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ユーザーと決済事業者が「ことら送金サービス」を利用するメリットは? 川越社長に聞く(1/3 ページ)

» 2022年10月21日 14時30分 公開
[小山安博ITmedia]

 メガバンク5行が設立した「ことら」が10月11日からサービスをスタートした。銀行と決済サービスをまたがって相互に送金できる「ことら送金サービス」によって、どのようなメリットがあるのか。以前のインタビューに引き続き、改めて同社の川越洋社長に話を聞いた。

ことら ことらの川越洋社長

銀行もコード決済も問わず、手軽に無料で個人間送金

 ことら送金が実現を目指しているのは、銀行間の送金だけでなく、銀行と決済サービス間でも低廉な価格で送金できるようになることだ。

 今、銀行間で送金をしようとすると、「3万円以上220円(他行宛)」といった送金手数料が掛かる。銀行から他人のPayPayへ、d払いから他人の銀行へといった個人間送金もできない。自分のPayPay残高を自分の銀行に出金しようとしても(PayPay銀行以外だと)手数料が掛かる。

 ことら送金だと、これが安くなる。実際はことら送金の手数料が事業者には掛かるが、現時点で事業者は、利用者に対しては「手数料無料」としているようだ。今後の新規参入でも無料が一般化すれば、「ことら送金なら送金が無料」という状況になりそうだ。

ことら ことら送金に対応したサービス同士で相互に送金ができる

 川越社長は、利用シーンの拡大が利用促進につながるとみており、日常の「飲み会代の貸し借り」「ランチのまとめ払いの支払い」といった日常利用だけでなく、「結婚式の祝儀の受け付け」「個人のイベントでの集金」などの用途を提案する。

 送金先は、あらかじめ電話番号やメールアドレスを口座にひも付けしておき、相手先にはそれを教えておけば送金できる。口座番号を知らせる必要はなく、電話番号だけで送金できるのがメリットだ。

 制限は、「10万円以下、個人利用」というもの。多額の送金はできないが、日常的な送金であれば問題なくカバーできるだろう。

 これまでもネット銀行などでは、貯金額などに応じて振込手数料を回数限定で無料化する取り組みはあった。ことら送金ならこれが無制限で無料だし、既存の無料振込回数は、10万円以上の送金や法人向けの送金のために取っておくことができる。振込無料サービスのない銀行なら、単純に送金コストが不要になって利用頻度が高まりそうだ。

 現在、ことら送金に参加を表明しているのは銀行だけだが、資金移動業者が参加すると真価を発揮する。例えばPayPayと楽天ペイ、d払いとau PAY、そしてPayPayから三菱UFJ銀行といった異なるサービス間で個人間送金ができるようになる。

 送金を受けるのが銀行口座で、送金元がPayPayでもメルペイでも他行でも、ことら送金対応であれば環境を問わずに無料で送金ができる。

PayPayなど資金移動業者の参加増がカギを握る

 現時点で対応するアプリとしては、銀行向けアプリを提供する「Bank Pay」(日本電子決済推進機構)「銀行Pay」(GMOペイメントゲートウェイ)「J-Coin Pay」(みずほ銀行)「ウォレットプラス」(iBankマーケティング)。加えて、銀行Payを組み込んだ各銀行アプリが対応する。

ことら 現在の対応アプリ。「こいPay」や「はまPay」「YOKA!Pay」は銀行Pay組み込み

 問題はどれだけ対応事業者が増えるか、だ。メガバンク5行が出資してスタートしたことらだけに、川越社長も5行の参加は既定路線として、「当初はどれだけ対応するか分からなかった」という。

 結果として、10月11日のスタート時点では20行がサービスを提供。既に参加を表明している銀行は8月の段階で40行。その後も参加銀行は増えているそうで、40行以上になった。

ことら 参加を表明している銀行(6月時点)。これが8月には40行に増え、現在はさらに増えているそうだ

 何百という数ではないし、資金移動業者も参加していないが、「ロケットスタートというのはなかなか難しい」と川越社長は話す。

 もともと、銀行をはじめとした金融業界のスピード感はそれほど早くはない。ことらの構想が2年前に始まり、1年で会社設立、1年でサービス開始というのは、「これまでの時間軸からするとだいぶ速い」(川越社長)という認識で、その中でも40行以上という参加数は順調という位置付けだ。

 銀行側の反応は悪くないが、問題は資金移動業者の対応だ。PayPayやd払い、楽天ペイといった決済サービスは「様子見」といった状況のようだ。川越社長「前向きに話しているところはいくつかある」とのことで、参加事業者の数や利用状況を確認してから参加を判断する考えのようだ。

 一定の需要があり、ユーザーのメリットとなるのであれば、資金移動業者の参加も期待できるだろう。参加自体のハードルは高くはないはずだが、銀行側が利用者の手数料を無料化して、事業者負担としている状況だと、どのように判断するかは分からない。

 銀行にとっては、「危機感がある。為替業務(現金のやりとり)は銀行の本来業務で、究極の最初の顧客接点」(同)であり、無料化による顧客サービスという位置付けのようだ。資金移動業者にとっては、こうした取り組みに追従しないわけにはいかないだろう。

 川越社長によれば、ことらに対応するには事前申し込みをして、ネットワークのテストなどを行ったうえでのサービスインになる。6カ月程度の準備期間を想定しているが、事業者によってこの期間は前後するという。現時点で資金移動業者の申し込みはないとのことなので、年内の決済サービス対応はなさそうだ。

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