とはいえ、「明日から一律で全料金プランを5%値上げします」といった乱暴なやり方は、ユーザー離れにもつながってしまうリスクもはらむ。クラウドサービスやコンテンツサービス、特に海外事業者が運営しているサービスでは、比較的カジュアルに値上げしたり、提供条件に制限を加えたりすることもあるが、通信料でこのような形を取るケースはまれだ。
値上げを示唆した宮川氏も、「寡占市場とはいえ、4社がいるので、『こんな状況でなぜソフトバンクだけ(値上げに)踏み切るのか』という話になってしまうため、今、動くつもりはない」と語る。どちらかといえば、「中長期的に、もう一度健全な形に戻さないといけない」というのが、宮川氏の真意といえる。
4月にKDDIの社長に就任することが決まった取締役執行役員常務の松田浩路氏も、「足元での競争環境にはしっかり対応していくのと、将来どういう姿に持っていきたいのかの2つの観点がある」としながら、「モーメンタム(勢い)を強める競争もある」とユーザー獲得のアクセルは緩めるつもりがないことを語っている。競合他社が動かない以上、お見合い状態が続く可能性もある。
ドコモの親会社にあたる日本電信電話(NTT)の代表取締役社長の島田明氏も、「モバイルは今、競争が激しい」としながら、「単純な値上げは難しい」との見方を示した。島田氏も、「お客さまの価値が上がる一方で、事業者が一定程度コストをカバーできる料金体系を考えていかなければならない」と語っており、この点ではKDDI、ソフトバンクに考えは近いが、現実的には「今の料金を単純に何パーセント上げましょうとはいかない」(同)という。
特にドコモは、「35%のシェアを切るなと言っていて、(ドコモの)前田(義晃)社長も同じ気持ちで営業を強化している」ため、ユーザーを手放してしまうような値上げには踏み切りづらい。現行の料金プランを値上げするのではなく、「少し工夫しながら、料金体系は常に見直していかなければいけない」というのが島田氏の考えだ。
例えば、ドコモが導入しているahamoポイ活やeximoポイ活は、こうした値上げの工夫の1つといえる。ポイント付与のコストはかかるが、通信料そのものはポイ活プランの方が高く、APRUを押し上げる効果は高い。KDDIが「auマネ活プラン」を「auマネ活プラン+」にリニューアルしたように、特典のつけ方を変えつつ、コストを転嫁した料金にしてく手法もある。
データ容量を増やした新料金プランを作った際に、その対価として料金を見直してもいいだろう。ソフトバンクが、LINEMOの「スマホプラン」を「LINEMOベストプランV」にリニューアルした事例は、これに当てはまる。ただ、LINEMOベストプランVはahamoのデータ容量増量に対抗するため、結局は10GBアップで料金は据え置きになってしまった。宮川氏の発言からは、こうした実質的な値下げ競争をけん制する意図も見え隠れする。
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