在留外国人から高い支持を集める海外送金サービスの「Smiles Mobile Remittance(以下、Smiles)」を手掛けてきたデジタルワレットが、7月に傘下のデジタルワレットソリューションズを通じてMVNOとして通信サービスを開始した。「Smiles Connect」が、そのサービス名だ。ターゲットは、日本で暮らしながらSmilesの送金を行う外国人。大手キャリアや一般的なMVNOとの契約のハードルが高かったユーザーに向け、安価な料金でサービスを提供する。
料金プランにも特徴がある。音声プランのデータ容量は3GB、10GB、30GBと一般的なMVNOに近いが、同社は大容量のデータSIMをセットにした「Combo」と呼ばれるプランを展開。2枚のSIMカードを組み合わせると、最大110GBのデータ容量を5478円(税込み、以下同)で利用できる。53GBのプランは、3278円と大手キャリアのオンライン専用プランに近い水準の料金だ。
では、同社はなぜ畑違いのMVNO市場に参入することを決めたのか。また、他社ではあまり見かけないComboプランを展開した理由はどこにあるのか。こうした疑問を、デジタルワレットに聞いた。インタビューには、デジタルワレット 執行役員 Deputy COOの梅川怜氏と、MVNO事業を展開するデジタルワレットソリューションズ Connect事業部 統括マネージャーの近藤樹奈氏、副統括マネージャーのリリア・ハウエンスタイン氏の3人が答えている。
―― 最初に、デジタルワレットの主要事業からご説明いただけないでしょうか。MVNO以外に、普段はどのようなことをやれているのかを改めてご説明ください。
梅川氏 デジタルワレットは2014年に創業した会社で、ソニーで電子マネーやFeliCaをやっていたメンバーが立ち上げました。もともとB2Bの受託開発を行っていましたが、FeliCaやおサイフケータイの事業で金融のシステムを作るノウハウがあったため、それを用いてB2Cの国際送金サービスであるSmilesを立ち上げています。それが2017年のことです。
最初はフィリピン向けのサービスとしてスタートし、今は全世界、200以上の国や地域にモバイルアプリだけで国際送金ができるサービスになりました。17年当時は海外送金も、アプリだけで完結するサービスが他にありませんでした。日本にいる外国人の方が母国に仕送りするための送金を日常的にしていますが、銀行などに行き、窓口で手続きすることが多かったのです。
当時も日本の銀行にはモバイルで完結するサービスはありましたが、それを海外送金に取り入れた形です。外国人の中には毎週のように送金する方も多いのですが、「窓口に行かなくてもいい」「夜にも送金できる」という利便性が広がり徐々に規模を拡大してきました。
―― 一見、MVNOとはあまり関係なさそうですが、通信に参入した理由を教えてください。
梅川氏 海外送金はモバイルで完結するということで、アプリ自体も使いやすいUI(ユーザーインタフェース)にこだわって開発してきました。他社も後発でもモバイルアプリを展開してきましたが、その中でも弊社はどんどんユーザーを獲得でき、特にフィリピン人の中ではかなりのシェアを持っています。このように規模が拡大するのに伴い、外国人の方が日本で生活していく上で、インフラサービスを日本人と同じように使えないという課題が見えてきました。
海外送金に関しては、われわれがサービス提供することで解決でき、便利になっていた一方で、銀行口座やクレジットカードを作りたくても身分証明書や与信の問題があって申し込んでもできないということが課題として残っていました。クレジットカードが作れない、銀行口座が持てないとなると、契約時にそれが求められる携帯電話の契約にも支障が出てきます。
中には契約できるところもありますが、ここ数年で一般的になっていたMVNOのような、安い通信プランを提供している会社とはなかなか契約ができませんでした。銀行口座やクレジットカード以外にも、言語の問題があって日本語でしか申し込みのフローが提供されていないこともあります。大手だとさすがに英語のメニューはありますが、例えばベトナム語やインドネシア語まで準備しているところはまずありません。
それでもがんばってキャリアショップに行き、手続きできたとしても、プラン変更や機種変更でまた大変な思いをします。安い料金プランが出てきたとしても、それに乗り換えるのが難しい。オンラインで申し込みが完結するようなところだと、どうしてもクレジットカードがいりますからね。クレジットカードがないから、端末を割賦で買えないという問題もあり、なかなか日本人と同じように便利で安いサービスが使えません。弊社のユーザーが増えるのにつれて、このような声も集まってきていました。
われわれはモバイルサービスを提供している会社なので、「送金しようとしても(MVNOで)昼休みの通信速度が出ず、使えなかった」という声も集まってきます。そういった通信環境を整えたいというニーズもあったため、ミーク(ソニーネットワークコミュニケーションズから切り出して独立したMVNE)とお話をしてMVNOとしてサービスを提供するに至りました。
―― なるほど。確かに銀行口座もクレジットカードもないとなると、通信サービスの契約が難しくなりそうです。
梅川氏 外国人の方の多くは、支払い方法の問題もあり、水道、ガスなどのインフラ系の料金の口座引き落としを設定できません。そのため、コンビニ払いをしている方が結構多い。ただ、毎月コンビニに行くのが面倒で、うっかり忘れて止まってしまうといったこともあります。クレジットカードも外国人向けは条件が厳しく、枠が5万円だったり10万円だったりと少なかったり、有効期限が短かったりで、金融サービスを満足に利用できない現状があります。
ハウエンスタイン氏 私も今まで結構苦労してきましたし、外国から来た友人も同じような問題を経験しています。梅川が説明したように、日本で発行されたクレジットカードを外国人が持つのは非常に難しい。人にもよりますが、2回、3回と審査に落とされ、何度も申し込む必要があります。ただ、私が初めてSIMカードを探したときには、全サービスにクレジットカードが必要でした。クレジットカードなしでよく、その上で言語対応のサポートがしっかりしているサービスはほとんどありません。サイトがあってもページがしっかり翻訳されていなかったりする。そんなことを考えながら、Smiles Connectのサービスを作りました。
梅川氏 英語のページが用意されていても、日本語と違って内容がペラ1でまとめられていることもありますよね。
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