手紙にしろソーシャルメディアにしろ、「相手が嫌がることをしない」というのがコミュニケーションツールを上手に使う基本だ。また、実際に会って話していれば伝わる微妙なニュアンスが伝わりにくいために誤解が生じたり、失言を後悔しても一度書いたことは消えないというのも同様だ。しかし、1つ大きく違うのは、ソーシャルメディアの情報伝達の速さであろう。
これらの事情を考慮し、栗原さんは炎上させないための「私のクレド(信条)」を個人的に持っている。以下の8項目がそれだ。
これらのクレドを踏まえた上で、聞き上手になることが大事だと栗原さんは話す。
「人は何かを言いたくてインターネットを利用しています。言いたい人が多い中で、あえて聞き役に回ろうといつも心掛けています」
このクレドやSCGは、炎上防止に有効といえるだろう。社員のソーシャルメディア利用については、基本的に性善説に立って考えられているものだが、1人の社員もトラブルを起こさないという保証はない。
「誤解から炎上する場合もありますし、愛社精神から他者に対する言葉が厳しくなりすぎて反感を買うこともあり得ます。また、自社に対する誤解を正そうとしてトラブルに発展することも。ですが、明らかに相手の事実誤認であっても、公の場で論破してはいけないんです。個別にメールを送ったり、実際に会って話をして対処すべきだと考えています」
いざというときのために、IBMでは社員に対しては定期的に研修などを行っている。法務やチーフプライバシーオフィサー(CPO)にも参画してもらい、ソーシャルメディアにおけるリスク対策のための社内チームも整備している。
このように、もともとソーシャルメディアを積極的に活用してきた同社だが、2011年、さらにその傾向を強めることになった出来事がある。東日本大震災だ。
「震災時には、社員向けの情報発信にTwitterを活用しました。出社可能情報などをつぶやきましたが、社員のみならず一般のフォロワーからもメッセージがリツイートされ、フォロワー数は震災前の2倍に増えました。震災後には緊急のメッセージツールとしてTwitterを活用することを決め、2011年の防災訓練でもTwitterの運用を取り入れて実施しました」
震災時、期せずしてTwitterが大活躍したように、ソーシャルメディアにはまだ気付かれていない大きな可能性が残されているはずだ。企業は適切にリスクを管理しながら、自社に合った活用法を考えていくといいだろう。
社名:日本アイ・ビー・エム
設立:1937年6月/代表取締役社長:橋本孝之/本社所在地:東京都中央区日本橋箱崎町19-21/事業内容:情報システムにかかわる製品、サービスの提供/従業員数:全世界で約43万人
『月刊総務』2012年3月号 「進化するSNSを上手に活用するための企業におけるソーシャルメディアガイドライン」より