ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏は4月11日、WILLCOM FORUM & EXPO 2007で、同社の2007年度の戦略を説明した。
ウィルコムは、12年という歳月をかけ、日本全国に約16万局のマイクロセルネットワークを張り巡らしてきた。人口カバー率は、2007年3月の時点で99.3%。このネットワークは、パケット通信や通話の料金を定額にして、ユーザーの回線利用量が大幅に増えても問題なく動作するだけの容量を誇る。一方、アンテナがカバーする半径が狭いため、基地局と端末を結ぶ電波は弱くてよく、省電力で電磁波も少ないという特徴もある。
時間や場所、料金を気にすることなく、好きなだけ通話や通信が利用できる「No Limit」というウィルコムならではの特徴を実現しているのがこのネットワークだ。同社はこの特徴を維持しつつ、2007年度はさらに“リーズナブル”をめざして事業を展開していくという。
「2007年度は、もっとリーズナブルに、顧客に価値あるものを安く提供していく。ただ、安くといっても“チープ”ではない。あくまでもリーズナブルを維持する。その範囲の中で、PCやイントラネットといったアグレッシブな分野と、固定電話のようなコンサバティブな分野へのアプローチを進める」(喜久川氏)
同氏がアグレッシブな分野として挙げたPCやイントラネットへのアプローチとは、制限のない定額のデータ通信サービスやスマートフォン、先進のビジネスソリューションなどをさらに強化していくことを意味する。一方コンサバな分野へのアプローチというのは、定額での音声通話や低電磁波、高音質といった特長を生かし、ビジネスやファミリーなど、現在固定電話を使っているような層にもユーザーを広げていくことを意味する。
この戦略を実現するポイントとなるのが、ネットワーク、サービス、そしてプロダクトだと喜久川氏は話す。ネットワークとは、すなわち高度化通信規格「W-OAM」の拡大と、次世代PHSの開発だ。サービスは、法人向けやファミリー向け料金の充実とFMCサービスの導入。そしてプロダクトとは、オープンプラットフォームのさらなる推進と新製品の投入だ。
ネットワークのW-OAM対応は、「全国主要都市の中心部からどんどん進めている」(喜久川氏)という。ネットワークがW-OAMに対応すると、電波状態が悪い場所でも音声通話やデータ通信が従来よりも切れにくくなるほか、基地局の近くなど、電波状態がいい場所では、より高速なデータ転送なども可能になる。現在は基地局回線をISDNからIPネットワークへと変更している最中で、IPネットワークでのサービスが始まれば、現在は最大約500kbps程度となっている最大データ転送速度が最大約800kbps程度にまで向上する。
最大20Mbpsでの通信が可能な次世代PHSの開発も積極的に推進する。PHS Mou Groupにより標準規格として承認されている次世代PHSは、ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)でも広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の国際標準規格の1つとして、2007年3月に正式な勧告が出たという。日本国内では、周波数の割り当てが受けられれば、2009年から2010年頃に、東名阪の中心部からサービスを開始したい考えだ。
また、固定電話で利用しているサービスをPHSに置き換えていくFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスにも力を入れていく。もともとPHSは、家庭用コードレス電話機の延長線上にある技術であり、当初からFMC的な作りをしていることもあって、「ウィルコムは以前からFMCには積極的だった」と喜久川氏。例えば会社の電話回線にPHSアダプターを接続することで、オフィスと外出中の社員のPHSとの通話を定額にするような取り組みをすでに行っている。またデータ通信でも、AIR-EDGEやW-ZERO3などのスマートフォンを利用して、外出先から会社のイントラネットに接続できるような環境を提供してきた。「2007年の課題は、これをいかにお客様に使っていただくかが重要になる」(喜久川氏)
端末もさらなる充実を図る。シャープ製のWindows Mobile 6搭載スマートフォンを新たに投入するほか、東芝製の音声端末を1機種追加するという(4月12日の記事参照)。
また「WILLCOM SIM STYLE」のラインアップの拡充にも意欲を見せた。WILLCOM SIM STYLEは、通信モジュールがW-SIMという形で独立しているため、電話の基本的な機能を組み込んだ基板、あるいはプラットフォームとW-SIMを組み合わせれば電話の基本型ができる。あとはケースをかぶせれば端末が完成するため、通信機器の開発に関するノウハウがなくても容易に端末が開発可能だ。
そこでウィルコムは、このオープンプラットフォームを活用し、自由なデザイン、自由な使い方ができるコンセプトモデルをWILLCOM FORUM & EXPO 2007の展示会で提示した(4月13日の記事参照)。「製品化を前提としたものではなく、あくまでもコンセプトモデル」だと喜久川氏は話したが、「堅苦しかった電話機の世界で、もっとユーザーが楽しめるような展開ができれば」と、さまざまなメーカーとの協業の可能性に期待を寄せた。
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