インタビュー
» 2015年07月16日 10時06分 UPDATE

「Apple Watchより目覚まし時計の方が面白い」――“やんちゃ”な電通ブルーが起こすイノベーションとは (1/2)

電通の子会社として2014年10月に設立された「電通ブルー」は、設立から数カ月で矢継ぎ早に製品やサービスを投入してきた。そもそも電通ブルーってどんな会社? 課せられた使命とは? 吉羽一高社長に話を聞いた。

[田中聡,ITmedia]

 「電通ブルー」という会社をご存じだろうか。

 読者の中に「電通」を知らない人は少ないだろうが、電通ブルーという会社名は初めて耳にするという人は多いのではないだろうか。電通ブルーは、電通グループ初のテクノロジー・ブティック子会社として、2014年10月に設立されたばかりの新しい会社。

 事業内容はIoT(モノのインターネット)に関する製品の開発や、ライセンス提供、新規事業の開発やコンサルティング、Webサービスやアプリの開発、プロモーションの企画制作など、多岐にわたる。従業員は20人で、代表取締役社長の吉羽一高氏が声を掛けた人材が集まっているという。

 2014年11月には、スマートフォンで解錠できる南京錠タイプのスマートロック「246(ニーヨンロック)」の第1弾製品「246 Padlock」、2015年3月にはカバンを床に置くときなど敷く「MATT(マット)」を発売。スマホ向けアプリについては、近くにいる人と匿名でチャットができる「PandeChat」を2015年3月、離れた場所にいる人とスマホのカメラを共有して写真を撮れる「ChainSnap」を4月にリリースした。

 設立から数カ月という短期間で、矢継ぎ早に新製品やサービスを投入してきた電通ブルー。同社に与えられたミッション、そして強みとは? 代表取締役社長の吉羽一高氏に話を聞いた。

photo 電通ブルーの吉羽一高社長

“二国二制度”で、電通ではできないことをやる

―― まずは電通ブルーという会社を設立した背景や、電通グループでの立ち位置を教えてください。

吉羽氏 僕は電通のプロパー(もともとの社員)ではなくて、2007年に(電通から)声をかけていただいた、外様の人間です。学生のころから起業したいと思っていて、「世の中に受け入れられそうなことを、自分でリスクを持ってやる」というのが、もともとのスタンスです。いくつか会社も立ち上げました。

 電通は「グッドイノベーション」という言葉を標ぼうしています。人様がゼロから生み出したものを大きくしていくことが、電通の立ち位置であるし、強みもそこにあります。だからこそ「グッドイノベーション」という言葉にあこがれを持ち、自分たちにないものを作っていかないといけない。ただ、電通の中ではできないので、“二国二制度”の一国として作られたのが電通ブルー。属国ではなく、自分たちで考えて自分たちで作ることを、1つの大きな柱にしています。

 企画だけやって(製造は)手慣れている人に預けた方が、もっといい物ができるかもしれません。ただ、例えば「246」では、自分たちでカギを分解してカギの構造を理解し、アクリル板でテスト版を作り、3Dプリンターで作るといったことを繰り返してきました。そうすると、自分たちの中に知識も内包されていくし、人にやってもらうと分からない要素もある。少なくとも最初、一巡目を回すところまでは、全部自分たちでやりきらないと、物作りはできないと思うんですよね。

 スタートアップの領域は、新しいことが散在しながらも立ち上がっているので、どこか1点を集中して見ていればキャッチアップできるわけでもなく、目がここらへん(頭の横)にある感じ。集中はしているけど、次に何が動くかに意識を張って、自分たちが手を出せると判断したら、やっていく。それがブルーのミッションでもあります。

―― 社名「ブルー」の由来についても教えてください。「レッドオーシャン」の反対で、ほかがやっていないことを切り開いていくといった意味があると聞いたことがあります。

吉羽氏 僕たちがやっていることが面白ければ、その名前の価値は後からついていくものだと思っています。その中でも「ブルー」を選んだのは、今おっしゃったブルーオーシャン、新しいことにチャレンジすることが、この会社の精神性だったりするので。電通は116年の歴史がありますが、僕たちは生まれたばかりの会社で、やんちゃをしますという意味合いを含めて「青二才」みたいな言い方もします。

 あと、日本を代表するチームはなぜかブルーという印象があります。電通を代表しているなんておこがましいことはないですし、「電通だから」という気はことさらないですが、何かしら背負って責任感を持ってやるという意味も含めています。

「吉羽とやると面白そうだ」と思う人たちが集まっている

―― 電通ブルーでは、どういう人を登用しているのでしょうか。

吉羽氏 今いるメンバーでいうと、「吉羽とやると面白そうだ」と言って、起業した会社をたたんでジョインしてくれた人や、スタートアップ界隈の立ち上げをやっていた人です。僕が人を取るときは「心とスキル」を見ます。なかなか両方そろった人は難しいし、「こいつすごい」と思う人は、すでにそれなりの立場にいますね。

 心のベクトルが正しい方向を向いくれていれば、「1年後はこうなるだろうな」「この人だったら育てたいな」という期待値で採用することもあります。

 永続的に物を作れる組織体でありたいと思っているので、いろいろな才能や嗜好(しこう)性を持っている人たちを集めたいんですけど、そうなると心がバラバラになるので、「吉羽の言っていることに一定の解があるよね」と、理解してくれる人たちに集まってもらっています。

イノベーションは「人々の考え方、行動規範、概念を変えること」

―― 電通ブルーとして最初にリリースした製品が「246」ですが、これを作ろうと思ったきっかけは?

photo スマホからカギの解錠ができる「246」。電通ブルー社内のロッカーでも使われている

吉羽氏 246は、2年半くらい前に海外出張の飛行機の中で、もやっとたまっているビジネスアイデアを可視化していく中で生まれたものです。今後、デジタルはディスプレイの中から外に出ていくと思うんですね。スマートフォンはPCの代替機ではなくて、人間の頭や能力を拡張するツールのはずなので、スマートフォンがリアルの機械と人間をつなぐハブになっていくんだろうなと漠然と思っています。

 極端にあまり使わないもののデジタル化が始まるんじゃなくて、役割、ニーズがあるものから始まっていく。そのとき思ったのは、カギはどれだけアナログなのかと。このカギを完全にデジタル化できれば、ユーザーの体験が変わる。イノベーションの定義は、技術革新ではなくて、人々の考え方、行動規範、概念を変えることだと思うんですね。

 カギというアナログのものをデジタルにするだけで、誰が家に帰ったかをトラッキングできます。カギ1つ渡すのでさえ、会わなきゃいけないところを、ネットワーク的に渡す方が楽だし、これは人々の生活を変えるイノベーションの源泉になるような領域だと思ったんです。

 あとはどう作っていくか。スマートロックができれば、電機屋さんでも売れ、商流の変化も起きるだろうなと。カギは人の命にも関わるので、電池の問題も考えました。人間の静電気で発電するようなものなど、いくつか試そうとしましたが、コストやモーターを動かす電力が担保できないという課題があります。そうこうしている間に、海外でも僕の考えたものに近いものがキックスターターで出てきたので、これは時間がないということで、開発、販売に踏み切りました。

―― 実際の反響はいかがでしょう。

吉羽氏 インターネット販売をしていて、店舗開拓もしていこうと考えています。露出が少なく、「こういうふうに使うと便利ですよ」という提示をし切れていないのが、僕たちの至らない部分ですね。そのあたりも少しずつできていけば、多くの人に使ってもらえると思います。

―― すでに今後のモデルの着想もあるのでしょうか。

吉羽氏 「モデル」と言ってしまうと……。僕らは南京錠を売っている感覚はないんですよ。あくまでも新しいイノベーションの1つを可視化したに過ぎません。すごい抽象的な言葉で言うと、アナログの世界をデジタルで「管理」する。それがこの事業のドメインです。

―― 「管理」は1つのキーワードになる。

吉羽氏 キーワードですね。入場ゲートも同じプラットフォームで実現できるでしょうし、ロッカーや家の鍵だろうが、アナログで管理していたものをすべてデジタルで管理し直す。課金にも入っていけるでしょう。

「電通」の名前には全くこだわりがない

―― 今、注力している、または今後注力していきたいジャンルの製品はありますか?

吉羽氏 適当なことを言うと、ノベルティとかでよく「ガチャガチャ」ってあるじゃないですか。今までは塩ビで作られているゴムや単なる機械だったガチャガチャも、ネットワーク性を持ったIoTに変わっていくんじゃないでしょうか。

 そういったことを相談できるところがあるのかというと、すごい少ないんです。とても小さな組織や機械屋さんだと、マーケティングやユーザーサイドの使い勝手、企業の文脈が分からない。僕らはそれらを理解したうえで、IoTのプロダクトラインをちゃんと持った会社として、みんなのよろず相談所になれればと思います。

 最初に相談すべきところになれるよう、思想設計、製造設計、製造管理を全部できるような体制作りをしています。

―― 電通ブルーの名前を出すこと自体にはこだわりがないと。

吉羽氏 全くこだわりがないですね。

―― 自分たちが作ったものが世に出て広がれば、ブランドは何でもいい。

吉羽氏 何でもいいです。ただ、作ったものを「これすごくね?」と自慢はしたいんですよ。自分の出したプロダクトに対する自信や自己顕示がないものは、受け仕事でしかないので。

―― でも、電通という名前で信頼されることもありますよね。

吉羽氏 それはありますね。電通ブルーは「やんちゃ」と言いながらも、質感の担保をしないといけないので、僕らのアウトプットは高いと思います。

―― クオリティを担保するうえで工夫していることはありますか?

吉羽氏 設計と製造ができる人材が集まっていることが大きいですね。設計品質と製造品質は違うじゃないですか。(ほかの企業では)できないことを着想して可視化して、持てる形で提示することが一番の強みだと思っています。企画だけで終わる会社も世の中にいっぱいありますけど、ちゃんと作れる環境まで内包しているのがブルーです。

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