「ラジスマ」が登場して以降、その対応機種は民放連の資料によれば累計89機種(キャリアが異なる場合は別カウント)にのぼっている。しかし実態としては、その普及が広く進んでいるとはいいがたい状況だ。
この背景には、スマートフォンに関わる各プレイヤーの方針や優先度の違いがある。メーカー各社からの回答を見ると、多くの企業がFMラジオ機能を「シニア向け端末」や「ミドルレンジ〜ローエンド端末」に限定して搭載する傾向が強い。
シャープは「FMラジオは高齢者層のニーズが高く、商品の主要ユーザー・コスト等の観点から総合的に判断して、現在はシニア向けスマートフォンにFMラジオを搭載している」と明言している。
モトローラに至っては「edgeシリーズ、razrシリーズなどプレミアムなセグメントの端末では実装エリアの関係、有線イヤフォンがUSB Type-C対応となることなどから(FMラジオ搭載は)見送る方向」と、より具体的な搭載判断の基準を示している。
興味深いのは、社名非公表を望んだあるメーカーが「現在はアプリを自由にダウンロードしてお好みのメディアアプリを使える環境が整っているので、フィーチャーフォン時代のワンセグやラジオに対するプリインストールニーズほどの高さは認識していません」と述べている点だ。スマートフォンにおけるラジオ機能のプリインストールという基本コンセプトそのものへの疑問が呈されているとも読み取れる。
一方、キャリア各社は端末選定においてラジスマ対応を積極的な要件としていない。KDDIは「端末メーカー様にて搭載要否をご判断頂いております」と明確に述べ、楽天モバイルも「採用製品の選定時における優先度は高くない状況」と率直に認めている。ソフトバンクやNTTドコモも積極的な姿勢は示していない。
こうした状況に対し、民放連は「ラジスマは『radiko+FM』アプリをスマートフォンにプリインストールするが、radikoは日本国内のみのサービスであるため、グローバル端末を展開するメーカーは採用しづらい」と普及の壁を分析している。さらに「ワイヤレスイヤフォンが普及する中、ラジスマのFM波受信はイヤフォンケーブルをアンテナとして使用していますので、有線イヤフォンを使用していただく必要がある」という使用感の上でのハードルも指摘している。
民放連が放送と通信の融合による新たなラジオサービスとして「ラジスマ」を推進する一方で、メーカーやキャリアはそれぞれの経営判断から消極的な対応にとどまっているのが現状だ。災害時の情報源としての価値は各社とも認識しているものの、それが積極的な搭載判断につながっていないという食い違いが生じている。
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