PayPayドームのメタバース化は、来場せずに参加できるエンタメ体験として構想されているが、PayPayドームならではの観戦体験も拡充を検討しているという。5月27日〜30日の期間には、PayPayドームでの「AR体験」の実証実験も行われた。
実証実験では2つの体験メニューが用意された。1つは練習見学ツアーの参加者限定の体験で、ピッチングの球速をAR画面上で表示するという内容だ。もう1つは、福岡ソフトバンクホークスの公式VTuber「鷹観音海・有鷹ひな(たかひな)」を活用するもので、AR空間内に表示されたキャラクターとリアルタイムで話せるという内容だ。
どちらのAR体験もスマホのカメラだけで位置を検出する「VPS(ビジュアル・ポジショニング・システム)」という技術を活用している。Webアプリ上に実装されており、アプリをインストールせずに手軽に体験できる。
実際に試してみたところ、比較的新しいスマートフォンであればスムーズに動作するようだった。VPSの位置検出のために送信するデータ量は「画像1枚以下」とされており、当初のデータ容量を大きく消費することもなさそうだ。
ただし、ドーム内での練習見学ARでは、位置検出がスムーズに行かないことが多かった。ソフトバンクの担当者によると「日差しが強かったため、位置検出に影響が出た」という。VPSでは事前に学習したドーム内の画像を“点群化”し、スマホのカメラで記録した点群データと照らし合わせることで位置を検出しているが、実証実験当日はドーム上部が開放されるオープンドームデイで、ドーム内には強い日差しが指していた。こうした環境の違いから、検出が成功しない例が多かったようだ。
ソフトバンクは実証実験の結果を反映して、サービスを洗練させていく方針だ。ソフトバンクの原田賢悟氏は「品質を高めた上で、少なくとも夏までには新たなARサービスを提供していきたい」と語った。
SNS大手のFacebookが「Meta」へ社名変更した2021年10月以来、メタバースという言葉が注目を集めるようになった。メタバースを「インターネット上に作られた仮想空間内で人々が交流する」といったように表現すると、なにやら近未来的な世界観だと思えるが、SNSや動画配信の延長線上にあるものだと考えた方が、より理解しやすいだろう。
PayPayドームを例に取るなら、ドーム内でスマホをかざすだけで、より充実した情報を得ながら観戦できるという体験がその好例といえる。あるいは、球場に行けない日でも知り合いのファン同士で離れた場所から観戦できるという仕組みも、仮想空間の活用でより実用的なものになりそうだ。
もっとも、現状のスマートフォンのWebアプリの性能では、バーチャル空間を現実世界のようにスムーズに行き来したり、何千人もが集まって同じ体験を共有したりするような観戦体験は難しい。スマホのようなデバイスや、5Gをはじめとしたモバイル通信の性能向上が、メタバース体験をより充実したものへ進化させることを期待したい。
(取材協力:ソフトバンク)
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