世界最薄折りたたみFOMA、“11.4ミリ”の秘密開発陣に聞く「P703iμ」(3/3 ページ)

» 2007年04月02日 16時46分 公開
[岩城俊介,ITmedia]
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 ところでステンレスという素材は腐食に強く、さびにくいというメリットがよく知られるところだが、その反面、硬く、樹脂素材に比べると成型・加工しにくい。やはりコストもかさむのではないだろうか。

 「そうですね(笑)。今回のテーマの実現のため、何にコストをかけるかということですよね」(富澤氏)

 また、樹脂素材とは違い、金属素材は電波を通さない。P703iμは裏面のやや出っ張った部分に通信用のアンテナを配置するが、この部分は樹脂素材が用いられている。ここは“あくまで無線機”の携帯電話におけるジレンマのようだ。

 「デザイナーとしては、“全部金属”にしたいんですけどね(笑)。そうはいっても昔の携帯のような伸縮式の外部アンテナを……というのもちょっと違いますし」(富澤氏)

photo P703iμ(右)は、ボディだけでなく電池カバーもステンレス素材を用いている。左のprosolid IIは樹脂製だった

 もう1つ、塗装も従来の樹脂素材に塗る場合とやや異なる工程となるらしい。

 「表面を徹底的に磨き上げた後に、金属粒子を含めた塗料を何層に渡って吹き付けています。樹脂ボディに金属風に見える塗装を施した端末もありますが、やはりベースが金属素材だと仕上がりもかなり違いました。この塗装は“素材感”の演出に大きく貢献していると思います。ちなみに電池カバーもステンレス素材です。この裏が本来の下地ということになりますね。背面と見比べていただくと、仕上げにかなり手間がかかっていることがお分かりいただけると思います」(富澤氏)

 一般的な携帯の電池カバーはほとんどが樹脂製。しかし、この電池カバーの厚みの差を見比べるだけでも、“コンマ1ミリの薄型化”へのこだわりが感じられるところだ。

 ちなみに今後、ステンレス以外の金属素材にはどんなもの採用できそうだろうか。例えば“チタン”などはどうか。

 「prosolid IIはアルミを採用しました。チタンは、強度が優れていますしよい素材なのですが……“冷たくない”んですよ(笑)。また、マグネシウムを携帯のシャシーに採用する場合もありますが、この素材だと“高級感”を演出するアプローチには使いにくいんですよね」(富澤氏)

 なるほど。“ジュラルミン”とか“クロムバナジウム鋼”“クロムモリブデン鋼”“真鍮”なども、その響きだけでグッと来るのだが……。

“ワンプッシュオープン”を排した理由

photo  

 パナソニック モバイル製の端末でおなじみの機能に“ワンプッシュオープン”機構がある。P903iやP703i、prosolid IIなどに搭載する、ヒンジのボタンを押すだけでパッとディスプレイが開く仕組みのものだが、P703iμには採用されなかった。

 「ここは非常に長時間議論した部分ですが、“どちらが高級感を演出できるか”で判断しました。苦渋の決断でした」(林氏)

 「例えば、手で開ける重厚なドアと、自動ドア。どちらが高級感というか“大事な部屋”に入る気がするか。P703iμは前者のイメージを表現したいと思いました」(富澤氏)

 ワンプッシュオープン機構はメカニカルな円形の部品を用いるだけに、小型化/小面積化、そして薄型化がやや難しいと思われる。また、円形のボタンやヒンジ形状などにより本機のテーマを実現するためのフォルムが崩れてしまうという懸念もあり、採用は見送られた。

 ただし、開けやすさ イコール 安心感に対するアプローチは当然盛り込んだ。本体/ディスプレイの周囲に斜めのふちを型どり、閉じた時に溝になるような工夫を設けてある。この隙間に指を入れてスパッと開くイメージだ。

 ちなみに周囲を斜めにするということは、薄型化でただでさえスペースに制限がある内部面積をさらに狭めてしまうことになる。実はこちらの方が技術的に困難だったようだ。


 厚さ11.4ミリのP703iμ。奇しくも“FOMA折りたたみ世界最薄”という称号は、どんな因果か、同日に発表されたNEC製の「N703iμ」と分かち合う結果となった。

 NECの技術陣は「“.4”や“.9”という数字は、“.5”や“1”という区切りの良い数字の手前であり、大きな目標となる。11.5ミリという数字では四捨五入すると12ミリになる可能性もあるという不満があります。コンマ1小さいという意味で、非常にこだわりました」(N703iμ開発者インタビュー参照)と述べており、そのコンマ1ミリ薄くする数値を目指したという。

 「同じ数値となったのはまったく偶然です(笑)。ただ、目標を実現する技術者“魂”的なものは一緒だったと思います。製造・開発にあたって、中の基板を膨らませたい、ある機能を外せばもっと薄くできるなどの技術的な要望も実はありましたが、今必要とされている機能を、数値達成のためだけに外すのは絶対に避けたいというこだわりを押し通しました」(林氏)

 携帯は今や、多くの人が所持し、ほぼ毎日手にする日用品。“厚さ11.4ミリで折りたたみFOMA最薄”というスペックがクローズアップされるが、P703iμはその限られたスペースに、所有満足度をさらに高める“何か”も演出したいという思いを込めた。その“何か”はP703iμに触れるたび、いつも感じられることだろう。

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