現行の地デジ/BSデジタル放送/110度CSデジタル放送では「B-CASカード」、4K8K衛星放送ではB-CASカード(ごく初期のみ)または「ACASチップ」を使った限定受信方式(スクランブル放送)に対応している。
高度化地デジでは、互換性の観点から4K8K衛星放送の限定受信方式を踏襲しつつ、主に以下の改良が加えられる。
先述の通り、高度化地デジは現行の地デジと併存が前提となっており、どう併存させるのかが問題だ。今回の答申では、日本における電波利用の状況を鑑みて2つの方法が提案されている。
【地上放送高度化方式】
「地上放送高度化方式」では、新たな帯域(あるいは空きのある既存帯域)を確保できることを条件に、高度化地デジに専用の帯域(チャンネル)を割り当てる。1チャンネルを丸ごと高度化地デジに割けるため、そのスペックをフルに生かせることがメリットだ。先述の通り、4K放送は1〜2番組、フルHD放送は最大6番組まで伝送できる(1チャンネル当たりのビットレートを30.61Mbpsと仮定した場合の理論値)。
現行の地デジでは、1チャンネルを13分割して管理している。それに対して、地上放送高度化方式では、ガードバンド(※5)の削減や変調方式(アナログ/デジタル変換の方法)を変更によって1チャンネルを35分割して管理できるようになった。時間軸上に「拡張区間」を設けることで、従来とは異なる用途での利用もしやすくなっている。
(※5)隣のチャンネルとの混信を防ぐための緩衝帯域
【階層分割多重(LDM)方式】
「階層分割多重(LDM)方式」では、1つのチャンネル内に2種類の電波階層を用意(≒電力レベルの異なる2つの電波を発射)することで、高度化地デジと現行の地デジを“同時に”放送する。高度化地デジ専用の帯域を確保できない場合を想定した方式だ。
この方式において、現行の地デジは出力の大きい「高電力階層(UL)」で放送される。現行の地デジ対応TVは、ULに乗せられた放送波を検出し、何事もなく放送を楽しめる。高度地デジ対応のTVでも、明示的に選べばこの放送を楽しめる。
一方高度化地デジは、出力の小さい「低電力階層(LL)側」で放送される。出力が小さいということで「UL側(=現行の地デジ)に引っ張られるのでは?」と思ってしまいがちだが、高度化地デジは電波(データ)の誤り訂正機能が強化されたこと生かし、LL側に乗っている高度化地デジの放送波を正確に検出し、取り出して視聴できるという。
ただし、LDM方式では、高度化地デジのポテンシャルを引き出しきれない。4K放送で1番組のみ、フルHD放送で1〜2番組と、同時に放送できる番組数はどうしても減ってしまう。
将来的に高度化地デジ対応のTVが広く普及したら、現行の地デジを廃止した上で、LDM方式から地上放送高度化方式に移行できる。ある意味で、LDM方式は移行期(過渡期)のための方式ともいえる。
今回の答申によって、地デジの高度化は事実上の「スタートライン」に立ったといえる。ただ、具体的なスケジュールは今の所は示されていない。
ちなみに、高度化地デジに関するフィールドテスト(電波発射実験)は既に東京/名古屋/三重地区で進められている。
規格のたたき台が出来上がったことで、今後はより実践的な実験も行われるようになると思われる。今後の動向に注目したい。
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