オトコはぶらさげてナンボである――コシナ「VC METER」:矢野渉の「金属魂」Vol.28

» 2012年12月12日 14時00分 公開
[矢野渉(文と撮影),ITmedia]

ぶらさげていた修行時代

 フォトグラファーという職業は、いつも何かを首からぶらさげているイメージがある。まずは当然ながらカメラ。もっとも、本人は「一体化している」感覚なので、ぶら下げている意識はあまりないが。

 あとは露出計だ。白い半球のついた入射光式のもの。ストロボ光も測れるフラッシュメーターはかなり大きくなるのであまり首からはぶら下げない。ケースにいれて腰に下げる。首から下げるのはセコニックの「スタジオデラックス」ぐらいの小ぶりの機種だ。

 写真学校に通っていたころは、いつも露出計をぶら下げていたものだ。カメラを持っていなくても露出計だけは持っていた。それは、その場の定常光を体に覚え込ませるためだ。

 南向きの室内。ISO100でシャッタースピード60分の1なら絞りはこのぐらい、とかピーカンの屋外はこのぐらい、逆光なら何絞り開けるか、とか、ぶつぶついいながら露出計を眺めていたものだ。そのうちに、だいたいの露出は目で分かるようになった。

 学校の講師にいわれて始めたことだったが、実際に仕事をするようになって、この修行が随分と役に立った。機械を扱う職業である以上、機械の故障からは逃れられない。露出計が故障して間違った値を示したとき、本能的に違和感を感じ、露出をばらして撮影したり、切り現(最初の数コマを試し現像して、その後のコマの増減感を決める)をしたりして最悪の結果を避けてきた。もっとも今はデジタルの時代で、リアルタイムで撮影結果が見られるわけだから、もしかしたら必要のない修行なのかもしれない。

 しかし写真というものが「光を読む」あるいは「光と遊ぶ」行為である以上、この修行は必須だと僕は思う。

 露出計はスタジオデラックスに始まってミノルタの「オートメーター」、「フラッシュメーター」のIII型、IV型、V型と使ってきたが、どれも思い出深い。カメラとともに仕事中はいつも一緒なわけだから。昔の自分の写真を見ると、それに使ったカメラと露出計はすぐに思い出せる。


そして、ぶらさげる喜びへ

 僕が所有している露出計の中でたった1つだけ、まったく仕事がからまない露出計がある。しかも反射光式だ。コシナが取り扱うフォクトレンダーブランドの「VC METER」。ライカのM4に合わせて購入した物だが、ホットシューに差し込むとほぼレンズの真上にくるのでなかなかバランスがよい。測光の角度も75ミリレンズぐらいなのでスポットよりも広く、中央重点測光に近い値が得られる。

 現在はII型へとマイナーチェンジされ、全体に小さくなり、ダイヤルも小さくなって絞りとシャッタースピードの組み合わせが何段階か見えるよう「実用的」に変更されている。でも僕はこのI型のほうが断然好きだ。この絞りダイヤルとシャッタースピードダイヤルの重なりは造形的に素晴らしいと思う。まさに金属好きオヤジのストライクゾーンを完全に射抜いているといってよい。「わかってらっしゃる」という感想がぴったりだ。

 この商品のさらに「わかってらっしゃる」感を強めているのが、ストラップアダプターの存在だ(現在は販売されていない)。別売りで2000円ぐらいのものだが、これが非常に重要なアイテムなのである。反射光式の露出計は、普通はカメラにつけっぱなしにすることが多い。しかしこれがあることで、単体で首からぶら下げて持ち歩くことができるのである。コシナという会社の「わかってらっしゃる」感はここに極まったといっていい。

 しかもバックスキンの巾着型のケースが、自然に全体を覆う造りになっている。巾着の口ひもをキュッと締め、金属好きオヤジは意気揚々と外に出る。ちかちか光るランプを眺め、意味もなく露出を測ってみる。うれしくてオヤジはもう涙目だ。

 自分の趣味のために露出計をぶらさげるようになるなんて。オヤジは遠い昔の、つらい修行時代のことを思い出し、今日もしみじみと感慨にふけるのである。

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