ドコモは1月16日、Tizen搭載スマートフォンの発売を、「当面見送る」と発表した。
Tizenとは、iOS、Androidに次ぐ“第3のOS”として話題を集めたOSで、Samsung電子やIntel、ドコモ、仏キャリアのOrangeといったメーカーやキャリア、チップベンダーが中心となって開発を進めている。Linux Foundationの下部組織としてTizen Associationが結成され、ここがビジネスモデルや仕様の策定を行っていた。アプリは、Webを記述するのに一般的な「HTML5」で作成する。iOSやAndroidと同様、ネイティブアプリにも対応する。2013年のMobile World Congressでは、ドコモが年内に対応端末を発売すると表明していた。
一方で、ドコモの冬モデルにはTizenを搭載したスマートフォンがラインアップされていなかった。冬春モデルの発表会では、ドコモの代表取締役社長 加藤薫氏が「一生懸命開発している。さらに強化すべき項目を洗い出してやっているところ」と遅れの理由を述べていたが、結果として発売は見送られてしまった。CESに合わせてドコモUSAが開催したイベントで、ドコモの代表取締役副社長、岩崎文夫氏が「開発を続けている。(Mobile World Congressで発表かとの問いに対し)そのぐらいには間に合うのではないか」と語っていたことから、直前まで発売を予定していたものの、急転直下で方針が変わった様子がうかがえる。
ドコモによると、今回見送られたのは「2013年度内の発売を予定していた機種」(広報部)となる。これは、開発を進めていた端末の発売を中止するという意味で、Tizenそのものに対する取り組みをやめたわけではない。ドコモは「Tizen Associationのボードメンバーは継続していく」方針だ。一方で、2014年以降の発売については、「可能性はあるが、現時点で未定」(同)となっている。事実上、発売のスケジュールは白紙になったと見てよさそうだ。
発売を見送った理由は、「簡潔に言うと、今がそのタイミングではないということ。市場環境の変化に鑑みて、今出すことが適切ではないと判断した」(広報部)ことにある。もともとTizenは、フィーチャーフォンからの受け皿になるスマートフォンを想定していた。2013年のMobile World Congressでは、チェアマンの永田清人氏(現・ドコモ関西支社長)が「UIは新しいイメージで、簡単に使えると思えるものをやっていく」と語っており、dメニューやdマーケットをキーにした端末を構想していた。
一方でドコモは2013年、iPhoneの発売に踏み切っており、フィーチャーフォンから移行するユーザーの受け皿としての端末になっている。iPhoneがラインアップに加わったことで、Tizenのポジショニングが難しくなった可能性はある。また、冬春モデルの調達時には計算外だったiPhoneの導入によって、ラインアップ全体の在庫を以前より抱えていることも、Tizenの発売を見送った要因の1つと考えられる。
Tizen端末の発売に向けドコモが音頭を取り、コンテンツの準備も進めていたため、突然の発表にコンテンツプロバイダー関係者からは「地雷を踏まされた」と恨み節が聞こえてくる。市場性のない端末の発売を見送り傷口が広がるのを防げたことを英断と評価する向きもあるが、判断のタイミングが直前になってしまった点はドコモの失策といえそうだ。
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