「メタバースは盛り上がっていない?」 KDDIが「αU」で模索する普及への道筋

» 2023年10月24日 19時59分 公開
[田中聡ITmedia]

 KDDIが10月24日、メタバース(仮想空間)上にさまざまなサービスを提供するプラットフォーム「αU(アルファユー)」のアップデートを発表した。αUでは、リアルとバーチャルをつなげ、音楽ライブやアート鑑賞、ショッピングをなどが楽しめる空間を目指しており、XRやWeb3によって実現している。

αU メタバースサービス「αU」のアップデートを発表したKDDI(提供:KDDI)

 αUは、実店舗を仮想空間上に再現した「αU place」、NFT(デジタルアート作品)を購入できるマーケットプレース「αU market」、仮想空間に実際の街を再現した「αU metaverse」、NFTマーケットプレースや暗号資産取引所で購入したNFTや暗号資産の管理ができる「αU wallet」、360度視点で3D音楽ライブを楽しめる「αU live」の5つで構成される。

 2023年3月のサービスイン時には、αU market、αU metaverse、αU walletを先んじて提供していたが、その約7カ月後の10月24日に、αU placeとαU liveのサービス開始に至った。

 それぞれのサービスにはどのような狙いがあるのか。また、メタバースを普及させるためにKDDIがどんな取り組みをしていくのか。24日の発表会で、KDDI 事業創造本部 副本部長の中馬和彦氏が説明した。

αU αUのサービス開発を率いる中馬和彦氏(提供:KDDI)

買い物や歌を1つの空間でやるのは時期尚早だった

 αUのきっかけとなったのが、2020年5月に提供開始した「バーチャル渋谷」だった。バーチャル渋谷では、渋谷の街を仮想空間上に再現し、ハロウィーンやクリスマスなどのイベントを楽しめる。渋谷区内のさまざまな情報をデジタル空間上に再現し、分析や予測などの取り組みも進めており、2022年にはバーチャル店舗の実証実験も行った。中馬氏は「これからこういう世界が来るということで、先行していろいろな取り組みを実施してきた。メタバースのフォーマットそのものを日本発で世界に作る」とバーチャル渋谷の狙いを話す。

αU 2020年5月に開始したバーチャル渋谷を皮切りに、さまざまなメタバースサービスや実証実験を行ってきた

 一方で「買い物や歌を1つの空間でやるのは時期尚早じゃないか」(中馬氏)と考え、メタバースのコマースサービスはαU place、音楽ライブはαU liveという独立したサービスとして提供することを決めた。現在のサービス群が結論というわけではなく、「どれが正解なのかを模索している段階」(中馬氏)となる。

αU 「αU place」と「αU live」を新たに開始した

 現状はコンシューマー向けのサービスが中心に見えるメタバースだが、企業や自治体でも需要があり、この1年で「イベントでメタバースをやりたい」という企業や自治体が増えているという。「(Webサイト上で)自治体なら観光資産、車屋さんなら車を体験してもらう。体験メディアとしてアップデートしたいという声が大きい。(メタバースが)キャズムを超えて次のフェーズに入った」と中馬氏は手応えを話す。

メタバースはコンテンツが圧倒的に少ない ユースケースの確立が急務

 ただ、周囲からは「メタバースは盛り上がっているのか?」「最近は生成AIじゃないのか?」という声を聞くことにも中馬氏は言及する。

 メタバースは、イベント開催中は盛り上がり、それ以外の時期は人が集まらない状態が続いているが、「毎年継続する企業や自治体が増えており、規模はどんどん大きくなっている。メタバースのイベント利用は定常化している」と中馬氏はポジティブに捉える。

αU メタバース空間はイベント中のみ賑わい、それ以外は閑散とした状態なのが現状だ

 ただし課題はまだある。メタバースの配信者は1000人を超えているが、コンテンツはユーザーが生成するUGC(User Generated Contents)が大半で、「圧倒的にコンテンツが足りない」と中馬氏は指摘する。そのUGCも普及しているとは言いがたく、「個人がアバターを作ったり、ワールドを作ったりという状態は、残念ながらまだまだこれから」(中馬氏)。

αU コンテンツやユースケースが不足しているのがメタバースの課題となっている

 UGCを普及させるためには、まずはコンテンツ投稿のユースケースを確立させることが必要だと中馬氏はいう。例えばYouTubeのガジェット関連のチャンネルでは、製品の開封動画をアップしている配信者が多いが、こうした取り組みやすいテーマがメタバースでも求められる。もう1つ、メタバースではコンテンツ制作のハードルが高いので、ここを簡易化する必要もある。

メタバースとAIは「or」ではなく「and」 クリエイター支援も強化

 メタバースと生成AIの関係については、「or」ではなく「and」だと中馬氏は強調する。「メタバースは生成AIの登場で劇的に変わる。例えばアバターの作成は、ツールを使っても難しいが、生成AIによって圧倒的にそのハードルが下がる。生成AIがメタバースの普及を加速させる」(中馬氏)

 今回発表した新サービスの根底にあるのは「個人のクリエイターが活躍する場所を作りたい」ということ。その第一歩として、αU metaverseではライブ配信機能を一般開放。具体的なユースケースとして、JOYSOUNDと提携したカラオケ機能「カラオケボックスαU」を提供する。

αU
αU αU metaverseではライブ配信機能を一般開放し、カラオケ機能も提供する

 カラオケボックスαUでは、離れたユーザー同士でカラオケを楽しむことができ、JOYSOUNDの人気楽曲100曲を無料で歌える。キーの調整音程のチェックができる他、採点機能を利用すれば歌唱後にスコアが表示される。スコアはαU metaverse内でランキング表示され、参加者同士でスコアを競い合える。自分の歌が世界中に発信されるため、ここがアーティストデビューのきっかけになる……かもしれない。

 さらに、povoでもクリエイターを支援すべく、ライブ配信をする際の通信環境や配信機材をサポートするプログラムを2023年内に開始する。

αU povoでもクリエイターを支援するプログラムを年内に開始する

 αU liveでは、次世代アーティストを支援する取り組みとして、Eggsとの提携により、ディストリビューション事業も行う。この事業では、アーティストの楽曲を世界中の音楽配信プラットフォームに流通させる。音楽配信の手法を簡易化することで、多様な配信プラットフォームで世界中のユーザーに届けられるようになる。

αU 音楽配信サービスへの流通をサポートするディストリビューション事業も展開する

 さらに、次世代アーティストをバーチャルでプロデュースする取り組みも行う。それが、プロデュース機能にAIを取り込んだ「Producer AI」だ。こちらは、キャラクタータレント事務所のANNINと提携して開発している。歌手、Vtuber、イラストレーター、動画クリエイター、作曲家、ボカロPなどを掛け合わせることで、新たなアーティストを生み出すことを想定。その際、著名プロデューサーの好み、アーティストと楽曲、クリエイターとの相性を学習させ、再現性のあるヒット作品の量産を目指す。

 KDDIにとってのメタバースとは、ユーザーが現実世界とつながったもう1つの空間でコンテンツを楽しめる場でもあり、アーティストが配信したり作品を発表したりする場でもある。そこにAIを掛け合わせることで、新たな化学反応が起こることが期待される。

αU プロデュース機能にAIを取り込んだ「Producer AI」を提供。生成AIを活用することで、クリエイターエコノミーを加速させる

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