サムスン電子ジャパンは4月6日、新フラグシップモデル「Galaxy S23」「Galaxy S23 Ultra」を日本向けに発表した。発表に合わせてサムスン本社から副社長のJoshua Cho(ジョシュア・チョ)博士が来日し、グループインタビューに応じた。
チョ氏は韓国サムスン電子 ビジュアルソリューションチームの副社長で、Galaxyスマートフォンのカメラ技術開発チーフを務めている。
チョ氏は、デジタル一眼カメラと比べた場合のGalaxy S23 Ultraのアドバンテージを、以下の4つのポイントで紹介した。
S23 Ultraでは特に、(2)のピクセルビニングと(3)の手ブレ補正が強化されている。
イメージセンサーの高画素化は、スマホカメラのトレンドの1つとなっている。Galaxy S23 Ultraの4眼カメラのうち、広角レンズには2億画素の高解像度センサーを搭載している。この高画素の“束ねて利用する”というイメージセンサーにおける技術が、ピクセルビニングだ。
高画素なセンサーは、十分に明るい場所なら解像感の高い写真を記録できるが、暗い場所では十分に機能しない。1画素で取り込める光の量が限られるため、黒つぶれが起きやすくなるという弱点がある。例えば日中の晴れた屋外や撮影スタジオのようなら精細な画像が期待できるが、日中の屋内程度の照度では十分な精細感が得られないことが多い。ピクセルビニングを用いることでこの弱点を補うことができる。
Galaxy S23 Ultraの場合、2億画素センサーの隣り合う16個の画素を束ねて、1画素あたりのサイズが大きな1250万画素相当のセンサーとして扱える。これにより、多くの光を取り込むことで、暗い部屋でも明るい写真が撮影できる。2億画素と1250万画素は中間のモードもあり、4つの画素を束ねて「5000万画素相当のセンサー」としても動作させることも可能だ。
つまり、Galaxy S23 Ultraの2億画素カメラは、明るい屋外で高精細な2億画素で記録、屋内では5000万画素相当で明るさと解像度を両立、低照度環境下では1250万画素で動作し、暗い部分のディテールを明るくする、という3段階で制御し、さまざまな露光環境下で最適な写真を得ることができる。高画素時の記録処理自体も改善しており、2億画素で記録する場合にも、1秒あたり0.7〜0.8秒程度に短縮しているという。
Galaxy S23 Ultraで大きく改善されたが、手ブレ補正だ。手ブレには物理的な機構を用いる光学式と、データ上で補正処理を行う電子式があるが、S23 Ultraでは両面で強化されている。
光学式手ブレ補正(OIS)では、補正角度は従来の1.5度から3度に拡大している。電子式手ブレ補正は動画撮影時の動作を改善されている。
この2つの手ブレ補正機能により、手持ちで歩きながら撮影しても、ジンバルで撮ったかのような滑らかな映像が撮影できるという。
チョ氏が「デジタル一眼カメラとの最も大きな差」と強調したのが、マルチフレーム処理だ。
マルチフレーム処理とは、一回撮影ボタンを押したときに、数枚〜数百枚を撮影して、1枚の画像に合成する処理のこと。その代表例は「HDR写真」だ。逆光による明暗差がある部屋で、白飛びを起こさずに暗い場所も描写するために、スマホのカメラは複数のフレームを撮影して合成している。ノイズ低減やデジタルズームなどにもこの処理が用いられている。
Galaxy S23 Ultraでは、動画でもマルチフレーム処理を適用している。「12bit スーパーHDR」という動画撮影機能により、動画でも逆光を抑えて鮮やかに撮影できるという。
マルチフレーム撮影はデジタル一眼カメラなどでも取り入れられているが、スマホの場合は、より大規模な処理が実現できる。スマホはプロセッサの処理性能が高く、機種によってはNPU(AI処理チップ)を活用できるためだ。
小さなレンズとイメージセンサーで画質を向上させるマルチフレーム処理は、スマートフォンメーカーの多くがカメラ撮影機能の中に取り入れている。そこで、チョ氏に「サムスンのGalaxyならではの強みは何か」と尋ねたところ、以下のような答えが返ってきた。
AIアルゴリズムで高い精度を出すには、機械学習で用いるデータの品質が重要だ。学習元の画像や動画のデータのクオリティーが高いほど、最終的な出力の精度も向上する。サムスンは自社で多数の学習用のデータを保有しており、現実世界で撮影したデータ以外にも、品質の高い学習元データを生成する取り組みも行っている。最適なアルゴリズムを提供できるように、モデルの軽量化(量子化)に関する研究も行っている。スマートフォンでAIを用いた高品質なサービスを提供する背景には、こうした研究開発の積み重ねがある。
Galaxy S23シリーズの発売に合わせて、新たな撮影機能が提供されている。標準カメラアプリでは、「天体ハイパーラプス」機能が追加された。夜空の星の動きを数分置きに撮影して、軌跡を表示する。特別な機器が必要なく、スマホを三脚に設置しておくだけで撮影できるという。この機能はユーザーからの要望が多かったという。
2022年、サムスンはGalaxy専用の撮影アプリ「Expert RAW」の提供を開始した。スマートフォンでプロ向けカメラ製品のような撮影体験を提供するアプリで、撮影後に柔軟に編集できるRAW形式(.dngファイル)で写真を記録する。Lightroom Mobileとの連携機能も備えており、撮影後にシームレスに画像に移行できる。
このExpert RAWにも、新機能として「天体撮影」モードが実装されている。天体に最適なシャッタースピードを選択して、星空を高精細に記録できるという。この他、「多重露出撮影」も追加された。2枚以上の写真を合成する写真で、例えばセルフィーと模様パターンを合成して、独特な雰囲気の写真を制作できる。
Expert RAWはアップデートにより「インカメラでのRAW撮影」もサポートしている。また、Galaxy S23 Ultraのみの機能として「5000万画素でのRAW撮影」に対応している。
2億画素でのRAW記録には対応しない理由について、チョ氏は以下のように説明している。
Expert RAWでは、柔軟に編集できるRAWを提供することを主眼としているため、2億画素で記録する機能は提供していない。Expert RAWではマルチフレーム処理を経てRAWを生成しているが、2億画素のデータにそのままマルチフレーム処理を適用するのは現状のマシンスペックでは難しい。半導体設計プロセスの微細化が進み、より高度な計算ができるようになれば、その時には提供できるようになると考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.