一方で、110円の割引だけでどこまで解約抑止効果があるのかは未知数だ。先に挙げたように、他社の場合、家族でまとめて契約すると、最大で1000円以上の料金割引を受けることが可能。例えばドコモの場合、3人のうち1人が抜けてしまうと、残る2人の料金がそれぞれ550円上がってしまう。家族全体では毎月1100円の値上げにつながるため、“抜け駆け”しづらい構造がある。これに対し、110円が割り引かれなくなったときのダメージが少ない。縛りのようにはならない金額といえる。
逆に、わずか110円ではあるが、楽天モバイルにとってはARPUを押し下げる効果も生じる。楽天モバイルのARPUは、23年末時点で1986円。第3四半期(7月から9月)の2046円より、60円低下してしまった。三木谷氏によると、これは「法人の携帯が入った影響がかなり大きい」という。法人向けの料金プランは、個人向けとは異なり容量別に料金が設定されている。音声通話が中心の使い方だと、1078円の3GBプランになってしまうため、個人向けの回線よりARPUを上げづらい。
他キャリアの中にもARPUが下がっているキャリアはあるが、楽天モバイルの場合、早期に黒字化を達成しなければならない事情もある。モバイル事業の売り上げは、契約数とARPUの掛け算。契約数が増えても、ARPUが上がらなければ売り上げも伸び悩んでしまう。三木谷氏が黒字化を達成するためのめどとして挙げていたのが、800万から1000万という契約者数。その際のARPU目標は、2500円から3000円としていた。単純計算だが、1000万契約でARPUが3000円だと、楽天モバイルには毎月300億円、年間で3600億円の売り上げが立つ。
契約者数の獲得は順調なものの、ARPUはどこかで反転させる必要がある。とはいえ、3000円の目標は非常に高い。ARPUの推移を見ると分かるが、無料契約キャンペーンが終了した後は、四半期ごとの伸びが数十円程度に鈍化している。500円から1000円のARPUを上げるには、何らかの“大技”も必要になる。三木谷氏も、「ARPUを2500円以上に持っていこうとなると、追加的なサービスを入れるなど、いくつかの施策が必要になると思っている」とこれを認める。
その1つが、音声通話定額などのオプションサービスだ。河野氏は、「オプションに関してはまだまだ検討しているものがあるが、楽天らしいものを出していきたい」とする。三木谷氏は、「特に広告収入がRakuten Linkの中で増えていくと思っている」としながら、「iPhone(Apple)はRCSをオープンにしていくことになっているので、そこでの収入が増えていくことは大変期待している」と話す。目標は「1人あたり300円」で、実現すれば黒字化達成の助けになる。
それでも、目標に掲げる2500円から3000円には、200円以上足りない。通信料を上げれば解決しそうだが、楽天モバイルは料金の安さを売りにしているだけに、その戦略は取りづらい。こうした状況を踏まえると、ユーザーが契約したいと思えるオプションサービスの開発が、黒字化達成のための鍵になりそうだ。
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