モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は4月22日、モバイルの効果的な業務活用の事例を表彰する「MCPCアワード 2011」の各賞を発表。グランプリはモバイルとクラウドをEV(電気自動車)向けサービスに生かした日産自動車が獲得した。
今回は42件の事例が寄せられ、傾向としては「通信モジュールやスマートフォンの活用、高度なセキュリティ対策、Bluetoothの応用などといった多彩で先進的な事例が多かった」とMCPC会長の安田靖彦氏。MCPC普及促進委員会 委員長の武藤肇は、「モバイルの分野で1つだけ光っているような事例よりも、業務の根幹にインフラとして入っているものや、社会の仕組みとして有効なもの、売上や節約の効果が出ているものが多かった」と振り返った。
この事例をMCPCの審査員が「業務効率化」「コスト削減効果」「売上拡大」「ユーザー満足度」「利便性」「モバイル技術活用度」の6項目から分析・評価し、グランプリ候補の4社を選出。各社が自社サービスのプレゼンテーションを行い、それをもとに審査員が各賞を決定した。
賞 | 企業 | サービス |
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グランプリ、総務大臣賞 | 日産自動車 | 日・米・欧市場向けEV専用ICTシステム |
モバイルパブリック賞 | 帝人ファーマ | 慢性呼吸不全の患者向けに提供する家庭用酸素濃縮機に通信モジュールを内蔵した「TOMS-M(Teijin Oxygen concentrator Monitoring System - mobile) |
モバイル中小企業賞、審査委員長特別賞 | モトックス | iPhoneを活用したコンシューマー向けワイン情報提供サービスとワイン販売支援サービス |
モバイルビジネス賞 | ヤマトホールディングス | 宅急便サービスをアジアに展開する「TA-Q-BINシステム」 |
グランプリと総務大臣賞、モバイルテクノロジー賞を獲得した日産自動車は、EV(電気自動車)「リーフ」の通信モジュールを通じて取得した車のデータを活用し、ICTシステムを構築。取得したデータをクラウドと連携させ、EVの効率的なエネルギー活用に生かすためのサービスを国内外で展開している。
EVの運用にあたっては、少ないエネルギーを効率よく利用する必要があり、日産自動車では車載モジュール経由で得た情報から走行可能な距離を割り出すサービスを提供。ほかにも充電中にエアコンを遠隔操作でオンにしたり、充電スポット情報を配信したりといったサービスも提供している。データ利用はそれだけにとどまらず、蓄電池のリサイクルやスマートエネルギー分野への取り組み、他の自動車メーカーとのプローブ情報の共有などに役立てており、その幅広い活用法が評価された。
MCPCアワードの審査委員長を務める武藤氏は、日産自動車の受賞理由について「モバイルを通じて車のデータを収集/分析する事例はこれまでにもあったが、それをEVという新たな技術のために活用している点や、戦略として海外に発信していく姿勢、クラウドを活用して他メーカーも参画した形で情報の共有化に挑戦している点を高く評価した」と話す。
日産自動車の野辺継男氏は、モバイルとクラウドの連携がこれからの社会を大きく変えるとし、今回の事例はその1つだと説明。今後は、日本からこうしたサービスをいかに海外に展開するかが重要であり、「これまでは作り込みが難しかったところが、モバイルコンピューティングとクラウドの発展で容易に展開できるようになった点が意義深い」とした。
モバイルパブリック賞を獲得したのは、慢性呼吸不全の患者向けに通信モジュールを搭載した家庭用酸素濃縮機を提供する帝人ファーマ。モバイルの活用で医療機器の普及に貢献した点が評価された。
家庭用酸素濃縮機は、家庭で酸素療法を行えるようにするための機器。操作に不慣れな高齢者の利用が多いことから、運転情報を逐次データサーバに送る仕組みを取り入れており、緊急事態を検知した時には24時間体制で対応している。
これまでは家庭の固定網を通じてデータを送信していたが、通信インフラの多様化で配線作業が複雑になってしまったという。設置までのやりとりが増えて普及に歯止めがかかったことから帝人ファーマでは、データ送信にモバイルを活用して設置を簡略化。これにより設置台数が10カ月で3倍以上増えるなど、普及に大きく貢献した。
モバイル中小企業賞と審査委員長特別賞を受賞したのは、店舗向けワイン販売支援システムとコンシューマー向けワイン情報提供アプリ「WineLink」を提供するモトックス。スマートフォンのカメラにかざすとワインの詳細情報が得られる「ブドウマーク」を介して、ワインの生産者と販売店、一般消費者をつなごうという取り組みだ。
WineLinkシステムでは、データベースに世界12カ国、350社超の生産者情報と、それにひもづく年間約1800アイテムのワイン情報を登録し、それぞれの情報ごとに異なる「ブドウマーク」を生成。生成したブドウマークをワインの値札やPOP、メニューなどに添付し、店のスタッフが対応できない場合でも来店者がスマートフォンを活用してワインの情報を得られるようにした。現在はiPhoneのみの対応となっているが、今秋をめどにAndroidにも対応する予定。今後は似た業界への横展開や、海外展開も計画しているという。
この事例はエンドユーザーに使いやすい形で全国展開できる点や、海外での利用も期待できる先進性が評価され、2つの賞を授与された。
ヤマトホールディングスは、日本発のモバイル活用モデルを共通スペックでアジアに展開した「TA-Q-BIN」システムでモバイルビジネス賞を受賞。モバイル端末を活用したヤマトホールディングスの事例は、2006年にグランプリを受賞している。今回は活用のビジネス性が高いことと、日本オリジナルのサービスをそのまま世界展開したことが評価された。
1976年に“たった11個の配達”から始まった宅急便は、今や“年間13億個を扱う”大きなビジネスに成長。同社は、会社の100周年となる2019年に「アジアでNO.1の流通生活ソリューションプロバイダを目指す」としており、2010年から「TA-Q-BIN」サービスをシンガポールと上海、香港で展開。9月にはマレーシアでも展開する計画だ。
アジア各国でサービスを迅速に展開するために、ソフトやハード、ネットワークを共通化。セールスドライバーには日本と同じようにBluetooth通信で結ばれたポータブルPOS端末と携帯電話、プリンタを持たせ、配達情報を逐次発信させるシステムを構築した。情報をアーカイブするサーバは日本に置き、クラウド経由でデータを集約するとともに、端末への最新アプリの配信も日本のサーバから一括で行えるようにした。
こうした共通化によってサービスの開発期間は大幅に短縮され、導入3カ国目の香港向けサービスの開発は、(サービスを一から開発した)シンガポールに比べて半分以下の期間ですんだという。
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