ワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」は、Cintiqシリーズの中でも特に取り回しのよいコンパクトモデルだ。2007年に登場した「Cintiq 12WX」の後を担う待望の製品で、ディスプレイの大型化や高解像度化を図っているにもかかわらず、ボディはより小さく、薄く仕上がっている。
価格についても、ワコムストアで9万9800円と、シリーズの中では最も安価に設定されている。それもあってか、発売直後は量販店のディスプレイ売上トップ10にも入るなど、液晶ペンタブレットとしてなかなかよい反響を得ているようだ。今回はそんなCintiq 13HDを借りるチャンスを得たので、実際に漫画やイラストの制作作業に使ってみた。
Cintiq 13HDを箱から取り出してみると、何よりもまず、「Intuosか?」と見紛うほど小さいボディサイズに驚く。Intuosのラインアップで最もベーシックなのはおそらくMサイズモデルだと思うが、Cintiq 13HDのサイズ感はこれとほぼ同等。それでいて、ペン入力を受け付けるエリア(=液晶画面)はIntuosのMサイズのそれよりも広い。
ケーブル類の取り回しはUSBケーブル1本で済むIntuosに分があるが、かつての「Cintiq 12WX」と比べれば、コンバータボックスがなくなったうえに、ACアダプタも小さくなり、大幅に改善されている。また、ボディの重さについても「Intuosより少し重いかな」といった程度の印象で、例えばひざの上にヒョイっと置いて使うのも楽チン。こんなにお手軽に液晶ペンタブレットを使えていいのかな、という感じだ。
ちなみに、ケーブルの映像端子はHDMIなので、HDMI端子を備えていないPCと本機をつなぐ場合には変換アダプタを自分で用意する必要がある。読者の中にはMini DisplayPortを採用したMacを使っているユーザーもいると思うので、「さあ使うぞ!」となってからアダプタを持っていないことに気がつくと結構ショックなので気をつけよう。
さて、12WXは背面にスタンドを内蔵していたが、13HDではスタンドが着脱式になっている。スタンドを使うには、本体の背面に設けられた溝にスタンドをはめ込むという一手間が必要で、チルト角度を頻繁に変更するような人には少しわずらわしいかもしれない。
筆者は今回、スタンドは外して本体だけで使うことにした。トレース台の上などに置いて使えばある程度の角度は付けられるし、スタンドを使わない状態では簡単に本体を回転させられる。そのため、ソフト側のキャンバス回転機能などをいちいち使わなくても、好みの角度から線が引けて便利だ。せっかく取り回しがいいデバイスなので、このメリットはぜひとも活用したい。
13HDは、13.3型フルHD(1920×1080ドット)のディスプレイを採用しており、12WXの12.1型WXGA(1280×800ドット)からサイズ、解像度ともに向上している。特に画素ピッチが0.15×0.15ミリと、さらに高画素密度化しているのがウレシイ。表示が細かくなったことでグラフィックソフトウェアのコントロールパネルなどが従来より場所を取らなくなり、キャンバスを広く確保できる。また、表示がなめらかなので、より紙に近い感覚で気持よく線が引けた。
液晶はIPS方式で、斜めの角度から見ても色が変わりにくい。ノングレア処理が施されていて、蛍光灯といった光源さえ反射しなければ、映り込みで気が散るようなこともなさそうだ。液晶画面のガラス部と表示部との距離に起因する視差も比較的小さく抑えられており、イメージ通りの線を引ける。画面の端に近づくと若干の視差を感じるものの、普段の作業で気になることはないだろう。
13.3型というディスプレイサイズは、使い始める前は「本気で作業するには小さすぎるんじゃないかな」と思っていた。しかし、使ってみるとそこまで狭さを感じない。細かい描きこみもしやすく、紙のように画面を回して線が描ける便利さも相まって、サクサクと制作を進められた。原稿の全体を表示するような際にはもうちょっと大きい画面がほしいところだが、それはほかの確認用ディスプレイなどにまかせればいいかなぁという感じだ。
また、画面が小さいからこそのメリットも、使ってみると分かってくる。可搬性の高さはもちろんだが、周辺機器の設置自由度が高くなるのも見逃せない。狭い設置環境で無理をして大きい液晶ペンタブレットを導入すると、周辺機器を使いやすい位置に配置できず、作業効率が下がってしまう恐れもある。筆者の机はあまり大きくはないのだが、13HDであれば確認用のディスプレイやキーボード類も余裕をもって配置できた。
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