もちろん、スマートフォンの直販価格をいくらに設定するかは、メーカー側の自由だ。寺尾氏が「ソフトウェアの開発費はかけているが、想定以上だった」と語るように、実際、開発コストもかかっているのだろう。独自アプリを複数のモデルに展開できる大手メーカーと比べると、1機種しかないBALMUDA Phoneのために開発したアプリがコスト高になるのは必然ともいえる。また、独自の外装やわずかにカーブさせたディスプレイなども「部品単価のアップにつながっている」(同)という。
ただ、厳しい見方をすれば、それはあくまでメーカー側の事情でしかない。4万円前後のミッドレンジモデルと比較したとき、BALMUDA Phoneでしかできないことは思いのほか少ない。確かに独特の形状で持ちやすく、所有欲はくすぐられるものの、独自アプリを除けばできることは同じ。Google Playからダウンロードしたアプリを利用する分には差がない。むしろ、持ちやすさのトレードオフとして表示領域が狭かったり、コンパクト化ゆえにバッテリー容量が2500mAhと少なかったりする分、アプリを使う上では不利になる部分もある。
それでも、デザインや独自アプリの価値をいくらと見積もるかはユーザー次第で、そこに5万円以上の差があると考えるのであれば、購入してもいいだろう。一方で、BALMUDA Phoneが発表された際に落胆の声が多かったのは、他メーカーとBALMUDA Phoneの差分にそこまでの価値が見出せなかったことの表れといえる。スマートフォンに何を求めるかにもよるが、外観と基本アプリだけの差別化では激戦区の市場で戦っていくのは難しいように思える。スマートフォン市場での競争、特に10万円以上のハイエンドモデル市場では、より本質的な要素での戦いになっているからだ。
例えば、AppleやGoogleは、省電力性能を満たしつつコンピューティングパワーを最大化できるよう、プロセッサから自社で設計し、差別化の源泉にしている。サムスン電子であれば、折りたたんでサイズを変えられるディスプレイがそれに当たる。日本メーカーも例外ではなく、ソニーが「Xperia PRO-I」に自社で設計したセンサーを搭載するのも、スマートフォンでやりたかった撮影を実現するためだ。翻って、BALMUDA Phoneにそこまでの売りがあるかというと、疑問符がつく人は多いのではないか。
磨き上げた体験価値を売りに、数々の家電をヒットさせてきたバルミューダだが、スマートフォンではその“必勝パターン”が生かされていない印象も受ける。例えばトースターであればおいしいトーストが焼けること、扇風機であれば風が自然であることといった形で、単機能ながら製品の本質を明快に突いた特徴があった。
外観や基本アプリはあくまでスマートフォンの味付けであり、むしろ上記のようにプロセッサやディスプレイ、イメージセンサーとソフトウェア、ネットワークの融合によって生み出される深い体験価値の方が本質に近い。一点突破的に機能を磨き上げるバルミューダの手法と汎用(はんよう)製品であるスマートフォンの食い合わせの悪さも、BALMUDA Phoneの売りが分かりづらい要因の1つといえそうだ。
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