国内の鉄鋼需要が減少する中で、大手鉄鋼メーカーは生き残り策を模索している。本業の鉄鋼生産は二酸化炭素を多く発生させるため、大幅な削減策の実行を迫られている。
今の時代を「創業以来の最大の変革期」と捉え、この数年で過剰だった製鉄設備を再編するなど大胆な社内改革を実践している柿木厚司JFEホールディングス社長にインタビューした。
柿木厚司(かきぎ・こうじ)1953年生まれ。77年に旧川崎製鉄に入社、2003年JFEスチール人事部長。07年常務執行役員、15年JFEスチール社長、19年4月からJFEホールディングス社長。茨城県出身(撮影:小澤俊一)――JFEは、経済産業省と東京証券取引所が選んだ「DX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄2021」に選ばれました。その理由は何だと思いますか。
私がJFEスチールの社長に就任した2015年ころ、設備の老朽化と、1985年のプラザ合意後に一時的に人材を採用しなかったことによって熟練労働者が足りなくなり、それが原因で設備の停止が頻繁に発生しました。装置産業である鉄鋼業は設備が止まると収益に大きな影響を与えます。そこで考えた対策が若手従業員の教育強化と、DXを通じた設備停止時間の短縮で、これを強く推進しました。
ところが、その途中で製鉄業における基幹設備である高炉で次々とトラブルが起きて生産量が大幅に減り、収益にもダメージを受けました。その時データサイエンス(DS)を担当しているメンバーから仮想空間でデータを活用する「サイバーフィジカルシステム」を使うことによって、「例えば温度が急激に上がった時はこういうトラブルの予兆が事前に分かる」という話を聞きました。それで、予算を大幅に増額してシステム開発を進めました。そのためにカギになるのが操業データの活用で、それをいかに設備に実装させるかがポイントになります。
ただ、データには既にあるものとないものがあり、ないデータを集めるために多くのセンサーを取り付けました。まず鉄鉱石、石灰石、粉コークスを焼き固める焼結設備に、このシステムを導入してみたところ、そのセンサー機能が大きく働いて生産性の向上に寄与しました。
最初は生産性の向上というよりも、設備停止期間をできるだけ短くしようとして、このシステムを導入しましたが、例えばコロナ禍などで設備をいったん停止しなければならなくなった場合においても、このシステムを応用することにより、設備の立ち上げを早めることができます。
2020年は福山にある高炉のバンキング(一時休止)の際に、本システム導入により短期間での立ち上げに成功しました。21年は倉敷の4号高炉の改修、立ち上げでも活用しています。このようにDXにより設備の停止時間を短縮でき、効率生産に結び付けられたのが大きな成果だと思います。
――そのサイバーフィジカルシステムが大きな効率化につながっているのですね。今後はどこに活用する方針でしょうか。
今後は高炉だけでなく圧延設備などにも使ってさらにデータを集めたいと考えています。その上で新しいビジネスとして、アライアンスパートナーを中心とした新興国の鉄鋼メーカーの操業指導に使えないかと考えています。これまではJFEスチールの担当者が現地に行って指導していたのですが、これならシステムをパッケージにしてソリューションビジネスとして売れます。担当者を派遣しないわけにはいかないでしょうが、画面を見ながら指導できます。
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