの加工を施す、フィルター系のアプリだ。こうしたアプリはスマートフォンの初期から人気を博しており、例えばAndroid向けに古くから提供されている、ビットセラーの「FxCamera」は、2012年にはiPhone向けにも提供を開始。世界225の国と地域で、2500万ダウンロードを記録するなど高い人気を博している。
スマートフォンで撮影した写真を通じてコミュニケーションする「Instagram」も、多彩なフィルター機能で注目を集めたアプリの1つといえるだろう。Instagramは、海外では若年層を中心に高い人気を集めており、米facebookが買収するなど、その影響力も大きなものとなっている。AppleのiOS 7に、Instagramと同じ正方形の写真(アスペクト比1:1)が撮影できる「Square」モードが設けられたのも、Instagramの影響と無縁ではないだろう。
こうした“正統派”のフィルター系アプリだけでなく、写真をユニークに加工するフィルター系アプリの人気も根強い。こうしたアプリは、写真に与えるインパクトが大きいこともあり、爆発的なヒットをもたらすことも多い。
それを象徴しているのが、スーパーソフトウエアの「漫画カメラ」だ。iPhone向けに開発された(現在はAndroid版も提供)このアプリは、写真を白黒化し、さらに集中線やフキダシなどを用いて漫画風に仕立て上げるという面白さがヒット。2012年には多くのメディアで取り上げられ、大きなブームになった。
その後もフィルター系アプリは、「マカンコウサッポウ」「進撃の巨人」「孤独のグルメ」など、その時々で話題となったネタを用いたフィルター系アプリが登場。現在もさまざまな面白フィルターアプリが登場し、継続した人気を獲得している。
こうしたユニークなフィルター系アプリは、日本だけでなく海外でも多く提供されている。だが海外では日本と異なり、どちらかというと“顔”をユニークに加工するものが多い。そうしたアプリの中から、撮影した人の顔を太らせる「Fat Boost」や、写っている人の顔を入れ替える「Face Swap」など、いくつかのアプリは日本のメディアでも取り上げられ、人気になったことがある。
カメラアプリといえばフィルター系アプリが注目されがちだが、写真をスクラップしたり、スタンプを貼り付けたりして可愛く加工するアプリも、女性を中心に根強い支持を得ている。元々プリントシール機の人気が高い日本においては、スタンプや手書き文字などで“プリクラ風”に写真を加工できるアプリは、人気が出やすかったといえるだろう。
こうしたアプリの代表例となっているのが、LINEの「LINEカメラ」だ。これはLINE同様、LINEのキャラクターをスタンプとして写真上に貼り付けて加工できるアプリだが、LINE、ひいてはLINEキャラクターの人気とともに人気が拡大。現在でもApp Storeのランキングなどでは安定した人気を獲得しているようで、今年8月時点で国内外を含め、4800万ものダウンロード数を記録している。
日本発で国外でも人気を博している加工系アプリは、LINEカメラだけではない。コミュニティファクトリーの「DECOPIC」も、国外で人気を高めているアプリの1つといえるだろう。これは、豊富なスタンプやフレーム、フォントなどを用意するだけでなく、顔写真を綺麗に加工するフィルター機能など備え、写真を可愛く加工できる、加工アプリとしては定番と呼べるものの1つ。ファッション誌のモデルなどに利用されたことから注目を集めて国内で人気となる一方、海外からの利用も急増。現在では1700万ダウンロードを記録するに至っている。
最近ではさらに、1枚の写真を加工するだけでなく、複数の写真を切り抜いて組み合わせ、コラージュにした上で加工を施す、加工アプリも増えてきた。DECOPICを提供するコミュニティファクトリーも、写真を組み合わせて加工するタイプの「Petapic」を2012年12月より提供開始しており、今年8月には500万ダウンロードを記録するなど勢いを増している。
カメラ関連アプリは各マーケット上でも人気が高く、ユーザーからはゲームアプリに並ぶといっていいくらい、常に人気と関心を集めている分野でもある。にもかかわらず、ビジネス的な側面から見ると、カメラアプリはほとんど注目されていない状況にあるのが実情だ。
その理由は収益化にある。カメラアプリはダウンロード数こそ多いものの、それを収益へとつなげる手段が少ない。ダウンロード課金による有料アプリ販売は、低価格化の影響で収益につながる状況とは言い難く、また多数のフィルターを備えたアプリが無料で提供されていることなどもあり、有料によるプラグインの販売に結び付けるのも、総じて厳しい状況にある。キャラクター人気を背景として収益化に結び付けているLINE Cameraなど一部を除けば、アプリ内広告以外の明確な収益化手段を開拓できていないのだ。
さらにフィルター系アプリに関して言えば、寿命の短さも大きな課題となっている。特にユニークさを重視したフィルター系アプリは、瞬間的な人気は爆発的に高まるものの、継続利用に結び付かず、旬が過ぎると急速に“飽き”られてしまう。広告による安定した収益にさえ、結び付けるのが困難な状況なのだ。
人気やニーズの高さとは裏腹に、収益化手段が確立できず、ビジネス面では振るわないカメラアプリ。だが最近、その解決策の1つとして、撮影した写真の“アナログ化”が注目されている。スマートフォンで撮影した写真の中には記念の写真などもあり、紙で保存したいというニーズも少なからずある。そこで撮影した写真を、スマートフォンから簡単な操作でプリントアウトし、自宅に届けてくれるサービスの人気が高まってきているのだ。
中でも注目されているのが、複数の写真を組み合わせて、フォトブックとしてまとめてくれるサービスである。事実、ミクシィが今年の2月にサービスを開始したフォトブックサービス「nohana」は、送料を支払えば毎月1冊、無料でフォトブックが手に入るというお得さが人気となり、7月にテレビ番組で紹介された際にはアクセスが集中し、注文を一時停止するなどのトラブルにも見舞われた。こうした人気を受けて、ミクシィはnohanaの事業を分社化するに至っている。
スマートフォン上のアプリやサービスは、デジタルであるが故に価値が判断しにくく、安い方、ひいては無料へとユーザーが流れやすい傾向にある。だが写真はデジタルとしてだけでなく、アナログとしての価値も持っていることが、収益化に道筋をもたらしつつあるといえるだろう。今後もカメラアプリに関しては、人気と収益性のギャップが大きい状況がしばらく続くと考えられるが、アナログ化をブレイクスルーとして、収益化が進んでいくことを期待したい。
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