災害時のメディアとしてラジオが重要な役割を果たすことは広く認識されている。東日本大震災や各地の大規模災害では、通信インフラが途絶する中でもラジオ放送が重要な情報源となった例は多い。
こうした背景から、民放連は「ラジスマ」の災害時情報源としての役割を強調している。一方、端末メーカーの中には異なる見解もある。
例えばモトローラは「スマートフォンのFMラジオ機能は防災機能としては『あれば良いが必須ではない』(Nice to have)と考えております。災害時のスマートフォンの役割、期待としては電話機能、SNS/Webブラウジングによる情報通信機能がメインと考えており、ラジオはそれらよりは優先順位が低い」と明言している。さらに「バッテリーを消費せず手回しでも聞ける防災ラジオの方が需要は高い」との見解も示しており、スマホにラジオ機能を持たせる必然性に疑問を呈している。
放送と通信のどちらも機能不全に陥る可能性のある大規模災害時、情報入手手段を複数持つことの重要性は変わらない。スマホラジオはその選択肢の1つだが、専用の防災ラジオを別途備えるという選択肢も現実的だ。
ラジオ業界全体では、AMラジオ局の放送をFM波でも同時放送するワイドFM(FM補完放送)の普及が進んでいる。全国のAM放送局の多くは2028年をめどにAM放送を原則休止し、FM波への一本化を計画している。こうした流れの中で、ラジスマのようなFM受信機能を持つスマートフォンの存在意義は一定程度あるとも考えられる。
しかし、通信環境の大幅な改善もラジオ受信機能の必要性を低下させている要因だ。現在、主要携帯キャリアの4G LTEの人口カバー率は99.9%に達しており、ほとんどの場所でradikoなどのインターネットラジオサービスが安定して利用できる環境が整っている。こうした状況では、あえてFM受信機能を持つスマートフォンを選ぶ動機は弱まっている。メーカーにとっても、FMチューナー搭載のためのコストやスペース確保は、カメラ性能や処理速度など他の差別化要素に比べて優先度が低いのが実態だ。
ワイヤレスイヤフォンの普及や端末の小型・薄型化といった技術トレンドの中で、ラジスマの基本コンセプトが時代にそぐわなくなっている側面も否めない。
結局のところ、「ラジオスマホはどこへ行ったのか」という問いに対する答えは、技術の進化と消費者ニーズの変化の中で、その存在意義が限定的になっていったとことに尽きるだろう。一部のユーザー層や利用シーンでは依然として価値を持つものの、スマートフォン全体のトレンドからは外れつつあるのが現実だ。
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