中国で正式に5Gサービスが開始されたのは2019年11月。それから3年たった今、中国は世界最大の5G大国となった。この3年間は世界中が新型コロナウイルスとの戦いに明け暮れた日々を過ごしたが、中国の5Gサービスはそんな中でも着々とユーザー数を伸ばしていったのだ。中国の家電量販店に行けば販売されるスマートフォンはごく一部の格安端末を除きほぼ5Gモデルとなっているほどで、中国では5Gは誰もが普通に目にする一般的なサービスとなった。
世界最初のスマートフォンによる5Gサービスは、2019年4月に韓国と米国で開始された。中国はそれから約半年でサービスインにこぎつけており、世界の中でも開始時期はかなり早かったのだ。しかもHuawei、ZTEといったインフラベンダー、XiaomiやOPPOなどの端末ベンダーが5Gへの投資を積極的に行ったことで、ネットワークの増強に合わせるように利用できる端末も増えていった。今から約1年前の2020年12月末にはChina Mobile(中国移動)の5G加入者数が1億6000万に達し、1社だけで日本の総人口を超えた。
最新のデータを見ると、2022年9月末時点の中国の5G加入者数は以下の通り。China Mobileが5億5679万8000、China Telecom(中国電信)が2億5104万、China Unicom(中国聯通)が2億83万6000。なお2022年6月にサービスインしたChina Broadnet(中国広電)は現時点では加入者数は発表していない。3キャリア合わせた5G加入者数は10億867万4000となり、ついに10億の大台に乗ったのだ。
しかしこれにはちょっとしたカラクリがある。各社が5Gの月額料金の事実上の引き下げを行った結果、5Gプランに加入しながら4Gスマートフォンを使っている利用者も実は多い。中国の調査会社のデータなどによると、実際の5G利用者数は全5G加入者数の約半数の5億1000万とのことだ。しかしそれでもこの数は世界の総5G加入者数のほとんどを占めている。Ericssonが発表した2022年6月のMobility Reportによると、2022年第2四半期時点での全世界の5G総加入者数は6億9000万とのこと。若干の時期のずれはあるものの、中国の5G利用者数は世界の7割近くに達しているのだ。
一方、真の5GといえるSA(スタンド・アローン)方式も既に開始されている。5Gスマートフォンの低価格モデルの一部はSAとNSA(ノン・スタンド・アローン)で対応周波数に差があるが、SAはフルに対応しNSAは一部の周波数のみに対応するなど、SAへの対応が当然となっている。
既存の4Gユーザーも5Gへの乗り換えは容易だ。China Telecomは自社ブランドスマートフォンとして「天翼一号」シリーズを2020年12月に販売開始。1000元を切る999元(約2万円)という格安価格は同社の4Gユーザーの5Gへの移行を大きく加速した。2000元以下の5Gスマートフォンも各メーカーが次々と投入しており、1000元台のモデルはよく売れている。料金プランの割引などもあり、5G加入のハードルは低い。
5Gサービスの展開には大きな投資が必要だが、中国各キャリアは5Gユーザー増とともに収益も高めている。China Mobileを見ると、2022年上半期の同社加入者全体のARPUが52.3元(約1050円)であるのに対し、5G利用者のARPは85元(約1710円)と6割も高い。また上半期決算によると売り上げは4969億元(10兆190億円)で前年同期比12%増、純利益は703億元(約1兆4170円)で前年同期比18.9%増となった。5Gは早くも収益アップに寄与しているのである。
また、コンシューマー向けサービスだけではなく、中国が進めるスマートシティーや工場などのスマート化も5G SAサービスの開始により、着々と広がりを見せている。コンシューマー向けサービスでは動画配信サービスがより高画質で見られる程度しかまだ5Gのメリットは感じられない。しかし5Gの特性はIoT機器の多数接続やクラウドをローカルのように使えるなど産業界のスマート化を大きく後押しする。中国各地の飛行場や港湾では5Gを使ったスマート化が未来の話ではなく、現実に進められているのだ。
このように中国が5G大国となったことで、今後は5Gと関連ソリューションの海外展開も加速していくだろう。5Gの超高速、超低遅延、同時多接続という特性はエッジコンピューティング、AI、自動運転などこれから必要とされる技術やサービスに必須のものとなる。しかもSA方式を既に開始していることから、5G回線を仮想的に多数のパイプとして使うスライシング技術の展開や応用も、中国のインフラやソリューションベンダーは他国に先駆けて自国でノウハウを積み上げることができる。
中国の技術に関しては、米国が安全性の理由から中国企業に制裁を与えており、Huaweiがスマートフォンの5Gモデルの開発停止を余儀なくされ、ネットワークの先進国への輸出も滞っている。しかし先進国へ出られない部分は中国国内への投資と技術開発にリソースを集中させ、また中東やアフリカへの展開も強化している。
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