米商務省がHuaweiに事実上の「禁輸措置」 スマホやタブレットへの影響は?(2/2 ページ)

» 2019年05月22日 07時00分 公開
[井上翔ITmedia]
前のページへ 1|2       

発売済み機種

 リスト追加前に発売を済ませた機種については、必要なソフトウェアのライセンス契約を締結済みであると考えるのが自然だろう。よって少なくとも“出荷時のバージョン”におけるアプリのアップデートやソフトウェア更新は問題なく受けられるだろう。

 GoogleはTwitterのAndroid公式アカウントを通して「Google PlayとGoogle Play Protectによるセキュリティは既存のHuawei端末で機能し続ける見通し」という旨のコメントを公表し、Huaweiもデバイス部門の呉波(ゴハ)日本・韓国リージョンプレジデントが「Androidの使用と継続的なセキュリティアップデート、アフターサービスで影響を受けることはない」と明言している

 20日に発表された措置と合わせて考えると、“出荷時のバージョン”におけるアプリのアップデートやソフトウェア更新は安心できそうだ。

 問題はOSをバージョンアップする場合にある。

 Androidは「Android Open Source Project(AOSP)」を通してOSの基盤部分が無償公開されている「オープンソースソフトウェア」だ。一般に公開されていて自由に入手できるため、リスト掲載に伴う輸出規制に抵触しない可能性が高い。ただし、ソフトウェアが用いる暗号化のアルゴリズムや暗号鍵の長さによっては、規制に抵触する場合もある。

 ともあれ、OS“だけ”をバージョンアップするなら「できなくはない」という結論になる。

AOSP AndroidのOS部分はAOSPを通して無償公開されている

 しかし、Googleが提供するサービスやアプリまで範囲に入れると話は変わる。

 Android端末がGoogle PlayやそれにまつわるAPI(命令群)を利用したり、Google純正アプリをプリインストールしたりするには、Googleから「Google モバイル サービス(GMS)」の認証を受けなければならない。

 認証は「互換性試験」に合格すれば得られるが、同一端末でもOSをバージョンアップをする際には再試験が必要となる。この再試験においてGoogleとHuaweiとの間で新たな契約が生じる場合、その内容によっては輸出規制に抵触する可能性がある。規制に抵触すると、Googleが米商務省から何らかの処罰を受ける可能性もある。

 よって、現時点では断言できないものの、今後、中国以外向けの(≒Google Playに対応する)Huaweiスマホ・タブレットのOSバージョンアップが困難になる可能性がある

 ただ、冒頭で述べた通り、米商務省は携帯電話のソフトウェア更新に必要な取引は一時的に認める措置を講じており、始まったばかりながら延長も検討されている。この措置が有効な間であれば、OSバージョンアップは問題なく行われると思われる。

GMS Google Playなどを利用するには、Googleの互換性試験に合格する必要がある

発表済み未発売機種

 既に発表済みで未発売の機種は、ソフトウェアなどに関する必要なライセンス処理などは済んでいるだろう。しかし、先述した取引の一時許可は5月16日までに発売された機種が対象。そのため、5月17日以降に発売される機種は、今回の措置の対象外となってしまう。

 それを踏まえると、出荷時のバージョンにおけるアプリのアップデートやソフトウェア更新は可能と思われるが、OSバージョンアップをできるかどうかは不透明という状態にある。

一時許可条件 BISが20日に発出した取引の一時許可条件。発表済みであるものの、5月16日までに発売されていない端末の取り扱いがどうなるかは不透明

未来の機種

 未来の機種については、ソフトウェアについて必要なライセンス認証等をまだ締結していないものと思われる。よって、Huaweiとその関連会社からリストから削除されない限り、米国由来のソフトウェアの搭載は困難になるだろう。特に、ライセンス料金が発生するものの搭載は絶望的だろう。

 先述の通り、エンティティリストに記載されていても、Huaweiの取引先がBISから承認を得られれば搭載は可能だろう。しかし、これも先に触れた通り、リスト掲載対象に対する輸出許可は「原則拒否」となっているため、現時点では、将来のHuawei端末でGoogleサービスのアプリや米国由来の有償ライセンスによるソフトウェア技術が使えなくなる可能性が高い

 Huaweiは独自のアプリ配信基盤を持っているので、そこを介してアプリを配信するという選択肢も取れなくもない。しかし、米国の企業や個人が作成したアプリは輸出規制によって配信できない可能性がある。FacebookやTwitterといったSNSやYouTubeを始めとする動画サービスならWebブラウザ経由でも使えるだろうが、専用アプリと比較した際に利便性の面で劣後する可能性もある。

 Google Playが最初から使えない(そもそも入っていない)中国市場はともかく、それ以外の市場でよく使うアプリを取りそろえた配信基盤の整備ができれば話は別だが、「よく使うアプリが見当たらないスマホ」にどのくらいの価値があるのだろうか……。

AppGallery Huawei独自のアプリ配信基盤「AppGallery」。Google Playと比較すると、ラインアップは少ない

 現時点ではユーザーへの影響範囲が読み切れない今回の問題。あらゆる意味で予断を許さない状況にある。

 直近の類似事例としては、2018年4月、中国ZTE(中興通訊)が輸出管理規則(EAR)に違反したことに関して、米国の企業や個人との7年間の取引禁止を命じられたことがある。

 この措置の影響で、同社は主要な営業活動の中止に追い込まれ、端末のソフトウェア更新サービスを停止せざるを得なくなってしまった。

 その後、同社は6月に商務省の定める条件を受け入れて制裁解除に合意。7月14日までに制裁は全面解除された

 Huaweiの場合は一体どうなるのだろうか。とにかく「ユーザー第一」の姿勢で推移してもらいたいものだ。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年