一方で単純な割引は、ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)を落としてしまうため、黒字化に向け、これを上げたい楽天モバイルにとってはもろ刃の剣になりかねない。年内の黒字化達成には、契約者を獲得するだけでなく、現状よりもARPUを上昇させなければならないからだ。その目標は、契約者数が800万から1000万、ARPUが2500円から3000円必要とされている。
現状では、法人契約が好調なことや解約率の低下でユーザー数は急増していものの、ARPUは2023年末で1986円。黒字化のめどとしている目標には、最低でも500円以上足りない。Rakuten最強プランの導入で上り調子だったARPUも、「B2CとB2Bを比べると、B2Bの方がARPUは多少低い」(楽天モバイル 代表取締役共同CEO 鈴木和洋氏)ことから、やや減少傾向にある。
その意味で、ポイント還元を特典にした楽天青春プログラムは、黒字化の足かせになりづらい施策といえる。中村氏は、「PL(損益計算書)には影響がある」としつつも、「テクニカルにはポイント還元なので、直接的なARPUへの影響はない」と話す。ポイント還元があることで「獲得が増えることを見込んでいるので、トータルでプラスになると見込んでいる」(同)。
とはいえ、若年層向け割引と捉えると、最強青春プログラムにはやや疑問が残る部分もあった。1つ目は、ポイント還元の対象になるユーザーだ。還元対象は回線にひも付いた楽天IDのユーザーが0歳から22歳だったときで、親が2回線契約し、子どもにスマホや回線を渡す場合にはこのプログラムが適用されない。高校生などであればアカウントを分けやすいかもしれないが、小学生や中学生などの場合、実質的に親が管理する子ども用の楽天IDで申し込まなければならない。
この場合、ポイントも子ども用のアカウントに付与される。子どもの場合、親のクレジットカードを使って支払うケースが多くなるため、料金充当以外にポイントが使われてしまうと、お得感が出ない。楽天ポイントはポイント送金に対応していないため、親が自分の楽天ポイントと合算し、楽天ペイや楽天市場でのショッピングに利用するといった使い方もできない。実際に支払う親にとって、管理の手間がかかる仕組みになっていると言えそうだ。
最近では、他社も実際に料金を支払う親がお得に感じる仕組みを導入している。例えばソフトバンクは、「ソフトバンクデビュー割」として、子どもの回線には割引を適用しつつ、親にも毎月1000円分のPayPayポイントを付与している。この立て付けだと、決済者であり決裁者である親を説得しやすい。子どもの回線は直接割引されるため、ポイント充当の設定をする手間もかからない。
また、楽天モバイルでは、18歳未満の契約時に「あんしんコントロール by i-フィルター」の申し込みを必須にしており、他キャリアと違って330円の料金もかかる。解除はできるが、若年層がトラブルに巻き込まれないための仕組みのため、それもしづらい。結果として、最強家族プログラムと最強青春プログラムが適用される前の通常回線より、料金が高くなってしまう。料金が安い分、その他サービスを削って有料になっているのかもしれないが、この点もお得感が薄れてしまう要因になりうる。初の若年層向けプログラムを投入した楽天モバイルだが、今後、こうした点が課題になる可能性はありそうだ。
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