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“エリアをまたいだ乗車”実現なるか? 「Suica」の改札システムが順次リニューアル 2026年度完了予定

» 2023年04月04日 17時30分 公開
[井上翔ITmedia]

 東日本旅客鉄道(JR東日本)は4月4日、2023年度から2026年度にかけて「新しいSuica改札システム」の導入を進めることを発表した。このシステムの導入が完了すれば、「首都圏」「仙台」「新潟」の3つに分かれている利用エリアをまたいだ乗車を実現できる(※1)。新システムは5月27日付で新規Suicaエリアとなる「青森」「盛岡」「秋田」の3地域の45駅で導入されるのを皮切りに、既存エリアでは2023年夏から順次切り替えが進められる。

(※1)理論上の話で、現時点では「将来、提供を目指す」サービスの1つとなっている

新システムの概要

 現在のSuica改札システムでは、運賃の計算を自動改札機で実施している。入場(乗車)駅ではその駅のコードがSuica(交通系ICカード)に書き込まれる。その後、出場(降車)駅では以下の手順で運賃の引き去りが行われる。

  1. Suicaを出場駅の改札にタッチする
  2. 改札機がSuicaに記録された入場駅の情報を読み取る
  3. 改札機が入場駅に応じた運賃をデータベースから検索する
  4. 乗車駅に応じた運賃を残高から引き去る

 この方式では、改札機が運賃データベースを保有しているため、入場/出場の処理を駅で完結できる。そのため、各種通信回線に障害があっても影響を受けづらい上、処理が非常に高速である。

 一方で、改札機が運賃データベースを保有しているがゆえに、以下のようなデメリットを抱えている。

  • 対応するエリアが広くなるとデータベースの容量が大きくなる
    • 利用エリアが「首都圏」「仙台」「新潟」に分割されている大きな理由の1つ
    • 西日本旅客鉄道(JR西日本)の「ICOCA」では、利用距離を原則として片道200kmまでに区切ることでエリアを撤廃している
  • 「新駅設置」「駅の改名」「運賃の改定」時はデータベースの更新が必要
    • 対応エリア内の“全ての”駅で更新が必要
    • 首都圏エリアの場合、他社の自動改札機もデータベースを更新しなければならない(相互直通運転、共同利用の改札機がある都合)
現状のシステム 現在のSuica改札システムは、運賃のデータベースを改札機が持っている。ローカル処理で非常に高速な反面、自らデータベースを持つがゆえのデメリットもある。ユーザー視点では利用に当たって「エリア」をまたぐ乗車ができないことがデメリットだが、鉄道事業者視点でもデータベースの更新を行う際に莫大(ばくだい)なコストを要するというデメリットを抱えている

 今回発表された新システムでは、運賃の計算をセンターサーバで行う形式に改める。上記の運賃の引き去り手順における「3番目」を、駅の改札機ではなく外部に設置したサーバで行うイメージだ。利用者視点では、Suicaを改札にタッチして出場するという体験に変わりはない。

 この方式では、駅ごとに個別設定していた運賃データベースをセンターサーバに集約できるため、データベースの更新に必要な手間やコストを大幅に削減できる。加えて、運賃計算をサーバで行うようになるため、理論上はエリアをまたいだ利用(≒エリア制度の撤廃)も実現できる。

 強いてデメリットを挙げるとすると、運賃の照会/計算で都度通信が発生することと、それに伴う処理の遅延(レイテンシー)が生じうることがある。これらの懸念については、「高速なサーバーおよび通信ネットワークにより、首都圏の鉄道利用に求められる高速な処理」を実現するという。

 現状でも、JR東日本が主導して運営している「新幹線eチケット」や東海旅客鉄道(JR東海)が主導して運営している「エクスプレス(EX)予約」「スマートEX」は、交通系ICカードでの乗車はセンターサーバ式となっている。

 JR東日本としては、Suicaの運賃照会/計算をセンターサーバ式にしても、現状の信頼性と処理速度を担保できると考えたのだろう。

 なお、新システムは「ICカード相互利用センター」という会社が所有するものだという。この会社は交通系ICカードの相互利用に関わる処理を担っている。

新システム 新しいSuica改札システムでは、運転の計算処理をセンターサーバで集約して行う。このため、運賃データベースの更新にかかる手間やコストを大幅に削減できる
新システム 処理スピードの問題は、高速なサーバと通信ネットワークを用意することで解決する考えに立っている。システムのスケーラビリティーもしっかりと確保し、他システム(後述)との連携もしやすくなっているようだ
新システム 新システムでは運賃計算をセンターサーバーで行うようになるため、理論上はエリアをまたいだ乗車にも対応できるようになる

 新システムは、他の電子チケットシステムとの連携も視野に入れている。Suicaを含む交通系ICカードにはデータ容量に一定の制限があるが、電子チケットシステムと連携することで、その容量や搭載可能なデータにとらわれないチケットサービスを実現できる可能性がある。JR東日本では、以下のような利用例を挙げている。

  • あらかじめ購入しておいた「割引クーポン」を使って鉄道乗車時の運賃を値引き
  • 贈呈された「割引クーポン」をセットしておくことで鉄道乗車時の運賃を値引き
  • 購入した「MaaSチケット」を利用することで、Suicaで都市間移動や地方周遊を行う
新システム 新システムでは、鉄道(電子)チケットシステムと連携することを想定している。ある意味で、新幹線eチケットやエクスプレス予約/スマートEXをより広い用途で使えるようにしたものだと考えれば良さそうである
想定利用例 現時点で鉄道チケットシステムとの連携で実現できる新たな利用例のイメージ

新システムの導入スケジュール

 冒頭で述べた通り、新しいSuica改札システムは、5月27日付で新規Suicaエリアとなる「青森」「盛岡」「秋田」の3地域の45駅で導入される。その後、2023年夏からは「首都圏」「仙台」「新潟」の各既存エリアでも順次導入が行われる。導入(更新)の完了は、2026年度を見込んでいる。

導入スケジュール 新システムの導入スケジュール
新エリア 新しいSuica改札システムが最初に導入されるのは、5月27日からSuicaに対応する「青森」「盛岡」「秋田」の3地域の45駅となる。ただし、各エリアをまたいだ利用には対応しない(参考リンク

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