衛星通信サービス「Starlink」は誰向け? 将来的にはスマホとの直接通信も視野に(1/2 ページ)

» 2022年10月20日 09時30分 公開
[石井徹ITmedia]

 KDDIは10月19日、衛星通信サービス「Starlink」に関する記者説明会を実施した。

 Starlinkは、米SpaceXが運営する衛星インターネットサービスで、KDDIが日本での免許申請やサービス運営を支援する立場にある。また、KDDIはStarlinkの企業・自治体向けのサービスを提供している。説明会では、KDDIで新規事業を担当する松田浩路氏が登壇し、Starlinkの特徴とKDDIの役割について紹介。衛星通信サービスの今後の方針についても言及した。

数千機の低軌道衛星で世界をカバーするStarlink

 Starlinkは多数の衛星を協調させる「衛星コンステレーション」という仕組みの衛星通信サービスで、最大40Mbpsという4G LTE回線に近い高速で低遅延な通信を、比較的低価格な料金設定で提供している。従来の衛星通信サービスと比べると安定した通信と強い価格競争力を有している。

 衛星通信では、地球軌道上の衛星が地上の送信局からの電波を受信し、地上の受信局に中継する役割を担う。こうした衛星はこれまで、高度3万5786kmで飛行する静止衛星が多く採用されてきた。一方で、Starlinkでは高度550kmの低軌道を周回する低軌道衛星を採用している。これにより、通信の遅延を地上での通信に近いレベルまで抑えることができる。

Starlink Starlinkが採用する低軌道衛星は、静止衛星よりも地上までの距離が近いため、低遅延な通信が提供できる

 低軌道衛星には、高速で低遅延な通信という長所があるものの、1基でカバーできるエリアは静止衛星よりも狭くなる。また、地表近くを高速で周回し続けるため、地上のある一定地点をカバーするためには、複数の衛星を軌道に周回させる必要がある。

 Starlinkはこの低軌道衛星の難点を「数千機の低軌道衛星を打ち上げる」という力技で解決している。SpaceXが確立した低コストなロケット打ち上げ技術により、低軌道衛星を1週間に最大45基というペースで地球低軌道に送り込んでいる。

Starlink 大量の衛星を打ち上げることで、低軌道衛星の弱点をカバーしている

 衛星が中継した通信を受信し、インターネットに接続するためには、地上側の設備(ゲートウェイ)の通信品質の担保も重要だ。KDDIは日本でのゲートウェイの運用支援を行っており、2021年度には総務省から実験試験局免許の交付を受けて、KDDI山口衛星通信所内にStarlinkの日本発の地上局を構築するなど、SpaceXに協力する立場にある。

Starlink Starlinkの試験局が設置されたKDDI山口衛星通信所。なお、この写真にはStarlinkのゲートウェイは写っていない

Starlinkはどこで役立つのか

 Starlinkの通信サービスは、現状の固定通信やモバイル通信サービスを補完する存在となる。山岳部や海上のような居住人口が少ない地域や、ダムようなインフラ設備、まだ固定回線が通っていない大規模な建設現場などで、低コストで通信サービスを展開できる。

Starlink Starlinkのユーザー側のアンテナ。スマートフォンやPCとはWi-Fiで接続する

 有望な用途の1つが、山小屋での通信サービスの提供だ。山小屋は居住人口こそ少ないものの、人の行き来が多く、通信サービスのニーズがある。一方で、多くの山小屋は固定回線による通信サービスの提供が困難な地点にある。こうした山小屋ではStarlinkのアンテナが活用できるだろう。松田氏は「山小屋を運営する団体には、リーズナブルな提案をしていきたい」と話した。

 また、主に自治体や大企業向けにはBCP(事業継続計画)の一環として、予備の通信回線を確保するニーズもある。災害時の避難所や仮設住宅での通信手段として活用される可能性もある。

Starlink 山小屋のような固定回線を引けない環境で活用できる
Starlink 被災時の通信環境としての活用も期待される

法人向けサービスをKDDIが販売

 Starlinkの通信サービスには、個人向けの「レジデンシャル」、法人向けの「ビジネス」、自動車向けの「RV」、船舶向けのマリタイム、航空機向けの「Aviation」という5種類が存在する。現行のサービスはいずれも、衛星との通信では専用のアンテナを用いる方式となっている。

 日本では10月11日に個人向けの「Starlink for レジデンシャル」のサービスがスタートした。この個人向けサービスは、SpaceXが自らのWebサイトで販売しており、KDDIでは取り扱わない。

Starlink StarlinkがTwitterで日本向けサービス開始を案内したツイート。KDDIは個人向けサービスを扱わない

 KDDIは法人向けの「Starlink for ビジネス」の販売と導入支援を担当している。2022年内に企業や自治体向けにサービス提供を開始する予定だ。同社は日本で唯一の「認定Starlinkインテグレーター」とされており、Starlink機器の設置サポートや、法人向けの構内LANや閉域網、クラウド、セキュリティサービスなども行う方針だ。

 法人向けサービスの料金プランは未定としているが、複数の料金プランで提供される見込みだ。Starlinkには特定のアンテナの通信を優先する機能があり、特に通信の安定性を求める用途向けに、見合う価格で提供していくという。

Starlink KDDIは世界で4社目の「認定Starlinkインテグレーター」として、導入支援などを含めた法人向けサービスを展開する
Starlink Starlinkの法人向けサービスでは、個人向けよりも高性能なアンテナが提供される

au網のエリア補完にも活用、年内開始

 KDDI自身も、auやUQ mobileの携帯電話サービスにおいて、Starlinkの衛星通信を活用していく方針だ。携帯電話サービスでは、過疎地域など、基地局が建てづらい場所において、光回線の代わりのバックホール回線としてStarlinkを活用する方針だ。Starlinkを組み合わせた簡易型の携帯電話基地局の導入は2022年内に開始し、まずは全国1200カ所に設置する方針だ。

Starlink KDDIではモバイル通信網のバックホール回線としてStarlinkを導入する。年内に導入を開始し、全国1200カ所の基地局で運用する方針

法人向けサービスは“全国で対応”

 日本でスタートしたStarlinkの個人向けサービス「Starlink for レジデンシャル」は、対象エリアが東日本に限定されている。関越道より西側の地域や北海道は2022年内の提供開始予定とされている。

 一方で、KDDIが法人向けに販売するStarlinkサービスは、提供開始当初からほぼ全国で利用できる。松田氏は「技術的には、現状でも南西諸島の一部を除く日本全国で通信が可能」という。

 なお、西表島など、南西諸島の一部の地域ではStarlinkの衛星通信サービスは利用できないという。これは、現状のStarlink衛星の仕様では、ユーザー側のアンテナと地上局(ゲートウェイ)が同時に衛星の通信圏内にない場合は通信できないため。「山口局の範囲内では、南西諸島の西端が入らない」(松田氏)ため、衛星通信サービスが提供できていないという。

Starlink Starlinkの地上局のイメージ図。円で描かれている広さが衛星1基あたりがカバーする領域に相当する

 こうしたエリア展開の穴は、Starlink側の機能拡充により解消される見込みだ。シンプルな解決策としては、Starlinkが日本での地上局を追加してエリアをカバーすることで、全国で通信可能となる。

 もう1つの方法として、Starlinkでは「衛星間の光通信」の実用化も進めている。衛星間で通信を行うことで、離れた位置のアンテナとゲートウェイの通信を実現するという技術だ。2023年初から、順次有効になる見通しという。この技術の導入により、1つのゲートウェイでカバーできる範囲がより広くなれば、南西諸島のエリアの穴も埋められるだろう。

Starlink 衛星間光通信の実装により、衛星のカバーエリアは広がる見込み
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