5Gが創出する新ビジネス

楽天モバイルに聞く、法人向け5Gビジネス 「楽天経済圏」と「ミリ波」がカギ5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2021年02月04日 06時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 2020年に携帯電話事業への本格的な参入を果たした楽天モバイルも、「楽天モバイルパートナープログラム」を打ち出すなどしてパートナー企業を募り、5Gによるビジネス開拓に向けた取り組みを進めつつある。楽天モバイルの5Gビジネス本部 ビジネスソリューション企画部の部長である益子宗氏に、同社の5Gビジネス開拓に向けた取り組みについて話を聞いた。

5G開始に合わせてパートナープログラムを拡大

益子宗 楽天モバイル 5Gビジネス本部 ビジネスソリューション企画部 部長の益子宗氏(写真提供:楽天モバイル)

 携帯電話事業に新規参入した楽天モバイルだが、実はコンシューマー向けだけでなくビジネス開発に向けた取り組みも進めており、本格サービス開始前の2020年3月12日にはパートナーとなる企業らと、5GやIoTを活用した新たなサービスを開発する「楽天モバイルパートナープログラム」を打ち出している。益子氏によると「5Gを活用したビジネス創出や包括的な基礎研究を実施できればと考えた」ことから、発展途上の5Gが持つ可能性や活用方法を見いだし、社会に提供するべくこのプログラムを立ち上げるに至ったのだという。

 ただ当初、このプログラムで募集していたのは「スポーツ」「配送」の2分野別に限定されており、募集対象も企業のみに絞られていた。益子氏はその理由について、楽天モバイルの商用5Gネットワーク整備がまだ始まっていなかったのに加え、社内のリソースも不足していたことから、ビジネスになりそうな領域に限定して検討を進めたと説明している。

 それゆえ、5Gの商用サービスを開始し、ある程度環境が整った第2フェーズでは、プロジェクトの分野を問わず、5Gの検証をする場を提供する「ロケーション」、ソフトやハードなどを提供する「技術」、ユーザー向けのサービスを提供する「コンテンツ」、そして実証実験の機会を提供する「イベント」の4種類のパートナーを公募。対象も企業だけでなく自治体や大学、研究機関などに広げており、幅広い分野でのビジネス開発を進めていく方針へと切り替えている。

楽天モバイル 「楽天モバイルパートナープログラム」は技術やロケーションなどを持つ4種類のパートナーを公募。その対象も企業だけでなく、自治体や研究機関などに広げている

 益子氏によると、パートナーの応募に偏りはなく、「割と満遍なく来ている」とのこと。例えば技術パートナーとしては、AIや画像解析など5Gと親和性が高い技術を持つ企業をはじめ、幅広い企業からアプローチされている他、自治体もスマートシティーや社会課題解決など、さまざまな取り組みで話し合いが持たれることが多いという。

 同様のパートナープログラムは他キャリアも展開しているが、益子氏は同社が楽天経済圏によるエコシステムを持っており、将来的に楽天のIDによる連携が期待できる点に注目する企業も多いという。楽天はグループで70以上のサービスを持つだけに、それらのリソースを生かした実証実験ができるというポテンシャルも大きい。

 一方で同社は、5Gビジネス開発の拠点となるオープンラボに類する施設は用意していない。それゆえPoC(概念実証)や実証実験に関しては、商用の5G環境を直接活用する他、楽天が展開しているネットワークの試験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」の活用も進めている。

楽天モバイル ビジネス5Gの検証にあたり、5Gの商用環境を直接使用するだけでなく、楽天クラウドイノベーションラボの活用も進めている(写真提供:楽天モバイル)

スタジアムで実証実験を実施、ミリ波の知見も

 楽天モバイルパートナープログラムの具体的な取り組みは現在進めている最中であるため、益子氏は「タイミングを見て紹介したい」と話すにとどめている。ただ同プログラムに限定しなければ、具体的な取り組みが既にいくつか打ち出されている。1つは2020年9月29日、同社と神戸大学が、兵庫県神戸市が公募した研究活動助成プロジェクト 「大学発アーバンイノベーション神戸」に採択されたこと。そしてもう1つは2020年12月3日に、楽天ヴィッセル神戸と5Gを活用した新たな試合観戦体験の実証実験を公表したことだ。

 これは、楽天ヴィッセル神戸が運営するプロサッカーチーム「ヴィッセル神戸」のホームスタジアム「ノエビアスタジアム神戸」に設置された、商用の5G環境を用いた実証実験。5Gスマートフォンを試合中のグラウンドにかざすと、ARで選手やオフサイドラインの位置などをリアルタイムで表示する。このような5Gを活用した新たな試合観戦の実現に向けて、成果を得たとしている。

楽天モバイル 楽天モバイルと楽天ヴィッセル神戸が実施した新たな試合観戦体験の実証実験。ノエビアスタジアム神戸に設置したミリ波の5G基地局を活用し、試合中の選手の動きなどをARで表示するなどの取り組みを実施している(写真提供:楽天モバイル)

 楽天は傘下にプロスポーツチームを持つことから、それを活用した実証実験はやりやすい立場にあるが、なぜ商用5G環境を用いた最初の実証実験にスタジアムソリューションを選んだのか。益子氏によると、理由の1つはスポーツと5Gの高速大容量通信の親和性が高く、世界的にも5Gを活用したスマートスタジアムの取り組みが積極的に実施されていることから、「ある種5Gネットワークのベンチマークの1つにもなっている」ためだという。

 そしてもう1つは、同社がノエビアスタジアムにミリ波の基地局を設置していることにあるという。ミリ波のみで整備された5G環境は日本でまだ数が少なく、そこに魅力を感じて実証実験をしたいというパートナー企業も多いとのこと。楽天モバイルとしても、ミリ波を活用した実験には力を入れていきたい考えのようだ。

 実証実験では、5Gの低遅延を生かしたソリューションも検証した。先にも触れた通り、今回は試合の進行に合わせて選手やオフサイドラインなどをARでリアルタイムに表示する必要がある。「われわれが知る限り、他社がやっていないチャレンジングなところ」(益子氏)でもあることから、5Gによる低遅延でいかにそれを実現できるかを検証し、成果を得たことは大きかったようだ。

 現在の楽天モバイルの5Gネットワークはノンスタンドアロン運用であり、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)もまだ導入していない。5Gによる低遅延の実力を存分に発揮できる状況ではないが、益子氏によると、それでもLTEやWi-Fiよりもかなり遅延が抑えられ、「ARの選手番号表示などはもう少しずれるのかなと思っていたが、ネットワークが耐えてくれた」とのことで、期待以上の成果が得られたそうだ。

楽天モバイル 実証実験では、試合開始前にリアルタイムのマルチアングル映像を5Gネットワーク経由で送り、専用サイトでストリーミング配信。MECなどは導入していないものの、Wi-Fiなどと比べると遅延はかなり抑えられたという(写真提供:楽天モバイル)

 今回の実証実験は、ミリ波に関する知見を得る狙いも大きかったという。ミリ波で広域のスタジアムをどれだけカバーして通信速度を高められるか、ハンドオーバーがスムーズにできるかといったネットワークの検証に加え、実証実験ではミリ波対応のスマートフォン「Rakuten BIG」の検証も行った。

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