「3日間あたりの通信規制」はなぜ必要?MVNOの深イイ話

» 2017年01月26日 06時00分 公開
[佐々木太志ITmedia]

 筆者が担当しているIIJmioの公式Twitterアカウントに時折寄せられるご要望として、「低速通信時の3日間あたりの通信規制を緩和してほしい」というものがあります。規制緩和をご希望されるお客さまのお気持ちはよく分かるものの、お客さま間の公平性に関する現状をゆがめかねない通信規制の緩和は、なかなか難しい問題です。今回は、この「3日間あたりの通信規制」について考えてみたいと思います。

通信規制 毎月定められた通信量を超えると、通信速度が制限される(写真)が、3日間あたりの通信量を決めているキャリアやMVNOもある

3日間通信規制はナンセンス?

 筆者の所属するIIJを含めたいくつかのMVNOが採用しているのが、料金プランごとの月間のデータ通信量とは別に、3日間あたり(※1)のデータ通信量を制限し、超過した場合に通信速度を遅くする制限を課す通信規制です。

 例えばIIJmioの場合は、低速通信状態(料金プランごとの月間の高速通信可能なデータ量を使い切った状態、または高速通信をオフにして通信速度が最大200kbpsに制限されている状態)で、連続する3日間で366MBを超える通信を行った場合、その翌日の通信速度を制限する、というものです。他のMVNOでの実装については、ご利用中のMVNOのWebサイト等をご確認ください。

通信規制 IIJmioでは、月間のデータ通信量を定めていない低速通信のみ、通信量が3日間で366MBを超えると、翌日の通信速度が制限される

 これは、実は純粋に技術的に見ればある意味ナンセンスにも見える規制です。この種の通信規制に込められた事業者の意図を想像してみると、「料金プランごとの月間のデータ通信量を、その月の中でなるべく偏りなく使いなさい(短期間で一気に使ってはダメですよ)」ということとなります。

 ですが、仮に利用者がその月間のデータ通信量を短期間で一気に使うような偏りを持っていたとしても、または月の中で平均的に消費したとしても、さまざまな使い方をする多数の利用者を一律にならせば、用意しなくてはならない通信設備の総能力はそう変わりません。

 設備設計の面では、利用者が月間に平均的に何バイト使うか、何時頃に使うかということが重要で、それが30日間にかけて平均的に使われていようが、特定の1日に一気に使われていようが、巨視的に見ればほぼ同じなのです。

(※1)他の期間を採用しているMVNOもあります。

なぜ3日間なのか?

 では、なぜ3日間あたりのデータ通信量を制限する通信事業者がいるのでしょうか? 過去を調べてみると、この種の通信規制が携帯電話サービスにおいて見られるようになったのは2009年10月のことで、NTTドコモが開始したものです(筆者調べ)。

 2009年当時は、今のように月間○GBという制限をかけるためのリアルタイム制御技術(PCC)がまだない時代だったため、ドコモのデータ通信定額制サービス(パケ・ホーダイやパケ・ホーダイフルなど)は、本当に使い放題のプランだったのです。そのため、極端に大量の通信をする少数のヘビーユーザーが、利用者全体の月間平均データ通信量、つまり通信事業者が用意しなければならない設備の量を大きく上昇させることが可能でした。

 当時はまだLTEの登場前であり、増え続けるデータトラフィックを前に、MNOといえども設備の増強に苦労していた時代でした。そのため、一部のデータ通信の多いお客さまを対象に通信を規制することで、限られた設備を多くのお客さまに公平に使っていただけるよう、こういった3日間あたりのデータ通信量による通信規制が導入されたのです。

 つまり、この種の規制が誕生した当時は、今の視点から感じる「利用可能な月間のデータ通信量を月の中でなるべく偏りなく使わせる」が意図するところだったのではなく、データ通信量の極端に多い利用者をターゲットに、そうではないお客さまとの間の公平性を保つことを目的とした通信規制だったのです。そして、その後同様の通信規制はKDDI、ソフトバンクといった他のMNOにも広がっていきました。

通信規制 2009年にNTTドコモの請求書に同封されたリーフレットに記載された通信規制導入についてのお知らせ。「300万パケット」は366MBとなる

次第に広まった料金プランによる公平性確保

 2012年2月には、PCCによりデータ通信速度をリアルタイムに制御する、今の携帯電話の料金プランの大本となった定額制料金プランをIIJが実現し、ヘビーユーザーの方にはより高い料金プランを、そうでない方にはより安い料金プランをご提案することが可能となりました。

 同時に、PCCにより実現された新しいタイプの定額制料金プランにより、その気になれば普通のお客さまの数百倍以上も使えてしまう、それまでの完全使い放題の定額制料金プランと違い、少数のヘビーユーザーに利用者全体の月間平均データ通信量(設備コスト)が大きく左右されることがなくなったのです。

 MVNOが先行して導入した、PCCによる新しいタイプの定額制料金プランがMNO各社でいわゆる「新料金プラン」として広まった2014年以降、料金プランである程度の公平性が保たれるようになり、MNOや一部のMVNOでは、徐々にこの種の通信規制の条件緩和や撤廃が行われています。

 これは、通信技術の進歩により、通信規制に込められた当初の通信事業者の意図が時代遅れとなったという分かりやすい一例でしょう。

 なお、筆者の所属するIIJでは、2012年にPCCを導入しIIJmioサービスを開始した当初から、この種の3日間あたりの通信規制は、料金プランの月間○GBの枠外の通信(いわゆる低速通信状態)にのみ適用をする運用としており、月間○GBの枠内の通信(高速通信)についてはこの種の通信規制の適用は行っていません。

 これは、料金プランの中で月間に利用できる通信量を定義している以上、月間○GBのデータ通信を偏って使っていただくことを規制する必要がなく、また一気にお使いいただいたとしてもIIJの設備にインパクトを与えるものではない――というここまでご説明した考え方に基づくものです。ですので、月間○GBの枠の中の通信(IIJmioの用語で言うと、クーポンがオンになっていて、かつクーポン残量がある場合)は、3日間あたりの通信規制が適用されることはありません。

 今後、ストリーミングによる音楽やビデオの視聴が更に普及する中、こういった通信規制についても新しいスタンダードが求められていくのかもしれません。冒頭に書いたように、この問題はなかなか全員の利益になる回答のない難問ですが、われわれ通信事業者としても、必要悪である「通信規制に込める意図」についてはこれまでも考え抜くようにしてきましたし、今後もそう努めていかなくてはいけません。

著者プロフィール

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佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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