個別の要素についてもう少し詳しく見ていこう。まずは、カメラとデザインや重量周りからだ。
カメラ周りでiPhone 13との最大の違いは、3倍の望遠カメラ(77mm相当)と超広角カメラのマクロ撮影への対応だ。やや遠くの風景を切り取る撮影から、最短約2cmで寄れるなど撮影の幅は大きく広がった。旅行はもちろん、荷物を抑えたい登山やトレッキングで気軽に絶景撮影を楽しむ人にとっては、スマートフォンサイズで撮影範囲を追求したこのカメラは非常に魅力的だ。とにかくカメラ機能だけを重視する人なら、少々重いことなど気にならないだろう。
望遠は従来の2倍(52mm相当)から3倍(77mm相当)になったことで、ポートレートや風景撮影で使いやすくなった。一方、手元や室内の撮影には使いづらそうに見えるが、実際に使うと広角カメラのセンサー性能の向上と超解像処理により、2倍デジタルズームもかなり高品質だ。撮っている際もズーム倍率の変更や、最短撮影距離に合わせたマクロ撮影とのスムーズな切り替わりを含め、カメラやレンズ性能と「コンピュテーショナルフォトグラフィー」の両方を進化させることで、とにかく利用者に不自由さを感じさせにくいカメラへと進化している。
動画でもポートレート撮影のような背景ぼかしの撮影や編集を利用できるシネマティックモードは、iPhone 13とiPhone 13 Proのどちらでも利用可能だ。インカメラでも撮影可能だ。この機能、YouTuberなどのVlog用途やショートムービー作成で役に立つだろう。この機能の進化の方向性として、PCの動画編集アプリで作業するような人物の顔だけをぼかすといった作業の自動化も欲しかったが、将来のモデルでの対応に期待したいところだ。
一方で、そこまでカメラにこだわらない人、望遠レンズが必要な人は無理にiPhone 13 Proを選ぶ必要はない。標準の広角レンズでの比較になるが、iPhone 13 Proは確かにレンズが明るくセンサーの画素ピッチが大きくなっているが、iPhone 13も画素ピッチは前機種のフラグシップモデルiPhone 12 Pro Maxと同等に大型化している。
画質の満足度だけで言えば前機種iPhone 12シリーズやさらに前のiPhone 11でも十分高品質だ。並べて比べれば、やや暗いシーンでiPhone 13シリーズの方は若干階調がやや豊かなのと、ナイトモードも撮影秒数が1秒ほど早いといった違いには気付く。だが、カメラにこだわらない人ならどの製品でも不満を感じることはほぼないだろう。
だが、iPhone 13の高級モデルとして、見栄えの少し違うトリプルカメラのiPhone 13 Proを求める人にとっては、カメラ部分が極端に大型化し重量が30gも増したiPhone 13 Proを好意的に受け取れないだろう。重たい分、片手持ちでの操作や、就寝前に本体を持って画面を見るといった用途にあまり向かない。店頭などで短時間操作するぶんにはあまり気付かないだが、リラックスした状態で従来モデルとの差が顕著に出る。
カメラの出っ張りも約3.7mmと、iPhone 13やiPhone 12シリーズと辺りと比べてほぼ倍の厚みだ。こうなると、大きく厚いカメラ部に合わせて大柄な保護ケースが必要になる。
iPhone 13 Proのカメラに魅力を感じる人は、むしろ大柄な保護ケースを着けて持ち歩きたいだろう。ストラップやリング付きの耐衝撃ケースが欲しいぐらいだ。だが、スリムで高性能なiPhoneが欲しかった人にとっては、やや太めのケースにも不満を感じるだろう。
今回iPhone 13 Proシリーズだけがレンズとセンサーをより強化した理由として、専用機能のApple ProRes撮影やApple RAW撮影で編集や現像にある程度耐える、実用的なデータの記録の実現も念頭にあったと思われる。室内や少々薄暗い場所で撮ったデータを編集した際に、すぐに階調の破綻やノイズが目立つようでは使えないのと同じだからだ。
新機能のApple ProRes撮影を簡単に説明すると、プロの映像制作業務や本格アマチュアの映像制作などで広く使われる、Appleの低圧縮コーデックだ。記録される情報量が多い分、解像感や色の再現性がやや高くなり、編集しても階調が破綻しにくい。その代わりに、記録される容量は通常のHEVCやH.264と比べてはるかに増える。標準カメラアプリで使うには、「設定」→「カメラ」→「フォーマット」から有効化のボタンを追加する。
映像業務に関わる人やこれから映像編集を学びたい人にとっては、iPhone 13 Proを1台買うだけで3種類のレンズ付きのProRes対応機器が手に入るのは魅力的だ。10万円ちょっとで、ProRes 422 HQで不可逆圧縮のイントラフレーム4:2:2 10bitの映像データを撮影できる機器を手に入れるのは難しいからだ。そしてAppleはタイミングよく、10月にProResの編集処理を支援できるM1 Pro搭載MacBook Proも投入したというわけだ。
だが、一般の人がProResを使う利点はない。そもそも1分のフルHDで約1.7GB、4Kで約6GBと保存容量が非常に大きく、長時間の動画を撮るとストレージがすぐ満杯になる。用途もFinal Cut Pro やAdobe Premiere、DaVinci ResolveなどMacやPC向けの映像制作や編集がメインだ。画質も、iPhoneで撮って見るだけなら通常の撮影より微妙に解像感が高く見える程度の違いしかない。
実際のProResでの撮影は、「FiLMiC Pro」など他社のマニュアルビデオカメラアプリを使うのがメインになるだろう。ProRes 422 HQの他、圧縮率を高めた422やLT、Proxyでも撮影できる。解像度とフレームレートは、フルHD 30/60に対応。iPhone 13 Pro の256GBモデル以上のみ4K 24/30でも撮影できる。色域はRec.709とRec.2020の HLGを選択可能だ。
PCやMacへの転送はUSB2.0のLightningケーブルやAirDropなどを利用する。1GBのデータで計測したところ、WindowsへのLightningケーブルで29秒、MacBook Air相手のAirDropで32秒だった。ProResの用途は長時間の記録撮影ではなく、数十秒から数分のカットを撮り重ねるムービー制作用途向けだ。また、422HQではなく422や3分の2程度まで容量を抑えられる。いくつか撮影したデータを、休憩時間中ぐらいでおおむね転送できるだろう。もちろん、USB3.1などでの高速転送対応や、直接SSDに記録できればベストなのだが。
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