「関西からドコモを変える」――永田支社長に聞く、ドコモ関西の防災対策とウチスマの挑戦(1/2 ページ)

» 2016年02月05日 06時00分 公開

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から21年。携帯電話を取り巻く環境は大きく変わり、当時にはなかったスマートフォンを多くの人々が使うようになっている。

 今回、ITジャーナリストの神尾寿氏がNTTドコモ関西支社長の永田清人氏に単独インタビュー。南海トラフ地震に備えた防災への取り組みや、大きなイベントでの電波問題の改善、ドコモショップの新しいトータル提案型サービス「ウチスマ」など、ドコモ関西のさまざまな取り組みについて話を聞いた。

NTTドコモ関西支社 NTTドコモ関西支社長 永田清人氏

関西在住者は南海トラフ地震に敏感

――(聞き手:神尾寿) 関西の方々は南海トラフ地震に関する関心度は高いですか。

永田清人氏(以下、永田氏) 私は31年横浜に住んでいましたから、「地震は頭の中に入っている」程度ですが、関西在住者はより真剣に考えていますね。「海側にある設備は大丈夫か」「ハザードマップで最大値の津波が来た時に設備的に大丈夫か」など、地震は一番の関心事です。私でもそう思っていますので、関西の方は特に見られていると思います。

 また、阪神・淡路大震災から2015年で20年がたちました。ちょうど南海トラフ地震対策を言い出した頃、ローカルのテレビ局や新聞で震災20年の特集が組まれ、われわれの取り組みも取り上げられるようになりました。タイミング的にも阪神地区は防災意識が高まっているのではないでしょうか。マスコミの方も関心を持っていただいていると思いますので、関西では全国で発表する前から防災対策を声高にやっています。

―― 南海トラフ地震対策を体系立ててやったのは、結構最近のことですよね。

永田氏 和歌山での対策は、2014年9月に冬商品の発表会で発表しました。関西全域は3月までに全部やりますと宣言しました。ネットワークの人には申し訳ないですが、「締め切りまでにやります」とはっきり言いました。

―― これまで震災を数多く経験して、いろいろなノウハウを蓄積していると思うのですが、関西での取り組みにおいてドコモならではのスタンスや特徴はありますか。

永田氏 大ゾーン基地局は、東日本大震災の後に最初に出てきた案件の1つです。東日本大震災では、津波で何がダメになるのかが相当強烈に分かりました。通信の命である基地局が全部なくなり、伝送路と電力線が切られてしまう。和歌山はまさしく電力線も通信線も海沿いの道に張っていますから、津波が来たら絶対に切れてしまいます。

NTTドコモ関西支社 大阪某所にある大ゾーン基地局が建てられた鉄塔

―― 中ゾーン基地局は燃料電池を入れて電力を確保しつつ、山の中にマイクロ波の中継局を置いています。マイクロ波のネットワーク地図を見せてもらいましたが、そのカバー範囲が思いのほか広いのに驚きました。沿岸部の基地局を個別にカバーするのではなく、(沿岸部を)ぐるりと囲むようにマイクロ波のバックボーンが用意されている。固定網の伝送路が丸ごと喪失しても、ネットワークが作れるような配置になっています。

永田氏 だから全部線が切れても一応ネットワークは使えるということです。和歌山のゾーン対策はみんな頑張ってくれたと思いますよ。

―― また電力喪失対策にしても、中ゾーン基地局であれだけの燃料電池をきちんと設置・運用していると知り驚きました。基地局への燃料電池への導入規模は、世界的に見ても類を見ないものだと思います。

永田氏 確かに燃料電池にこれほど力を入れているキャリアは、他にはないと思います(笑)。市役所などの重要な行政施設にある基地局ならば24時間のバッテリーで対応可能ですが、中ゾーン基地局の設置場所は災害時にすぐに行ける場所ばかりではありませんからね。実際、南海トラフ地震で和歌山の沿岸地域が被災した場合は、津波により人がすぐに行けない可能性があります。東日本大震災のケースではおおよそ3日で被災地の基地局に復旧部隊が派遣できていたため、中ゾーン基地局では電源を3日持たせることを前提にして燃料電池を採用しました。新しい技術なので初期トラブルもありましたが、今は安定していますし、チャレンジさせてもらっていると思います。

NTTドコモ関西支社 中ゾーン基地局に設置された燃料電池装置

―― 一方、大ゾーン基地局は人口密集地をきちんとカバーする形になっています。実際に上ってみて、その高さに驚きました(笑)

永田氏 そうですね。大ゾーン基地局は、大震災などに際して、可能な限り迅速に人口密集地の通信を広域で確保するためのものです。ですから、(広域をカバーするために)通常の基地局では考えられないほど高い場所に通信設備を置いていますし、平時では全く使用していません。まさに「災害時など非常時のためだけの設備」です。しかし、人口の多い大都市を守るためには絶対に必要なものです。

どうプロモーションするか、を前提に高速インフラを整備

―― 災害対策が日本のキャリアとして最重要の取り組みである一方で、通信インフラはキャリア間の競争領域でもあります。とりわけスマートフォン時代になって、エリアの広さだけでなく、通信品質も求められるようになりました。このインフラ競争の争点は、地域差がかなりある部分でもあるのですが、永田さんから見て、関西の地域特性はどのようなものでしょうか。

永田氏 関西は人口密集地が京都・大阪・神戸で、湾に面したところが多く、(エリア整備が)やりやすいといえばやりやすいですね。しかし、これは競争相手も同じですから、単純なエリアのカバー範囲という点では、キャリア間の差がつきにくいという面もあります。

―― 人が集まるということは、密集地域でどれだけトラフィックがさばけるかが競争軸になると思います。

永田氏 そこは力を入れています。ローカルな場所はわれわれはもともと強いので、当然強みを生かしてやっていきます。あとは、実感しやすさというか、分かりやすさが大事ですね。特に最初のインパクトは重要で、150Mbpsが京阪神でいち早く使えるようにした。ドコモ関西はネットワークがいいよ、と印象づけました。

―― 人口密集地ならではのトラフィック対策が必要になると。

永田氏 東京の方がスケールは大きいですが、方法論としては同じです。われわれの方がある程度エリアも組織もコンパクトだから、早く形にして見せやすいと思います。

―― 早く形にして見せやすいゆえに、ライバルとの競争にもなりがちですよね。

永田氏 2年半前に来た時は、ソフトバンクがCMでナンバー1を強調していた時でした。確かにドコモは第三者の評価ではお客さまには実感ができない状態で、「平均的に速い」という状況だったんです。その状態をひっくり返すには、ショップにポスターで貼れるようなものを早く作らなければいけませんでした。

―― 最近はイベントに災害対策用の移動基地局を使う活動もされていますね。

永田氏 可搬型移動基地局(P-BTS)は災害時だけでなくイベント対策でも使っています。当然、防災の取り組みはやっていますが、それだけではもったいないですから。関西では祇園祭や天神祭など、巨大な祭りがあります。

 僕が来た2年半前、規制ばかりかけてユーザーからは「つながらない」と言われており、「なんとかしろ」とは言っていました。そこで「P-BTSを出せばいい」と提案すると、(社内から)「焼け石に水ですよ」と笑われましたよ(笑)。

 その頃はまだ150Mbps(の通信サービス)が始まっておらず、最新の基地局設備もポツポツと分散していた。ある程度地域をまとめて高速化対応させる「ゾーン化」ができていませんでした。しかし、それでは一生懸命やっていても、プロモーションができずユーザーに価値が伝わりません。そのため、まず環状線全域とUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で150Mbpsをカバーしました。さらにイベントも人が集まるところですので、周辺基地局の能力を上げた上で、移動基地局も出しました。2015年の大きいイベントでは、ほぼ輻輳(ふくそう)の問題は解決しています。

 ちなみにそういったイベント後のネットの書き込みでは、ドコモの評判を気にしますよ(笑)。褒めていただけることもあるのですが、「つながらない」「他社の方がいい」とお叱りを受けることもある。厳しい言葉にめげそうになりますが、そういったお客さまの声には真摯(しんし)に向き合っていかなければなりません。

NTTドコモ関西支社 ドコモ関西が配備する移動基地局車「P-BTS」

―― SNSや掲示板への書き込みにまで目を通すというのは、なかなか大変ですね。しかし、ドコモはユーザー数が多いですから、批判の声が出るのはある意味で仕方がないのでは?

永田氏 「ドコモはユーザー数が多いから遅くてしょうがない」とも言われますが、それに甘えてはいけません。それを言い訳にしてはなりません。それに関西は、東京に比べればドコモのシェアが低いです。ただ他社に比べて、契約者数に対して割り当てられている周波数が少ないのは事実です。

―― 確かにドコモは割り当てされた周波数あたりの契約者数が多く、他社よりも不利な状況にありますね。

永田氏 しかし、それを言い訳にしたり、嘆いたりしていてもはじまりません。知恵を絞り、努力をし、販売の現場できちんと競争力のある数字(実効通信速度)で勝負できるようにしなければならない。お客さまに満足していただくにはどうすればいいか、を考えなければなりません。

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