LINE MUSICやApple Musicにない強みとは――ドコモの定額音楽配信サービス「dヒッツ」の戦略石野純也のMobile Eye(7月21日〜31日)(1/2 ページ)

» 2015年08月01日 12時37分 公開
[石野純也ITmedia]

 「LINE MUSIC」「AWA Music」など、日本では立て続けに定額の音楽配信サービスが登場し、話題を集めている。これらはストリーミング形式で音楽を配信するサービスで、従来型のものとの大きな違いは、定額料金を払えば、音楽が聴き放題になる点にある。購入ではなく、楽曲を聞く権利のサブスクリプション(定期購読)と考えれば理解しやすいだろう。海外では「Spotify」が人気を集めているが、ここに、膨大なデバイスを販売するAppleが、OSと密接に連携を取った形で「Apple Music」を開始させた格好だ。Apple Musicは日本でも利用可能となり、LINE MUSICやAWA Musicと三つ巴の戦いを繰り広げている。

 続々とサービスが始まり、注目を集めている定額の音楽配信サービスだが、一方で、日本市場を見渡すと、これらのサービスに先行しているプレーヤーもいる。代表的なのが、ドコモの提供する「dヒッツ」だ。dヒッツは、もともと「MUSICストア(現・dミュージック)」内のコンテンツの1つとして始まっており、当初は「MUSICストア セレクション」と呼ばれていた。このブランドをdヒッツに改めて、機能にも磨きをかけていった結果として、現在では会員数が300万を突破。ほかの定額音楽配信サービスより、一足早く“成果”を出している。

photo 300万ユーザーを突破したドコモの「dヒッツ」

 このように数字は伴っているものの、課題もある。マインドシェアの低さは、その1つだ。LINE MUSICやAWA Music、Apple Musicが登場した際も、dヒッツまで含めて比較するメディアは少なく、ネットを見渡す限りでは、300万会員突破というニュースも意外感を持って受け止められている。記録には残っているが、記憶には残っていないサービスともいえるだろう。では、dヒッツが定額の音楽配信市場で存在感を発揮していくには、どうすればいいのか。dヒッツが成功している理由とともに、今後の展開を追った。

photo 横ばいだった期間もあったが、今はユーザー数も拡大傾向にある

充実したコンテンツと必要十分な機能を見極め、価格の安さを打ち出す

 dヒッツは、ほかの定額制音楽配信サービスと大きく異なる点がある。他社はストックされた楽曲の中から、ユーザーが好きなものを自由に選び、プレイリストを作成できるのに対し、dヒッツは「ラジオ型」と呼ばれるものに近い作りになっている。ラジオ型とは、サービス提供側が用意したプログラムに沿って、音楽を聴く形のスタイル。ユーザー側の楽曲選択がある程度制限されている代わりに、「(レコード会社との)許諾がラジオ型になるため、楽曲のラインアップが充実させられる」(ドコモ コンシューマビジネス推進部 部長 前田義晃氏)のが特徴だ。

photophoto 200万曲の楽曲の中から、プログラムに沿って音楽を聴く「ラジオ型」の側面が強いサービス(写真=左)。dヒッツなどのコンテンツサービスを率いる、ドコモの前田氏。写真はインタビュー時のもの(写真=右)

 これは、レコード会社が、プロモーションの一種と見なしているため。一番のメリットとして挙げられるのが、国内メジャーアーティストの楽曲が、ズラリとそろっていることだ。ドコモと共同でdヒッツを運営するレコチョクの執行役員 板橋徹氏によると、同社がアラカルト型で提供する上位300アーティストのカバー率は、85%になるという。ほかの定額音楽配信サービスが55%程度の中で、これは頭1つ抜けた数字といえるだろう。レコチョクで配信する上位300アーティストということは、主に邦楽でトレンドにも合ったものだ。

photophoto レコチョクの板橋氏によると、人気のある邦楽のカバー率が高いという特徴がある
photo 名前こそ伏せられていたが、「LINE MUSIC」や「AWA Music」「Apple Music」より、トップアーティストの楽曲数は多いという

 プロモーション扱いになることで、価格も引き下げられる。dヒッツには2つのコースがあり、安い方が300円、より高機能な方が500円となっている。1000円前後するほかのサービスと比べれば、価格の安さが際立っている。機能限定で価格も安い。つまり、dヒッツはライト層向けのサービスということだ。

 「奇をてらったサービスではなく、いわゆるライト層といわれる方々がとっつきやすいものにした。ハードルの低いサービスを提供することで、市場が広がり、活性化することを狙って始めている。個別の楽曲を買うと、300円、400円してしまう。もう少し低価格で、手軽に音楽を楽しみたいニーズに応えていきたいと思った」(前田氏)

photo 一般的に、オンデマンド性が高くなればなるほど、価格は高くなる

 安さにこだわったのは、フィーチャーフォン時代から音楽配信サービスに取り組んできた経験があったからだ。前田氏は、かつてドコモが定額音楽配信サービスの「Napster」を開始したときのことを振り返りながら、「過去にはNapsterのようなサービスも提供してきたが、1000円を超えてしまうと、それほど大きく契約数が跳ねない。お客様の選択肢になりづらいということを、経験値から感じている」と語っている。

photo 洋楽中心で1000万曲をラインアップしていたNapsterだが、会員数は伸びず、2010年4月にはサービスを終了している

「オンデマンド型」と「ラジオ型」の中間に位置する「ハイブリッド型」

 とはいえ、いくら楽曲が充実していて価格が安くても、好きな楽曲を好きなときに聴けないのでは、ここまで大きなサービスには成長しなかっただろう。こうしたユーザーのニーズに対し、dヒッツはラジオ型とオンデマンド型の中間である「ハイブリッド型」という形を採用した。ハイブリット型をうたう最大の理由は、月に10曲までの楽曲を「myヒッツ登録」できるところにある。myヒッツ登録とは、「オンデマンドで好きな楽曲を、好きなときに聴ける機能」(前田氏)のこと。月に10曲まで登録でき、年間だと120曲のプレイリストができあがる。登録枠は半年間持ちこせるため、例えば5カ月間は登録せず、6カ月目に60曲を登録するといったこともできる。

photophoto
photo マイヒッツに楽曲を登録していけば、自分の好みのプレイリストを作成できる。この点が、ラジオ型ながらオンデマンド性も持っているゆえんだ

 このmyヒッツ登録は、「(iモードにあった)デジタルコンテンツのポイントのような感覚で導入した」(前田氏)という。フィーチャーフォン時代には、月額料金に対してポイントが付与され、それを使って好きなゲームや音楽などのコンテンツを購入できる「公式サイト」が一般的だった。myヒッツ登録も、それに近い機能として位置付けられている。「楽曲購入だと(平均で)月に2、3曲といったレベルだったが、そこと比べると十分な数」を用意している。

 もともと、myヒッツへの登録は月3曲までだったが、2014年12月に10曲に増加させたことが功を奏し、一時は伸び悩んでいた契約者数も、再び増加に転じる。無料期間を31日に伸ばしたことも、dヒッツの成長には一役買っているようだ。

 もちろん、ドコモの販路を利用できるのも、契約者数がここまで伸びた大きな要因の1つだ。前田氏によると、店頭での獲得率は約9割。「インターネット経由で入っていただくことも強化していきたいが、それ以上にリアルな接点が多い」という。ドコモショップや併売店では、端末購入時にdヒッツの加入を勧めている。ショップによっては、サービスに1つ加入するごとに数百円程度の割引をつける施策も行っている。こうした販促活動も、今のユーザー数を支える背景にある。

 ドコモは各種サービスをマルチキャリア化しているが、dヒッツは「他キャリアの割合は実際一番低い」(前田氏)。一方で、「ドコモユーザーだけだとやはり限界はあり、ほかも取り込んでいきたい」(同)といい、他キャリアユーザーの取り込みは、今後の課題といえる。

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