難航するプロジェクトと恋の行方(第5話)目指せ!シスアドの達人(5)(3/3 ページ)

» 2010年10月15日 12時00分 公開
[西野雅裕(シスアド達人倶楽部),@IT]
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メンバーのいら立ち

 坂口はしばらくぼんやりとしていたが、気を取り直し、今度は配送センターの岸谷にダイヤルした。

坂口 「岸谷さん、こんにちは。サンドラフトサポートの坂口です」

岸谷 「ああ、坂口君。今日は会議に出席できなくって悪かったね」

 岸谷には坂口が自分に何を聞きたいのか察していた。

坂口 「いえ。やっぱり、お忙しいのでしょうか?」

岸谷 「いつものことだけどね。それで、俺がなぜ今日の会議に出なかったのかと思って電話してきたのだろう?」

坂口 「ええ、まぁ……」

岸谷 「隠し立てする必要もないから、率直に話すよ。実は配送センターの連中にプロジェクトのことも話したんだ。ほら、この前の一件があっただろ? だから、新しい配送システムもできるかもしれないって」

坂口 「ええ。今日の会議でもそれを提案しました」

岸谷 「でもねぇ。配送センターの連中はね。『そんなシステムが入ったら、俺たちの仕事がなくなってしまうじゃないか。岸谷さんは俺たちのクビを切ろうとしているのか!』っていわれてね。つるし上げに遭ってしまったんだよ」

坂口 「そんなことがあったんですか……」

 藤木だけでなく、岸谷までもが職場の抵抗に遭っているという事実に坂口はショックを受けていた。

岸谷 「今日プロジェクトの会議があることを連中に話してあったので、どうも今日はここから出にくくてねぇ」

坂口 「すみません。岸谷さんにそこまでご迷惑をお掛けしているとは思いませんでした」

岸谷 「君が謝ることじゃないよ。配送センター内の連中には、俺が説得するから、プロジェクト進めてくれよ」

坂口 「お気遣いありがとうございます! それじゃ失礼します」

 坂口は丁寧に受話器を置き、「やっぱり、人の気持ちって分からないものだよなぁ……」とつぶやいた。それをたまたま書類を届けにきた谷田が、その言葉を耳にした。

谷田 「まあ、坂口さんったら。デートの約束取り付けたんですか? いまは勤務時間なんですからね。ちゃんと仕事してくださいよ! 私がさっきいったこと、取り消します!」

 といって、足早に立ち去ってしまった。

坂口 「ちょっ、ちょっと! 違うんだよ。誤解だよ! 俺はただ岸谷さんから……」

 鈍い坂口には、谷田がなぜそのような誤解をするのか理解できない。そこに深田が書類を届けにやって来た。

深田 「坂口さん。これ定期健診の案内です。この紙に会社が提携している医療機関が書いてあります。坂口さんのマンションから会社の間で、便利そうなところにピンクのマーカーを引いておきましたから、12月15日までに必ず受診してくださいね」

 深田は坂口のことを思い、坂口の住所を調べて、地図で場所を調べながら口コミ情報で評判の医療機関を選ぶというさりげない心遣いを見せたのだ。しかし、そんな女性らしい心遣いも、鈍い坂口は一向に気付かず……。さらには、こんな発言をしてしまうのだった……。

坂口 「ありがとう。定期健診の書類をみんなに届けるの?」

深田 「ええ」

坂口 「それは大変だなぁ。定期健診の案内もイントラネットから閲覧できるようにしないとね」

深田 「それは困ります!」

坂口 「えっ。どうして?」

深田 「だって……。坂口さんと、こうした話ができなくなっちゃいますもん」

坂口 「……」

 坂口には深田の言葉の意味が理解できない。実は深田は、坂口が仙台から転勤してきて初めて会った瞬間、「この人だ!」と思っていた。そんな深田は、新営業支援システム導入プロジェクトが発足するといううわさを耳にしたとき、坂口に少しでも近づける絶好のチャンスが来たと思った。そして、何とかこのプロジェクトに潜り込もうと坂口に懇願し、何度も断られた末にメンバーに加わることができたのだった。そして、何かにつけ、坂口との接触の機会を持とうとしていたのだ。

深田 「坂口さん。私は何から何までIT化してしまうのもどうかと思います」

坂口 「どういうこと?」

深田 「同じ社内で仕事をしているのに、会話をしなくても用事が済んでしまうでしょ。うちの主任は私の隣に座っているのに、私にメールで仕事をいいつけるんですよ。さすがにそれは感じ悪いでしょ?」

坂口 「つまり、IT化は人と人とのコミュニケーションを希薄にするということ?」

深田 「ていうか……。とにかく、私にとっては坂口さんとこうしてお話ができなくなるのは絶対に困るんです!」

 深田はそういうと、足早に席に戻っていった。坂口は、深田の予想外の言葉にただただぼうぜんと立ち尽くすだけだった。

◆次回予告◆

 いよいよ具体的な話し合いが始まった「新営業支援システム」ですが、坂口の意気込みに反比例するように他部署の不満が噴出し、まだまだ突破口が見いだせないようです。また、坂口の周りからは春の香りも漂い始めていますが、本人はまったく気付く様子がありません……。

 さて、次回の坂口は、豊若のアドバイスを得て1つの答えを出して一見プロジェクトは進むように見えます。しかし、その決断に対しても新たな反論が噴出し……。またもや奮闘する坂口の姿をお伝えします。

東京本社・営業1課 メンバー構成

課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳


課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳


主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳 


チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳


アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ)  26歳


アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳


営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳


上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳


今回登場メンバー

配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 41歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 33歳


情報システム部主任 福山 雅人(ふくやま まさと) 36歳


総務部新人 深田 祐子(ふかだ ゆうこ) 23歳


profile

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者5名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー5名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


西野 雅裕

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員・外資系製薬会社勤務・薬剤師


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