スマートフォンの世界シェア順位5位にTranssionが浮上した。IDCのデータによると、2023年第2四半期のスマートフォン出荷台数順位はSamsung、Apple、Xiaomi、OPPOの後にTranssionが続いた。これまで先進国ではほとんど知られてなかった同社だが、高性能スマートフォンも次々と送り出すことで上位メーカーを脅かす存在になろうとしている。
Transsion(Transsion Holdings、深セン伝音科技)は中国・深センに本社を構えるスマートフォンメーカーだ。中国メーカーでありながらその名前があまり知られていないのは、Transsionとしての製品展開は行っておらず、傘下の3社、Infinix、Itel、Tecnoのブランドで製品を出していること、主なターゲットが新興国だからだ。世界最大の中国市場はあえて攻めず、また先進国でも製品は出していない。Transsionの最大市場はアフリカで、同市場での3社合計シェアはSamsungを抜いている。
先進国ではスマートフォン需要はほぼ一巡しており、中国でも新製品は買い替え需要が増え、売れにくくなっている。インドは2022年に5Gが始まったこともあり、5Gスマートフォン需要が増え市場は活性化していくだろう。一方、アフリカではまだフィーチャーフォンユーザーが多く、スマートフォン需要はこれからも伸びていく。また将来を見通すとアフリカは出生率が高く、スマートフォン購入層もまだ増えていくことが期待できる。アフリカ重視の戦略がTranssionを5位の座に引き上げたのだ。
Infinix、Itel、Tecnoはそれぞれブランドイメージも変えており、投入する製品やターゲット層も微妙にずらしている。Itelは価格重視のモデルを強化、Tecnoは先進的な製品も次々と送り出している。2023年2月にTecnoが折りたたみスマートフォン「PHANTOM V Fold」を出したときは世界中の業界関係者に驚きを与えたはずだ。新興メーカーがAppleに先駆けて折りたたみモデルを出したからだ。PHANTOM V Foldの存在はTecnoの名前を世界に知らしめると同時に、新興国の消費者に「大手メーカーの製品を選ぶ必要はない」というメッセージを残すことにも成功した。
そのTecnoは2023年9月にシンガポールでグローバル向け発表会を開催。都市国家とはいえ、先進国での大々的な製品発表会は同社初ではないだろうか。発表されたモデルは縦折りスタイルの折りたたみスマートフォン「PHANTOM V Flip」だ。現時点で横折り式と縦折り式、2つのスタイルの製品を出しているのはSamsung、Huawei、OPPO、vivoだけであり、Tecnoはその4社と折りたたみスマートフォン市場で横に並ぶ存在になった。PHANTOM V Flipはアフリカ各国でも発表され、アフリカ中のインフルエンサーたちがSNSにそのスタイリッシュな製品の動画をアップするほど人気になっている。
Infinixは2023年4月に260Wの急速充電技術を発表するなど、スマートフォンの基幹技術の開発もしっかりと行っている。260W充電の商用化はまだ先になるが、2022年10月には180W充電の「Infinix Zero Ultra」を発売済みだ。これを超える充電速度のスマートフォンはvivo「iQOO 11s」の200Wなどわずかしかない。急速充電は電力需要の安定しないアフリカでは有用だろうが、世界でもトップクラスの技術を開発する姿勢は大きく評価できる。新興国向けだからといって、格安モデルばかりを開発しているわけではないのだ。
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