仙台の「旅する支社」で見えて来た、面白法人カヤックのオフィスの在り方と働き方:脱ガンジガラメの働き方(3/3 ページ)
東日本大震災の約2カ月後に仙台支社を設立したカヤック。数々のユニークなコンテンツを世に送り出す同社が、4月に開設した京都支社の次にあえて被災地を選択した意図とは?
規模が大きくなる中、変化も
――震災を経て、カヤックのオフィスに対する考え方も随分変わったのではないでしょうか?
藤川 もともとは、恵比寿オフィスも鎌倉に集約したいという考えが代表含めあったのですが、そこは再検討を求められましたね。しかし、結果として、それは維持しようということにはなったのです。当然リスクもある訳ですが、一致団結してクリエイティビティを発揮するには、やはりその方が良いという判断ですね。その方がカヤックらしさが出る。
――社員数が150人を越えると、単純に規模の話だけでも一体感を維持するのは大変ではありませんか?
松原 カヤックは9割がエンジニアやクリエイターで、管理系は1割です。海外からやってきた人も十数名います。震災後、帰国する外国の方が多いこともニュース等で報じられましたが、カヤックでは帰国してしまう人はいませんでした。内定していた人が「こういう時だからこそカヤックで早く働きたい」と言ってくれたのはうれしかったです。
――社員全員が集まる機会というのはあるのでしょうか?
藤川 年に4回ですね。合宿(チームに分かれて企画を競い合う「ぜんいん社長合宿」)があったり、入社式ではやはり全員が集まったり。
――いろいろな会社を取材していると100人という規模が「目視で全体を見渡せる、誰が何処にいるかを把握できる」という限度かなと感じています。それを越えて、なおかつ現在のユニークさ、クリエイティビティを保っていくとなると、いろいろ工夫が必要になりますね。
松原 おっしゃる通りですね。顔と名前が一致しなくなってきます
藤川 そこには危機感や悩みというのは正直ありますね。うまくクリアされた先達に学んでいかないといけないところではあります。
――会社によっては、完全に、例えば50人ごとにグループ分けしたり、分社化したり、いろいろなやり方はありますね。カヤックの場合、代表をはじめ社員の人々も非常にユニークですから、何か1つのやり方、方法論では収まらないようにも感じられますが。
藤川 極力ルールで縛るということは避けていますね。先ほどの京都オフィスの例のように、1人1人と面談してニーズをくみ上げていくという方法を採っています。例えば働く時間でも、お子さんがおられる場合は話し合って時短を取り入れたりもしています。
松原 逆に例えば遅刻が目立ってきた社員に対しても、気付くまで待ってみようというスタンスですね。時間はどうしても掛かってしまうのですが。
藤川 人数が増えてきたときに、果たして今のやり方で行けるのかどうかは、正直まだ分からないところはあるのですが、僕としてはやはりこれを続けたいですね。コミュニケーションで解決したい。
――震災をきっかけに家族と過ごす時間を大事にしたい、という要望が一般に高まっていることも幾つかの調査で明らかになっています。ワークライフバランスを再考したいという面と、離散リスク(災害時に家族が離ればなれになっていることで生じるリスク)を避けたいという面の2つが含まれますが、そういったニーズにも応えやすいかもしれませんね。ところで他社同様、評価面談もされているわけですよね。
藤川 四半期ごとに行っていますね。数値的な目標ももちろんあるのですが「人のために何ができたか」といった定性面も重視しています。人としての成長を促して、会社の成長につなげるという教育的な効果を期待している部分は大きいです。フォーマットには「失敗したこと」を記す欄もあります。それも成長の糧として評価します。
――そういった要素は給与体系にも反映されていますね。
藤川 そうですね。サイコロ給といったユニークな面に注目が集まりがちなのですが、カヤックはいわゆるテーブル制(等級と号俸によって能力給が決まる)も設けていません。勤続年数で自動的に上がっていく部分を持っているのも、その分の「成長」を信じているからですね。
――クリエイティビティを高めるためには多様化(多様な人材が集まること)が大切で、それと、組織化(事業の拡大によって組織が大きくなっていくこと)との間には二律背反する部分があり、多くの会社も悩ましいところだと思います。
藤川 そこは挑戦ですね。その挑戦自体を楽しんでいるという面もあると思います(笑)。ルール化してしまうと管理は簡単になるのですが、やはり失われるものがあるということは常に自覚しておきたいと思います。一見非効率でも1人1人とコミュニケーションを取って解決していきたいんです。いま15人まで増えた「ギブ&ギ部」という部署名にもそういう思いを込めていますし、私自身、その中でクリエイターという肩書を持って動いているのも、そういうことだと理解しています。
――一般的に管理部門は全社員の中で6〜7%程度に抑えることが望ましいとも言われる中、10%とやや多めの人数を割いているのも、コミュニケーションを取りながら、という面があるのでしょうか?
藤川 正直、上からはもうちょっと比率を下げられないのか、とは言われているんですけどね(笑)。おそらく会社ももっと大きくなると思いますので、個人的にはもう少し増やしてほしいという思いもありますね。制作現場と管理部門の関係性があまり良くない会社も多いと聞きますが、クリエイターを支えることに喜びを覚えるチームとして会社の成長に貢献したいと考えています。
――ルールがなければエラーが起こる、けれどもクリエイティブな現場ではエラーからユニークなものが生まれる、そのことと関係がありそうですね。たとえ管理部門としても、ルール化しないことがルール、それがカヤック流とも言えるかもしれませんね。
藤川 確かに。カヤックでも失敗を責める、ということはないですね。むしろ失敗しないと仕事してないとみられるくらいです。
松原 「ルールにしないことがルール」って格好いいですね。公式ページの「ギブ&ギ部」のプロフィール、それで書き換えるかも(笑)
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
- Twitter:@a_matsumoto
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