ユーザーが多いほど効率アップ “生中継”に効く動画配信技術「LTE-Broadcast」とは(3/3 ページ)

» 2016年10月28日 22時00分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
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ユニキャスト方式の限界 キャリアのメリットが大きいLTE-Broadcast

 国内キャリアでいち早くLTE-Broadcastへの取り組みを明らかにしたソフトバンク。瀧川氏はその理由について、「ユーザーよりも事業者側のメリットを探る意味合いが強い」と話す。動画視聴によるトライフィックへの影響が増えている以上、キャリアとしてもいち早く対策しなければならないという。

 ネット上のデータ通信は、サーバとクライアント(PCやスマホなどのユーザーデバイス)が1対1で通信するユニキャスト(Unicast)方式のため、クライアントが増えればその分だけ負荷が高くなる。ライブ中継のように複数のユーザーが同じデータを同時に受け取る場合でも、それぞれのリクエストに応えてデータを個別に送らなくてはならない。

LTE-Broadcast ユニキャストはクライアントが増えればその分だけ負荷が高くなる

 大勢のユーザーが同時に接続すれば回線が混み合い、映像が途切れる、あるいは遅延が大きくなるなど、生中継コンテンツのライブ感は大きく損なわれてしまう。さらに回線全体のパフォーマンスが落ちれば、その他のユーザーにも影響を与えてしまうだろう。固定回線と比べてキャパシティーが少ないモバイル回線で生中継コンテンツの利用を促進するには、インフラ面で今まで以上の効率化が求められている。

LTE-Broadcast ユーザー数に比例してもトラフィックへの影響が少ないブロードキャスト

 LTE-Broadcastは“ブロードキャスト”という名称の通り、4G通信のLTEをベースにしつつ、送信データを複数端末が同時に受信できるよう拡張した技術だ(マルチキャストともいう)。ユーザー数に比例してトラフィックが増えることがなく、テレビやラジオの放送のように、1対複数で情報を伝えられる。受信に失敗した場合や試合中に(リアルタイムではない)リプレイ動画を見る場合は、ユニキャストの既存LTEへシームレスに切り替わり、データを補足することも可能だ。

 単にトラフィックを増強するだけなら基地局の増設やWi-Fiスポットの拡充など、既存インフラを強化する手もある。しかし瀧川氏は、「ユニキャストである以上、今後もデータ容量が増えれば同じ問題になる。コストの問題もあり、根本的な解決策とはいえないだろう」と述べた。LTE-Broadcastを推進するQualcommの後押しも大きかったようだ。

 ちなみに、モバイル分野で同報配信技術が生かされるのはLTE-Broadcastが初めてではない。既に広く普及しているのが、緊急地震速報などを伝える緊急速報メールだ。ユニキャスト方式の宿命でもある回線の混雑(輻輳)を起こさず、命に関わる災害情報を多くのユーザーに配信できる。

LTE-Broadcast 緊急地震速報もブロードキャストの仕組みで提供されている

 3G向けの緊急速報メールは、NTTドコモやソフトバンクなどのW-CDMA陣営ではCBS(Cell Broadcast Service)、CDMA2000陣営のKDDI(au)はBC-SMS(Broadcast SMS)という方式が使われていた。これらとは別に、auがBCMCS(Broadcast Multicast Service)と呼ばれる技術を使って、独自のニュース配信サービスを行っていたこともあった。通信規格が4GのLTEへ進化してからは、使われている設備の違いを考慮して新方式かつ緊急情報専用のETWS(Earthquake and Tsunami Warning System)に統一された。

 4Gでは緊急性が高い情報だけでなく、HDクラスの映像をリアルタイム配信できるよう、eMBMS(evolved Multimedia Broadcast Multicast Service)と呼ばれる技術も標準化。このeMBMSを用いるのがLTE-Broadcastで、データの大容量化に伴い、エンターテインメント分野での利用が期待されている。

既存のLTEを拡張してスピーディーな導入が可能

 新サービスの開始には設備や端末側の対応も必要だが、LTE-Broadcastは既にLTE規格で標準化されており、4Gのインフラ設備を大きく改修することなく提供できるという。FDDだけでなくTDDやキャリアアグリゲーション(CA)といったLTEの新技術にも対応している。今回の実証実験も設備は汎用の機器が使われ、それを商用のコアネットワークに接続して行われた。

LTE-Broadcast 実証実験の全体像

 またQualcommが2013年以降に出荷しているスマホ向けのSnapdragonは、全てLTE-Broadcastの受信をサポートしている。しかしLTE-Broadcastの商用サービスは米国でも始まったばかりで、その機能は無効にされているのがほとんど。チップの機能を有効にするだけでなく、ミドルウェアを追加する必要もあり、無線によるソフト更新(OTA)では対応できないという。ちなみに実験用のスマホはメーカー(シャープ)がカスタマイズした端末が使われた。今後LTE-Broadcastを商用化する際は、対応端末の開発が必要になる。

 業界的には導入環境が整っているLTE-Broadcastだが、具体的なサービス像に乏しく、商用化が遅れているのが実情といえる。繰り返しになるが、キャリアとしてもモバイル環境における映像配信のニーズは高まっており、同報配信技術の活用が急がれる。

LTE-Broadcast 実験に参加した10社の役割

 瀧川氏によると、今回の実験はソフトバンクと福岡ソフトバンクホークス、TVバンク、Wireless City Planningのグループ各社に加え、Qualcomm、ZTE、シャープ、データスタジアム、Intellicore、QUICKPLAYと、日仏中の10社が参加。2015年末に検討を開始し、その後の具体的なキックオフから約5カ月で実証実験にこぎ着けたという。今回の実験結果が良好であれば、LTE-Broadcastのスタートは意外に早いのかもしれない。

(取材協力:ソフトバンク)

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