ウィルコムが語る「迷惑電話チェッカー」「だれとでも定額パス」誕生秘話超・個性派(2/2 ページ)

» 2013年08月29日 11時00分 公開
[佐野正弘,ITmedia]
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スマートフォンにターゲットを広げた「だれとでも定額パス」

 そしてもう1つ、ウィルコムならではの独自性が光る商品として挙げられるのが「だれとでも定額パス」だ。これはAndroidスマートフォンとBluetoothで接続し、スマートフォンを“子機”にしてウィルコムのPHSによる通話を可能にする、カード型のデバイス。いうなれば、“Wi-Fiルーター”ならぬ“Bluetooth通話ルーター”と呼ぶべき商品だ。

photophoto ウィルコムの阿部氏(写真=左)と筒井氏(写真=右)

 ウィルコム マーケティング本部 商品企画部 端末企画課の阿部祐一氏によると、この商品を企画した背景には、やはり現在のウィルコムの主力サービス「だれとでも定額」が、提供開始後から人気となり、多くのユーザーに受け入れられたことがあるという。だれとでも定額のサービスを、どうしたらより多くの人に使ってもらえるか……と考えた結果、生まれたのがだれとでも定額パスのアイデアであったという。

 だがこれまでにないデバイスだけに、現在の形に至るまでにはかなりの試行錯誤があった。当初はスマートフォンに直接接続し、スマホから電源を得るモジュール型なども考えたが、「万が一に事故などが起きた時、責任の切り分けが難しくなる」(阿部氏)などの理由で断念。そこで無線通信によって通話する形を考え、当初は汎用性のあるWi-Fiを検討したものの、バッテリー消費が大きく実用性に欠けることが判明。最終的に消費電力が少ないBluetooth経由で接続する、現在の形に落ち着いたという。

photophoto 名刺入れや定期入れに入るカードサイズの本体

 しかしそれでもなお、本体の形状やサイズに関しては試行錯誤が続いたと、阿部氏は話す。バッテリーとアンテナがなければ、かつてウィルコムが展開していた「W-SIM」程度まで小型化できるそうだが、一方で実際に多くの人に利用してもらうためには、現実的な持続時間を実現するだけのバッテリーを搭載し、それでいてスマートフォンと一緒に持ち歩きやすい形状を実現しなければならない。

 前例のない商品であることからさまざまな形状の試作品を開発して試行錯誤を繰り返し、最終的には薄くてポケットにも収まりやすい、カード型のデザインとなった。

スマートフォンを“子機”にする独自プロファイルを作成

 そしてもう1つ、苦労したのがBluetoothのプロファイルだと、同 技術本部 プロダクト開発部 端末技術課の筒井竜志氏は振り返る。

photo だれとでも定額パスは、専用アプリをインストールしたAndroidスマホとBluetooth接続して、初めて利用できる

 ハンズフリー通話を行うBluetoothヘッドセットは、携帯電話やスマートフォンが“親機”になる。一方、だれとでも定額パスは、デバイスの管理をアプリで行うため、スマホを“子機”として接続する必要があった。ところが、スマホを親機にするプロファイルは存在するが、スマホを子機として接続するプロファイルは存在しない。また、AndroidはGSMや3Gはサポートしているが、PHSは標準でサポートされておらず、BluetoothでPHSの電波の強さや、電池の残量などをやり取りする方法も存在なかった。

 そこで開発陣は、独自に「PVP」(PHS Voice Profile)というプロファイルを作成。これを用いてスマートフォンとだれとでも定額パスをBluetoothで接続し、音声通話する仕組みを実現した。このプロファイルの開発には、ウィルコムだけでなく開発元のTJCらソフト・ハード双方の開発者が合宿して仕様を詰めるなど、相当の苦労があったという。

 こうした独自の仕組みを採っていることから、スマホ側でPHS通話をするには、標準の電話アプリではなく、専用の電話アプリを別途Google Playからダウンロードする必要がある。このアプリは、スマホ内の連絡先や発着信履歴を読み込んで利用できるほか、PHSだけでなく3Gによる発信も選択できる。こうした点は、PHSを搭載したウィルコムのスマートフォンとほぼ同じ仕組みといえるだろう。

photophotophoto だれとでも定額パスの専用アプリは、PHSのアンテナピクトやバッテリー残量も表示する。またBluetooth経由のPHSだけでなく、スマホ自体の電話(3G通信)もかけられる(写真=左、中央)。ウィジェットも用意した(写真=右)

 なお、だれとでも定額パスの電源が切れている場合は、留守番電話サービスに入っていればそちらに案内されるが、そうでない場合は圏外と同じ扱いになるとのこと。また電源は入っているが、スマートフォンとの接続が切れている時に着信があった場合は、着信履歴を保存して、再接続した時にそれをスマートフォン側に反映させる。

 だれとでも定額パスの仕様で気になるのが、対象スマホがAndroidスマートフォンに限られ、iPhoneで利用できない点だ。これについて筒井氏は、「iOSではBluetoothのプロファイルでスピーカーとマイクを制御できない制約があり、オリジナルのプロファイルを作成できなかったため」と説明。「回避策、あるいは新しいやり方を検討している」(筒井氏)そうだが、現時点ではその方法は見つかっていないようだ。

 だれとでも定額パスは、このように携帯電話のみならず電話機の歴史の中で初めて登場したタイプの製品だ。阿部氏によると、発売直後の段階では、「スマホや携帯電話に比較的詳しい個人からの反響が大きい」という。また、1つのスマートフォンでビジネスとプライベート、2つの通話料金を明確に分離できることから、法人からの問い合わせも増えているとのこと。とはいえ、新しいタイプの商品としてビジネスの可能性はまだまだ未知数だ。阿部氏は「ニーズが大きければ今後も改善を続けて商品価値を高めていきたい」と述べ、今後への意欲をのぞかせた。

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