スマートフォンと次世代通信の競争が激化する――通信事業者5社の年頭所感
2010年はスマートフォンやモバイルブロードバンドの普及が進んだ1年だった。こうした動向の中、通信事業者のトップはどんなビジョンを思い描いているのだろうか。各社が発表した2011年の年頭所感を見ていこう。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、イー・モバイル、UQコミュニケーションズの5社が2011年の年頭所感を発表した。なお、ウィルコムは年頭所感を発表していない。
2010年には各社が多くのスマートフォン(Android端末)を投入し、ラインアップの主役はフィーチャーフォンからスマートフォンに移りつつある。モバイルWi-Fiルーターの普及に加え、ドコモが「Xi(クロッシィ)」、イー・モバイルが「EMOBILE G4」を開始するなど、モバイルブロードバンドも新たなステージを迎えた。携帯業界が急速に変化していく中、各キャリアのトップは2011年にどんな事業展開を目指すのだろうか。
スマートフォンに大きくかじを切っていく――NTTドコモ
NTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏は、2010年はドコモにとって画期的な出来事が続いた1年だったと振り返った。その1つが、お客様満足度で成果を上げたこと。ドコモはJDP顧客満足度調査の個人部門1位を受賞したほか、法人部門と日経BPコンサルティングのモバイルデータ通信満足度調査で2年連続1位を獲得した。山田氏は「私たちの事業がお客様に支えられていることを肝に銘じ、目標に向かってグループ一丸となって取り組んできた成果」とした。
2つ目はスマートフォンのラインアップを拡充したこと。「Xperia」や「GALAXY S」などが多くの支持を集めたほか、Androidアプリのポータルサイト「ドコモマーケット」や、iモードのメールアドレスを引き継げる「spモード」を提供するなど、サービスも充実させた。山田氏も「当社の予想を超え、一気にスマートフォンの時代が到来した」と手応えを感じている。3つ目が12月24日に提供開始した次世代高速通信サービス「Xi」。「高速・大容量・低遅延の快適な通信環境をお客様にご提供できる」と同氏は自信を見せる。
2011年には「お客様満足度向上の取り組みを継続していく」ことに加え、スマートフォンやタブレット端末普及に向けたチャレンジをさらに加速させる。「1~2年後は、スマートフォンがiモード機と販売数で同程度になると予測しており、この変化に対処していくために、全社的に仕事のやり方を見直す。端末やサービスの開発もスマートフォンに大きくかじを切っていく必要がある」とし、山田氏はスマートフォンの比重を拡大することを強調した。
トラフィックが増加しても良好なネットワーク品質を維持できるよう、通信量の多いところからXiエリアを急速に立ち上げ、Xiに対応したモバイルWi-Fiルーターや端末を提供していく。さらに、電子書籍サービスやカーナビ向け「ドコモ ドライブネット」、マルチメディア放送などの新サービスも強化する。グローバル展開については、欧州などネットワーク整備の進んだ成熟国ではコンテンツなどの協業、インドなどの成長国ではネットワーク整備や付加価値サービスなどのノウハウを提供するとした。
山田氏は、「これまでの10年はモバイルの可能性を追求してきたが、これからの10年は『モバイルを核とする総合サービス企業』に進化していきたい」と長期的なビジョンを話した。
情報共有をしてスピードアップを図る――KDDI
KDDIは2010年12月1日から小野寺正氏に代わって田中孝司氏が代表取締役社長に就任し、KDDIの社長としては田中氏にとって今回が初の年頭所感となる。
田中氏は社員に向けて「ジブンゴト化」をキーワードに掲げた。リーダーには「自部門の仕事を具現化し、それが会社にどう役立つのか、自分の言葉で意味付けをしていただきたい。部下へ自分の言葉で伝え、自ら働いてひっぱってもらいたい」と呼びかけ、「そういった行動がKDDIの復活につながり、チームKDDIを作る」と述べた。また、シブンゴト化に必要な情報共有を進めるには「縦と横の情報連携が非常に重要」とし、「自分の持っている情報を部下に、隣に伝える努力をしていただきたい。そうすることでスピードアップを実現できる」述べた。
30年ビジョンの中長期計画を立てる――ソフトバンク
ソフトバンクグループ代表の孫正義氏は、「2010年はスマートフォンが他社からも続々と発売され、携帯電話のマーケットが劇的に変化した年だった」と振り返った。孫氏はスマートフォンやモバイルインターネットの普及でライフスタイルが大きく変化し、人々のコミュニケーションのあり方が大きく変革したと感じている。孫氏自身も「昨年はツイッターを介して皆様一人ひとりと直接対話することができるようになり、大きな刺激を得ることができた」と述べている。
ソフトバンクは今後30年のビジョンを2010年に発表した。この30年ビジョンを発表するにあたって孫氏は「今後大きく進化するテクノロジーとそれに伴う人々のライフスタイルの変化、一方で変わらないであろう喜びや悲しみの感情」が見えてきたという。「今年はグループ各社で30年ビジョンの実現に向けた中長期の計画を立て、着実、かつスピードをもってビジョンの実現にまい進していく」と表明した。
固定とモバイルの融合を加速させる――イー・モバイル
イー・モバイルは2010年にサービスエリアの充実化に注力し、地下鉄エリアで97%、全国の人口カバー率90%以上を達成した。国内の通信事業者としては初めて、DC-HSDPA規格を採用した最大42Mbpsの「EMOBILE G4」を導入したことも話題を集めた。モバイルWi-Fiルーターの先駆けともいえる「Pocket WiFi」がヒットし、2010年11月には累計契約数285万を突破した。
同社 代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏は「2011年はイー・アクセスグループの統合をさらに進め、成長戦略をいっそう加速させていく」と抱負を話す。固定通信とモバイル通信を融合させ、いつでもどこでも使える利便性の高いブロードバンドFMCサービスに積極的に取り組むほか、業界をリードする画期的なサービスや商品作りを目指す。2010年は「試練に耐えての準備の年だった」と振り返るが、2011年は「11年前のグループ設立の原点に帰り、ブロードバンドのナンバーワンとして再挑戦する」と宣言した。
3月末に80万契約を目指す――UQコミュニケーションズ
WiMAXサービスを提供するUQコミュニケーションズは、2010年12月に1万3000局の基地局建設を達成し、2010年度末には人口カバー率が69%まで拡大する見込み。累計加入者数は2010年12月末に50万件を超えることが確実視されており、同社 代表取締役社長の野坂章雄氏は「2010年度末80万契約も射程距離に入ってきた」と手応えを感じている。
2011年の目標として、まず3月末に80万契約を達成することが第一の目標とした。あわせて、2012年度の単年度黒字の達成に向け、量と質の両面からWiMAXの事業領域を伸ばし、M2M分野を含めたビジネス領域の拡大にも挑戦していく。
イー・モバイルがDC-HSDPA、ドコモがLTEを開始するなど、モバイルブロードバンドの競争が激化しつつある。そうした中でUQは、2011年5月には下り最大330Mbpsの“次世代超高速モバイルサービス”「WiMAX 2」のフィールドテストを実施する予定。野坂氏は「スピード、料金、エリアすべての面でさらに磨きをかけ、『次世代インターネットの本命』のポジションを確固たるものにする」と決意を述べた。
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