実はちょっと抽象的に言うと、「構造の説明は指標の説明よりも省略しがち」という傾向があります。
「構造の説明」というのはちょうど今回の「新規発売して売れなかったものは在庫になる」といった関係の説明です。
一方、「指標の説明」というのは「発売戸数は2607戸」の部分を指します。複数の要素が複雑に関連している状況を説明する文書を、構造と指標の説明に分類したときに「構造の説明を省略して書いてしまう」ケースが実は非常に多いのです。
これにはハッキリとした理由があります。構造の部分は長期間変わらないので、毎回書かなくても通じるからです。一方、指標の部分はコロコロ変わります。「売れなかったものは在庫になる」という構造は100年経っても変わりませんが「今月の発売戸数は2607戸」という数字は来月になったら変わります。
だから、知識のある人間同士で話をするときは指標の説明だけを書いて、構造は書かないのが普通です。ところが、同じ流儀を素人相手の説明でやるとうまくいきません。構造についての前提知識を共有していない相手に対して、指標の説明だけを必死にしても通じないんですね。
そして個条書きは、指標の説明には向いていますが、構造の説明には向きません。個条書きは、個々の要素の指標を書くのに向いた表現であって、複数の要素が関連している構造を表現するのには向いていないわけです。
ですから、プレゼンテーションをするときはよく個条書きを使いますが、個条書きを書いただけで満足せずに「複数の項目(A、B、C……)どうしの関連性を説明しておく必要はないか?」と自問してみてください。もしその必要がある場合は、個条書きでは足りず、図解が必要になることが多いのです。
以上、今回はプレゼン用のスライドでよく使われる項目列挙型の資料の3つの弱点の3点目について書きました。次回は3点目の「数値に関する相場感覚が分かりづらい」について取り上げますので、どうぞご期待ください。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kmic67」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kmic67」宛に質問を飛ばしてみてください。
著者・開米瑞浩氏が講師となって「アイデア・思考を見える化」をテーマとするセミナーを開催します。
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.