総務省は11月7日、「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」の第3回を実施した。
フォローアップ会合は、携帯電話市場の競争促進と健全化を目的に総務省が行った政策の効果を追跡(フォローアップ)した上で、同省に対して今後の政策に対する提言を行う目的で設置された。追跡対象の政策は以下の4つで、後三者は「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」における提言を受けて実行されたものだ。
10月13日の第1回会合では、大手携帯電話事業者(NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク:以下「MNO」)と全国携帯電話販売代理店協会(NAMD)からのヒアリングとそれにもとづく討議を行った。また、間を空けずに10月17日に行われた第2回会合では、MVNO(仮想移動体通信事業者)を代表してインターネットイニシアティブ(IIJ)とケイ・オプティコムからヒアリングとそれにもとづく討議を実施した。
そして、今回の会合では、過去2回の会合の内容を踏まえた「取りまとめ案」を討議した。果たして、どのような「取りまとめ」が行われたのだろうか。
2015年12月に行われた要請をもとに、MNOはデータ通信量の少ない人向けのデータプランや長期契約者向けの料金割引・優待プログラムの拡充を行ってきた。一方で、より低廉な料金プランを持つMVNOの通信サービスも普及してきている。
とりまとめ案では、今後の料金の低廉化はMNOとMVNOの公正な競争を加速させていくことによって促すことが効果的であるとし、利用者がより自由に通信サービスや端末を選択できるように以下の3点について環境整備が必要であるとした。
また、過去の会合で「利用者がより適切な料金プランを選択できるようにすべき」という意見が出たことを踏まえて、利用者の知識や経験、契約の目的に合ったプランを選択できるように適切な説明を行うことも提言に含めている。
なお、接続料の適正化については、この会合とは別に設置されている「モバイル接続料の自己資本利益率の算定に関するワーキングチーム」において検討が進められている。
現行の「SIMロック解除に関するガイドライン」では、MVNOを含む携帯電話事業者が2015年5月以降に発売した端末について、利用者が「SIMロック解除」を要求したら原則として応じる義務を課している。
一方で、不正契約による端末の詐取を防止する観点から、事業者側が「必要最低限の措置」を行うことも認めている。そのことから、MNOではSIMロック解除に応じない期間を6カ月または180日間に設定したり、解約後の端末や中古端末について解除可能期間に制限を設けたりしている。
とりまとめ案では、「必要最低限の措置」について、SIMロック解除に応じない期間を6カ月(180日)よりも短い合理的な理由が認められる期間とすることと、自社ネットワークを利用するMVNOに制限をかけるSIMロックは措置に該当しないことをガイドラインで明確化するように求めている。
期間制限の緩和については、具体的に「3カ月」といった期間が挙がっている。これは、端末を分割払い(割賦)で購入した場合に初回の代金支払いが確認できるまでの期間だ。端末の詐取では、割賦の初回支払いすらしないケースが大半であることから、期間を半分に短縮しても「合理的」であるとの判断だ。
この点について、会合の構成員から「一括払いの購入者に対してSIMロックをかけることには合理性がない」として、端末を一括払いで買った場合にSIMロックを即時解除できるように促す提案もあった。これに対して、取りまとめ案を作成している総務省の担当者は、合理性のなさは認めつつも、端末購入者の大半が割賦を利用している現状もあるため、「(SIMロックの即時解除に)どのくらいのニーズがあるのかを見て(取りまとめに含めるか)検討したい」とした。
MVNOに対する制限をかけるSIMロックに関する提言は、事実上KDDIやソフトバンクを“狙いうち”している。
現状、詐取端末に対しては、MNOが端末のIMEI(製造番号)単位でネットワーク側での利用制限を実施している。この制限は当該MNO回線を利用するMVNOでも同様に有効であるため、「債権保全の観点から非常に強力な手段」(総務省担当者)となっている。
その上で現在、例えばauのVoLTE対応端末では、自社回線を使うMVNOであってもSIMロック解除をしないと使えないようにしている。端末詐取対策としてIMEIによるネットワーク制限が有効に機能していることから、このような「MVNOロック」措置は「必要最低限の措置」を超えている、という判断だ。
ただし、IMEIベースのネットワーク制限は、別のMNOのネットワークの下にいる場合に反映されない可能性がある。そこで、携帯電話事業者間での債務不履行(詐取)端末の情報共有を行うことも合わせて提言されている。
その他、SIMロック解除に関連する提言として、SIMロック解除のニーズが明らかな利用者に対する柔軟な対応、解約時に原則としてSIMロック解除に応じるか、応じない場合にも解除条件や手続き案内を行うこと、SIMロック解除後に自社回線のMVNO、あるいは他社回線で利用する場合の機能制限を極力なくすことなども盛り込まれている。
「実質0円」販売が問題視された端末購入補助では、4月1日から適用されたガイドラインによって一定の制限が設けられた。このガイドラインはスマホを対象としており、契約種別(新規・MNP・機種変更)や機種によって著しく異なる端末購入補助を是正し、利用者の負担が合理的な額となるよう端末購入補助を縮小することを求めている。
具体的には、毎月の利用料金からの割引、端末代金の直接値引き、キャッシュバック、商品券、ポイント還元など、スマホの購入を条件に「経済上の利益」を得られる施策について制限を求めている。ただし、いわゆる「型落ち端末」の在庫処分、通信方式(3G→LTE)や周波数帯移行に伴う機種変更、卸売り価格が3万円(税別)未満のスマホではガイドライン上の制限が緩和、または適用されないことになっている。
とりまとめ案では、販売代理店が受け取る通信契約奨励金(インセンティブ)をガイドライン上の「端末購入補助」に含めること、通信方式の変更を伴う機種変更について、自社内だけではなく他社へのMNPも対象に含めること、廉価端末・型落ち端末にガイドラインを一部適用すること、高価格端末に対する「合理的な額の負担」の判断基準の充実を求めている。
インセンティブは、「週末(土日)限定」のように期間限定で短期的に増額されることが多く、MNPはとりわけ増額幅が大きくなりやすい。販売代理店では、これを原資として端末代金の割引など契約者への還元を行うこともあるため、ガイドライン上の「端末購入補助」と見なすべきとの考え方に立っている。
「通信方式の変更を伴う機種変更の対象」に他社へのMNPを含めることは、公平な競争環境の構築とスマホの利用促進を目的に盛り込まれた。通信方式の変更の確認は、移行前の事業者での契約内容を確認できる書類の提出で行うとしている。この点について、一部の構成員からは「現在は(契約内容を確認しやすい)紙の請求書・領収書を原則発行していない。契約の確認方法について、事業者間協議が必要ではないか」との指摘が出た。
廉価端末・型落ち端末については、「ガイドラインを全く適用しないこととするのは利用者間の著しい不公平につながる」(総務省担当者)上、「安い端末であるからといってキャッシュバックを大量に付けることはガイドラインの趣旨に反する」(同)ことから、ガイドラインの一部適用を求めることにしたようだ。
高価格端末については、現在は24カ月間の利用で実質1万円程度となる機種が多くなっている。そのため、実質数百円の廉価端末・型落ちの販売が困難になっているという観点から、「合理的な額の負担」となるように実質価格を値上げするように促している。この「合理的な額の負担」について、一部の構成員から「割引額と(MNOの)端末下取りサービスでの下取り額の合計が端末価格を超えないようにすればいい」という提案もあった。
今回のフォローアップ会合では、このガイドラインをMVNOにも適用するかどうかが1つの焦点となった。この点については、テレコムサービス協会のMVNO委員会がMVNOを代表して以下のような趣旨の意見を寄せた。
この意見における「MNOのサブブランド的な一部のMVNO」は、KDDIの子会社であるUQコミュニケーションズやジュピターテレコム(J:COM)と、沖縄セルラー電話の子会社であるUQモバイル沖縄のことを指しているものと思われる。UQコミュニケーションズとUQモバイル沖縄が運営するMVNOサービス「UQ mobile」は、親会社を背景として有利に事業を進めているのではないかと一部のMVNOから指摘されている。MNOの子会社が展開するMVNOサービスのガイドライン上の扱いは、今後の焦点になりそうだ。
今後、今回の会合で出された取りまとめ案に構成員から出た意見を反映した「取りまとめ」が総務省に報告される。
これを踏まえて、総務省では関連する省令やガイドラインの修正に着手することになる。修正案は総務省のWebサイトで公表の上、一般個人・法人から案に対する意見(パブリックコメント)を募集する。そして、寄せられた意見とそれに対する総務省の見解を公表した上で、正式に省令・ガイドラインの改正を行うことになる。
具体的なスケジュールは示されていないが、総務省令・ガイドラインの改正案は年明けには出されるものと思われる。
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