ローカル5G向けの端末「5Gコネクティングデバイス」も、同社の戦略が存分に反映されている。これはさまざまな機器を接続して5Gでの通信を可能にする“SA対応のルーター”というべき小型の端末で、Wi-FiやBluetoothなどの無線通信の他、USB端子やHDMI端子なども備え、有線での機器接続にも対応している。
もう1つの特徴は、外付けのユニットを接続して拡張できること。USB端子経由で接続でき、接続することでより多くの有線インタフェースに対応できる他、最大100台の機器と接続できるようになる(5Gコネクティングデバイス単体では20台まで接続可能)。
京セラは現在、法人向けの端末として「IoTユニット」などのIoT通信機器に力を入れているが、同社の通信技術部 商品企画部 商品企画課責任者の三輪智章氏によると、5GコネクティングデバイスはIoTの部隊ではなく、スマートフォンの部門で開発が進められたものなのだという。5G時代のデバイスの在り方を考えたとき、あらゆる産業と通信の融合が図られることから、さまざまな産業の機器をモバイルネットワークに接続したいというニーズを満たすべく開発されたそうだ。
ユニットの接続で多種多様なインタフェースが利用できるという点からも、あらゆる産業のユースケースに対応できることを意識したことが分かる。だがもう1つ、この端末はルータータイプでありながら、実は性能がかなり高い。例えばプロセッサにはQualcommの「Snapdragon 855」を搭載しており、デバイス上でスマートフォンと同等の処理が可能だという。その理由について三輪氏は「現時点で、5Gに対応するチップセット調達の選択肢がなかった」と話すが、一方で処理性能の高さを生かし、端末をエッジデバイスとして活用し、クラウドでの処理負担を軽減することも想定しているそうだ。
5Gでは現状、キラーアプリが見つかっておらず、PoCがしばらく続くことから、多様なユースケースに対応すべく、あえてオーバースペック気味の内容にしているとのこと。ある程度用途がはっきりしてきたら、より機能やインタフェースをそぎ落とし、用途に適した端末を開発していくことになると三輪氏は話している。
そうしたことから、5Gコネクティングデバイスはあくまで「とっかかりのデバイスという位置付け」(三輪氏)とのこと。何が何でも5Gを使いたいという顧客もいれば、LPWAで事足りる顧客もいることから、この端末で5Gの価値提案を進めながらも、IoT通信機器のチームと連携し、適切な端末やサービスを顧客に提案できる体制も整えているという。
ゆえに5Gは、「4Gでも実現できるけれど、まだ取り組んだことがないという顧客に振り向いてもらえるきっかけになる」存在になるのではと、三輪氏は期待を寄せる。最終的に4Gベースの端末を顧客が選ぶことになっても、5Gの選択肢があることには重要な意味を持つと捉えているようだ。
なお京セラは2020年、世界最大規模のエレクトロニクス展示会「CES 2020」に初めて出展する。同社は米国でも通信事業を手掛けており、既に5G対応スマートフォンを米国で投入することを明らかにしているが、今回の出展ではそれに加えて5Gコネクティングデバイスなどの展示も実施するとしている。
三輪氏によると、米国は「プライベートLTEの利活用が盛んで、それが5Gになって新しいサービスが生まれることは十分あり得る話だ」とのこと。CESでの展示によって、ローカル5Gと対応端末に関する米国での感触をうかがう狙いがあるようだ。
一方で、同じくプライベートLTEの利用が盛んな欧州への進出に関しては、「現時点では考えていない」(三輪氏)とのこと。法規制などへの対応を進めB2Bの領域に入り込むには企業体力が求められることから、取り組むとしても先の話になるとのことだ。
免許申請が開始されたことでローカル5Gへの注目は急速に高まっているが、そうした中で京セラは、あえて参入を急がず、しかもニーズが高いとみられている工場などとは違った形でのローカル5G活用を進めようとしているようだ。自ら基地局と端末の双方を開発し、セットで提供できる強みを生かし、比較的小規模なユースケースを狙って独自のポジションを獲得するというのは、非常に京セラらしい戦略だといえる。
だが海外のプライベートLTEの事例を見ても、大規模な企業や自治体を除けば具体的な利活用例は多いとはいえず、日本でも模索が続いている状況にある。本格参入の前に、実証実験などでいかに具体的な活用事例を積み上げていけるか、参入の成否を握るといえそうだ。
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