2015年に発売された製品の中から、PC USER編集部が最も注目した一品を取り上げるアワード企画。ノートPC部門はクラムシェルノートと、タブレットへの変形機構がある2in1ノートが対象だ。
ただし、Surfaceシリーズのようなカバーキーボードやキックスタンドを採用し、クラムシェルノートのスタイルにならない機種は省き、タブレット部門に入れている。また、キーボードからポインティングデバイスを省いているような2in1デバイスもノートPCとして不十分な構成なので対象外とした。
数あるノートPCの中から“ベストチョイス”に選出したのは「VAIO S11」だ。
理由は大きく2つある。
まず、VAIO S11で特筆したいのが、「LTE搭載モバイルノートPCの普及を本気で仕掛けたい」というVAIOの志だ。SIMロックフリーLTEモデムを搭載し、ノートPC本体は高すぎない価格レンジに収めるよう工夫、そしてNTTコミュニケーションズと共同でPCモバイルデータ通信に最適化した格安SIMプラン「VAIOオリジナル LTEデータ通信SIM&特別料金プラン」(以下、VAIO SIM)まで用意している。
従来のLTE搭載モバイルノートPCはハイスペックモデルに限られ、これに通信キャリアのLTEデータ通信契約を加えると、2年間で30万円以上のコストがかかるのも普通だった。昨今は2in1やWindowsタブレットでもSIMロックフリー対応製品が増えつつあるが、プロセッサがAtomやCore mの製品が多く、価格は抑えめでも性能もそれなりと言える。
その点、VAIO S11は第6世代Core i搭載で高性能な堅牢モバイルノートPC本体にVAIO SIM(2年)を加えても、2年間で約15万円までコストを抑えることが可能だ。しかもVAIO SIMには、200kbpsの常時接続モードが期間内使い放題、最大150Mbpsの高速通信モードは月々のデータ容量上限も期限切れもなく規定容量(1年で32GB、2年で64GB、3年で128GB)までまとめて利用可能、買い切りのプリペイド式で更新・解約は不要という特徴があり、既存のスマートフォン向けプランに比べてモバイルノートPCで使いやすい。
また、SIMロックフリー仕様なので、VIAO SIMに限らず、他のMVNOが販売する格安SIMと組み合わせられるのも見逃せない。VAIO SIMは国内専用設計によって多くの格安SIMが使用するNTTドコモのバンドを幅広くカバーし、4G LTEはBand 1、3、19、21のクアッドバンドに対応(下り最大150Mbps/上り最大50Mbps)、3GはBand 1、19に対応するのだ。
ここで「PCにLTEモデムがなくても、スマホのテザリングやモバイルルータでいいのでは?」と思うかもしれないが、LTE搭載ノートPCを使ったことがあればその価値は実感していることだろう。外出先でノートPCの天板を開くと、すぐにネットが利用可能になる快適さは、接続に一手間がかかるテザリングやモバイルルーターと大きく異なる。スマホのデータ通信容量やバッテリーを圧迫することなく利用でき、モバイルルーターを一緒に携帯するよりスマートに使えるのだ。コスト的にもVAIO S11は割高感がない。
VAIO S11はノートPC本体もしっかり作り込まれている。13.3型タフモバイルノートPC「VAIO Pro 13 | mk2」譲りの堅牢設計、13.3型ハイエンドモバイルノートPC「VAIO Z」譲りの放熱設計や静音キーボードなど、VAIOが長年培ってきた技術が盛り込まれているのだ。
性能面も文句がない。VAIOとしては初めてCPUに最新の第6世代Core i3/i5/i7(開発コード名:Skylake)を採用し、ストレージはPCI Express 3.0 x4対応のM.2型SSDを選択可能で、Thunderbolt 3(最大40Gbps)兼用のUSB 3.1 Type-C(最大10Gbps)といった先進的なインタフェースも搭載する。11.6型フルHD液晶ディスプレイは高輝度で色鮮やか(sRGB相当の色域)、低反射コートにより画面の映り込みが抑えられていて見やすい。
その一方で、日本のビジネスシーンで使いやすいよう、1000BASE-Tの有線LANやアナログRGB(D-Sub)といったモバイルPCで省かれがちなポートを搭載し、2基のUSB 3.0(1基は電源オフ給電機能付き)や、フルサイズのSDメモリーカード(SDXC/UHS-II対応)も装備しているのは好印象だ。
VAIO S11はスタンダードノートという位置付けの製品で、薄型軽量やデザインを最優先していたり、2in1の変形機構を備えたりはしていない。そのため、VAIO Zに比べて地味な印象を受けるが、堅牢性や使いやすさにはこだわりが感じられる。ボディを金属ではなくあえて強化樹脂にして、電波の感度向上とコストダウンに配慮している点は、製品コンセプトに合致した選択であり、実用重視の提案として理解できるところだ。
もちろん、VAIO S11があらゆる面でパーフェクトとは言わない。コンパクトな11型クラスのモデルということで、キーボードのキーピッチがやや狭い点(キー配列は自然)、タッチパッドのボタンが独立していない点(高精度タッチパッドの使い勝手は悪くない)など、細部に気になるところはある。アルミニウムやカーボンといった素材を用いた、よりスタイリッシュな外観の製品もある。
とはいえ、モバイルノートPCに求められる先進性なスペックと運用時の使いやすさ、それらを具現化するためのハードウェアとサービスをうまく融合した点、作り込んだボディとスペックの割に高すぎない点(税別11万4800円から)、そして今後の国内PC市場に向けた新たな提案までなされている点を高く評価し、今回はVAIO S11を選んだ。
最後に余談だが、スマートフォンやタブレットが一般に普及し、ビジネスシーン以外では、ノートPCが不要なシーンは着実に増えている。そうした中でノートPCに求められる要件は、タブレット+カバーキーボードを確実に上回るキーボードとポインティングデバイス、生産性をより高められるパフォーマンス、屋内外のモバイルシーンでタフに使えるボディの信頼性といった、基本の部分ではないだろうか。
2015年はWindows 10がリリースされ、Windows 8/8.1でタッチ操作に偏っていたユーザーインタフェースを、デスクトップモードではWindows 7に近い使い勝手に戻してきた。つまり、それに伴い伝統的なクラムシェルノートPCの価値も再び発揮しやすくなった状況と言える(Macはそうした点でブレておらず、着実に進化している)。
タブレットとしてもノートPCとしても使える2in1がトレンドであることは間違いないが、文字入力を中心に生産性を高めるためのツールとして、2016年はより優れたクラムシェルノートが登場し、SIMロックフリー対応モデルが増えることを期待したい。
製品名 | メーカー | 選考理由 |
---|---|---|
新しいMacBook | アップルジャパン | 洗練された新設計の薄型軽量ボディ、USB Type-Cに端子を集約 |
EeeBook X205TA | ASUS JAPAN | コストパフォーマンス抜群の小型軽量2in1ノート |
LAVIE Hybrid ZERO | NECパーソナルコンピュータ | 約779グラムと13型クラスで圧倒的な軽量ボディ |
ALIENWARE 17 | デル | 4K+第6世代Coreなど最新仕様、重厚ボディ、外付けGPUユニット |
XPS 13 | デル | 狭額縁のカーボン+アルミボディ、第6世代Coreなど最新仕様 |
XPS 15 | デル | 15型最小の狭額縁ボディ、広色域の4K液晶、第6世代Coreなど最新仕様 |
dynabook RX82 | 東芝 | 作り込まれた着脱機構、優れた筆圧ペン、第6世代Coreなど最新仕様 |
HP EliteBook Folio 1020 G1 Special Edition | 日本HP | 約1キロのマグネシウムリチウム合金+カーボン堅牢ボディ |
HP Spectre 13-4100 x360 Limited Edition | 日本HP | 洗練された堅牢な2in1ボディ、第6世代Coreなど最新仕様 |
Star Wars Special Edition Notebook | 日本HP | スター・ウォーズとコラボしたボディデザインと付録データ |
VAIO Pro 13 | mk2 | VAIO | ビジネス仕様の端子+堅牢ボディの13.3型ノート |
VAIO S11 | VAIO | SIMフリーLTE+独自SIM、第6世代Coreなど最新仕様で堅牢な小型軽量ボディ |
VAIO Z | VAIO | TDP 28ワットのCore i7などハイエンド仕様、独自の変形機構、優れた筆圧ペン |
Let'snote SZ5 | パナソニック | 光学ドライブで1キロ切りの堅牢ボディ、ビジネスに最適化した仕様 |
NEXTGEAR-NOTE i5710 | マウスコンピューター | ハイブリッドGPU/外部GPU固定の切り替えが可能なゲーミングノート |
ThinkPad X1 Carbon Japan Limited Edition | レノボ・ジャパン | 限定500台のカーボン柄+シリアルナンバー入りモデル、米沢生産 |
ThinkPad X250 | レノボ・ジャパン | 優れたキーボードとTrackPoint、伝統のメンテナンスしやすい構造 |
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