「残念仕様」はこうして隠される――PC周辺機器コストカットの手口牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)

» 2014年01月20日 15時00分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]
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その2:すでに設計が完了している製品の原価を下げる場合

 さて、これから製品を開発設計する段階ならまだしも、すでに設計が完了していたり、出荷中の製品の原価を下げなくてはいけない場合、取れる施策は限られてくる。何より、市場の在庫と比較してスペックが変わるのはNGというのが難しいところだ。どちらかというと、各社の経験値、担当者個人の経験値がモノを言う場面でもある。

 まず1つは「生産工程を減らす」というものだ。具体的には、バリを取らない、洗浄しない、抗菌加工しないといった、部品に対する処理を減らすことを指す。例えば事務用品の指サックは、100円ショップで買うと露骨にゴム臭がする場合がある。これは洗浄の工程を省くことで、コストを低減しているわけだ。見た目は同じなので、パッケージに入っている状態では違いが分からないのがミソである。

 このように、外見で見分けがつかないコストダウンというのはほかにもある。中でもボディの塗装でよくあるのが、コート加工を行わない(もしくは何段階かに分かれている過程を一部省略する)というものだ。これによって塗装の耐久性がなくなり、しばらく使っているとハゲ始めるわけだが、それはしばらく使ってから分かることであり、新品の状態で見比べると区別がつかない。

 こうしたコストダウンを行った場合、よく見ると新旧の製品で光沢の具合が違っていたりするのだが、一般のユーザーは同じ製品の新旧ロットを手に取って見比べたりはしないので、バレることはまずない。もっとも、たまに高品質な旧仕様の製品が店頭サンプルとして残っていて、コストダウン後の仕様との違いが突っ込まれることもある。

 もう1つよくあるのが「不良の基準を下げる」というものだ。従来基準であれば不良品として除外していた部品を、良品としてそのまま通してしまうという技である。さすがに大手のメーカーではこの手の話は聞かないが、中小以下のメーカーであれば、ロットアウトする個数が多いとそれらはすべて製品の原価に上積みされるため、ひとまず良品として検品を通し、もし出荷後に不良と訴えられたら交換する、という技を使う。

 これらいわば“敗者復活組”は、あからさまな不良ではなく、若干のヒケ(プラスチック素材の成形時に生じるへこみ)があるとか、あるいは塗料の調合が微妙に異なっていて本体色の色合いが微妙に異なっているとか、そうした「明確に不良と分かるような不具合ではない」のがミソである。これに関連したところでは、摩耗した金型をそのまま使い続けるというのも、1つの技である。

 そして、ユーザーにとって影響が大きいのが、人件費絡みの削減である。これは間接部門の経費もすべて製品の原価に直接乗せているメーカーでよく行われる手法で、具体的には電話サポートを廃止してメールサポートのみに絞るといった施策がこれに当たる。長い目で見れば自社の評判にじわじわと響いてくる可能性はあるが、ここまで見てきたように、どれもその場しのぎのコストダウンであるため、数年後の自社の評判などは誰も気にしていないのが実情だ。

 よく似た例としては、海外の取り売り製品で、ドキュメントやヘルプを訳さないというのも、翻訳の外注費などを削った結果である。

コストダウンのノウハウはメーカー内で共有される

 以上のようにコストダウンにはさまざまな方法があるが、これらコストダウンは会社レベルで必要に迫られて行われることがほとんどで、そのノウハウはメーカーの中では共有される傾向にある。したがって、自分にとってはどうしても耐え難いコストダウンの跡をある製品で見かけたら、そのメーカーの製品はどれも同じレベルでコストダウンを行っているものと疑ってかかるのが得策といえるだろう。

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