今年は携帯電話のUIが見直された年だ。そのセンセーショナルなきっかけはアップルの「iPhone」であり、もっと実利的な面ではドコモの「らくらくホン」シリーズの根強い販売実績である。そして今年の秋冬商戦モデルでは、VIVID UIを全キャリアが採用。それぞれのアプローチで、UIの要素を商品力に結びつける取り組みが行われた。
アクロディアは“UIのルネサンス”とも言うべき今の状況を、どのように見ているのだろうか。
「先日の(ドコモ執行役員プロダクト&サービス本部プロダクト部長の)永田部長のインタビューにもありましたけれども、『携帯電話のUIはユーザーにあわせて最適なものを提供する』という考えが正しいと、我々も考えています。
例えば、アップルのiPhoneはかっこいいですし、私自身アップルユーザーなので大好きなのですけれど、iPhoneのUIだけですべてのユーザーのリテラシーがカバーできるわけじゃない。いろいろなリテラシーや趣向を持つお客様に、ひとつのUI体系をもって『これが最適だ』と打ち出すのは無理なんです」(堤氏)
iPhoneのUIに多くのユーザーと業界関係者が衝撃を受け、感嘆したのは、iPhoneがアップルの美学に基づいて“統一された世界観”を築いていたからだ。だが、堤氏はその裏にある「切り捨て」の存在を指摘する。
「欧米系の技術というのは、そもそも切り捨ての文化なんです。その点では、アップルとマイクロソフトは同じ(姿勢)で、『このUIが理解する人は使ってください、理解できない人は使わなくてもいいです』となる。マイクロソフトなどは特にこの傾向が強くて、『(マイクロソフトの)Windows系のUIが使いこなせれば仕事ができる人になれますよ。使いこなせなければ、そのまま(仕事ができない人)でいいです』となっている。UIで見ると、すごく切り捨てなんです。
しかし、こういった切り捨ての発想は日本市場には合わない。日本の携帯電話の考え方は、幅広いユーザー層に多くのサービスを使っていただくというものなのです。そこでは(ユーザーの)ライフスタイルやリテラシーにあわせて、それぞれ最適なUIを提供できる環境や体制が重要になる」(堤氏)
周知の通り、日本で携帯電話ビジネスが大きく発展したのは、キャリアが中心となってインターネットの仕組みやサービスを分かりやすく“ケータイ流にデフォルメ”し、多くの人が使いやすいようにリテラシーの敷居を下げたからだ。ユーザーに「学べ・理解しろ」と突き放すのではなく、理解してもらえるように歩み寄る。そこが欧米流の考え方と異なる。日本文化の特徴ともいえる、「おもてなし」や「察しと思いやり」の心にも通じる部分だ。
「このユーザーに合わせる、という時に重要になるのが『UIが切り替えられる仕組み』なのです。UIが切り替えられれば、ユーザー自身が自分で使いやすいように切り替えることもできますし、周りの誰かがその人に合ったUIにしてあげることもできる。(ドコモショップなど)キャリアショップでお客様と対話しながら、そのお客様にあったものをお勧めするともできます。UIはキャリアやメーカーが画一的に決めるのではなく、お客様が決められるようにすべきなのです。
この考えの下にアクロディアが目指したのが、(携帯電話をはじめとする)さまざまな機械のUIを抽象化することです。UIをハードウェアから分離し、抽象化することで、UIデザインを多くのクリエーターが創れるようにする。このコンセプトをキャリア各社にご評価いただき、VIVID UIが広く採用されたのです」(堤氏)
むろん、携帯電話メーカーの中には、クルマのエクステリアとインテリアの関係のように、ハードウェアとUIは対になるべきという意見もある。そのような考えに対して堤氏は、「メーカーのUIも、ユーザーによる評価と選択を仰ぐべき」だと話す。
「時々誤解をされるのですけれど、アクロディアは『このUIがいい』という提案をするわけではありません。我々はUIの部分を抽象化・自由化するだけですから、メーカーがその上に自身のUIを作ってもいいわけです。しかし、ユーザーがメーカー製のUIを使いにくいと感じた場合は、別のUIに載せ替えられるようにしておく。そうすることでユーザーの選択肢が広がりますし、メーカー以外の企業がUIデザインという新たな市場に参入することができます」(堤氏)
UIにおいて、誰もが満足して使いやすい「万人向けの模範解答」はない。そう強調する堤氏の持論は、VIVID UIという形を取り、その正しさが市場で評価されようとしている。そして同社のヴィジョンやビジネスにおいても、今はまだ道半ばなのだ。
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