内閣府が語る「接触確認アプリ」開発の経緯 「インストール義務化は信義則に反する」(1/2 ページ)

» 2020年07月31日 22時21分 公開
[小山安博ITmedia]

 新型コロナウイルスのクラスタ対策を目的として政府が提供するスマートフォン向けの接触確認アプリ「COCOA」。6月19日のリリース以来、7月31日までに996万件ダウンロードされており、実際にCOCOA経由で感染が判明した例も出てきている。COCOA投入までは紆余(うよ)曲折もあり、政府の説明不足から誤解を招いている点も否めない。当初開発を主導した内閣府の平将明副大臣らが、報道関係者向けにCOCOA開発の経緯や今後の広報体制などを説明した。

COCOA 接触確認アプリ「COCOA」

1000万ダウンロード突破が間近

 「思ったよりはダウンロード数が伸びている」。平副大臣は、現状のダウンロード数に関してこう話す。現状の伸び率からすると、今週末には1000万ダウンロードを突破するのは確実で、人口比で10%に達するのも間近となっている。

COCOA 内閣府の平将明副大臣

 COCOAは、iPhoneやAndroidスマートフォンのアプリストアからダウンロードしてインストール。あとは放置しておけば、COCOAをインストールしたスマートフォン同士が1m以内に15分間以上接触しているかどうかの情報を2週間、スマートフォン内に保存する。

 新型コロナウイルスの感染が判明した人は、厚生労働省が運用する「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS=ハーシス)」発行の陽性番号を取得できるので、COCOAに感染者本人が番号を登録する。

 登録された番号は通知サーバに保存されてアプリに番号を通知する。COCOAアプリは定期的にその番号を確認しており、番号が一致すれば、感染者が一定時間近くにいたことになるので、プッシュ通知がスマートフォンに表示される。あとは指示に従って保健所などに連絡する、という流れになる。通知が来なければインストール後は起動する必要はないし、通知も自動で送られてくるので、確認する必要もない。陽性番号の登録時にアプリを起動するぐらいだ。

COCOA 陽性者と接触した可能性があると通知が来る。詳細は「陽性者との接触を確認する」から分かる

プライバシー保護と省エネを重視

 COCOAのような接触確認アプリは、新型コロナウイルスの感染者と一定時間接触した人を割り出し、二次感染の拡大を抑えることを目的としており、世界各国で同種のアプリが開発されている。日本政府は、3月にシンガポール政府がリリースした「TraceTogether」アプリを参考に、接触確認アプリの開発に向けて検討をスタート。4月6日に内閣官房にテックチームが設立された。

 日本版接触確認アプリは、Code for Japanなど複数が開発を進めており、政府としてはそれらを併存させて、互換性を持たせることを目指していた。しかし、AppleとGoogleがAPIを提供する形で接触確認アプリ開発をサポートする発表を行い、それが各国の衛生当局が運用する1アプリのみという制限だったため方針を転換。所管する厚生労働省の運用に一本化した。

 3回に渡ってテックチームや開発企業らが検討した会議では、5月8日の会議で厚労省に一本化することが決定。それまで開発されていたアプリは、開発成果を仕様書に残す形で開発を集約した。専門家を集めた有識者検討会議も5月に2回開催され、最終的なCOCOA開発が決定したのが5月下旬だという。

 接触確認アプリの仕様や機能で重視したのは、電話番号や位置情報などの情報を取得しないプライバシー保護。さらにApple、Googleの仕様ではバックグラウンドで動作してバッテリー消費も最小限であり、使いやすさに配慮されている点も、AppleとGoogleの仕様に参加した理由だという。

 当初1カ月はプレビュー版としてiOS、Android向けアプリとして提供。週末を挟んだ関係で7月20日に正式版が配信された。当初はバグもあって実効性や動作に疑問が寄せられたが、幾つかのバグも解消し、「稼働としては落ち着いてきた」(内閣官房情報通信技術総合戦略室内閣参事官・吉田宏平氏)という認識だ。

COCOA 内閣官房IT総合戦略室の吉田宏平内閣参事官

 日本版接触確認アプリの場合、HER-SYSとの連携が前提となっているため、AppleやGoogle、技術支援を受けている日本マイクロソフトなどと密に連携を取っているという。Code for Japanの開発では、濃厚接触した人数をアプリから確認できる機能を盛り込んで、行動変容につなげたいと考えていたが、AppleとGoogleの仕様ではそれができなかったそうだ。両社にはこうした要望を提出しており、COCOAに追加で導入できるよう交渉しているという。

【訂正:2020年8月1日10時32分 「開発委託を受けている日本マイクロソフト」→「技術支援を受けている日本マイクロソフト」と修正いたしました。】

 各国政府もApple・Google方式や独自方式でアプリを開発しているが、日本政府は端的に言えば機能性よりもプライバシーを重視した。個人情報を広範に取得できる中国のような「マッチョな仕組み」(平副大臣)に対して、日本やドイツなどの欧州はプライバシー情報を極力取得しない設計になっている。

COCOA 各国の接触確認アプリの比較

 接触確認アプリはとにかくインストールされることが重要で、最初に個人情報を登録する設計ではインストールが進まないと判断。HER-SYS発行の番号は受信できるが、それが誰のものか、どの地域のものか、などの情報は得られない。2週間の接触情報を保存するだけなので、そこから個人を特定することはできない。プライバシーに対する配慮はかなり徹底している。

政府としてインストールは義務化しない

 しかも、「2つのオプトイン」(平副大臣)を重視。これはインストールするかどうかを個人に任せ、さらに陽性番号の登録も個人に任せるという考え方だ。「どうやって自由主義、民主主義、プライバシーに配慮しながら新型コロナに対処するかという大きな命題を背負いながらやってきた」と平副大臣は強調する。

 その一方で、陽性登録も任意のため、実効性に乏しいという懸念もある。平副大臣も「陽性になった人が登録するのはポイントとなる」と認める。陽性登録によって接触者が判明する仕組みのため、「陽性登録で目詰まりする構造」(同)だ。だからといって義務化や政府としてのインセンティブの提供には否定的。「アプリの基本理念として、入れることが社会全体で感染拡大を防ぐ、社会を守ると同時に同僚や友達などを守ることにつながる」と説明して、陽性判明時にアプリに登録することを促す。

 義務化に関してはすで任意登録を前提にアプリを提供しているため、あとから強制するのは「信義則に反する」(同)。インセンティブに関しては政府ではなく、各業界での対応を期待する。

 これは、COCOAによって新型コロナウイルスの封じ込めと経済活動の両立ができる可能性があるため、業界団体がガイドラインなどでCOCOAを推奨する、といった方向性が考えられる。例えば飲食店がCOCOAのインストールを入店時に促したり、割引をしたり、キャッシュレス事業者がCOCOAと連動したキャンペーンを実施したり、といった具合だ。

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