独自プロセッサ搭載スマホ「Xiaomi 15S Pro」の実力検証 なぜHuaweiほど米国の規制を受けずに開発できたのか(2/3 ページ)

» 2025年08月04日 12時30分 公開
[佐藤颯ITmedia]

なぜXiaomiは自社設計プロセッサを世に送り出せたのか

 ここで気になるのが、Xiaomiは中国メーカーながら、なぜXRING O1という自社開発のプロセッサを世に送り出せたのかという点だ。

 中国では独自プロセッサを自社のスマートフォンに採用していたHuaweiは制裁対象となり、TSMCからのチップ供給が断たれた。一方で、Xiaomiは同じ中国メーカーでありながら、最先端の3ナノメートルプロセスを用いたプロセッサを製品化できている。

 端的にいえば、米国が両社に対して抱く「脅威度」の差が大きく影響していると考えられる。Huaweiは“全面的な技術封鎖が必要”と判断されるほどのハイリスク企業と見なされたのに対し、現在のXiaomiはそこまでの戦略的脅威とは見なされていない。

 Huaweiが米国の標的となった理由は、プロセッサに関して高い技術開発力があるためだと考える。

 スマートフォン向けに限っても、2017年に発表されたKirin 970は世界初のNPU(AI演算処理ユニット)を搭載し、2019年のKirin 990では世界初の5Gモデム統合型SoCを実現。微細化にも積極的に取り組むなど、業界の最先端を走っていた。

 さらに、2023年には、設計から製造までを完全に中国国内で完結させた「Kirin 9000S」を採用したMate 60シリーズをひっそりと投入。厳しい制裁下にあってもその開発力の高さを見せつけた。

 こうした背景を受け、米国は2019年にHuaweiをエンティティリストに追加。以降、米国由来の技術の使用に対する規制を段階的に強化し、製造装置などを用いる企業は、Huawei向けのチップ製造を行えなくなった。もちろん、TSMCやサムスン電子もその対象となっている。

Xiaomi 15S Proレビュー Huaweiが2023年に販売したMate 60シリーズは、制裁をはねのけての復活だけでなく、中国の半導体産業の意地を見せつけた製品でもあった

 それでは、Xiaomiはなぜ3ナノメートルチップを製造できたのだろうか? Xiaomiは、確かに中国メーカーではあるが、XRING O1プロセッサの設計にARMのCortexアーキテクチャとARMのGPU「Immortalis」を使用しており、基幹技術は依然として欧米の知的財産に依存している。

 このため、ARMのライセンスを断てば製造は困難になることもあり、米国としても直ちに規制対象とすべき戦略的リスクとは見なしていないと考えられる。

 また、XRING O1は「第2世代3ナノメートルプロセス」で製造したとされるが、現時点で中国国内にはこのプロセスに対応可能なファウンドリ(製造メーカー)は存在しない。公表されている「第2世代3ナノメートルプロセス」は、台湾TSMCによるものとみられている。

 もっとも、TSMCは既に中国向けの先端チップ製造には消極的な姿勢を見せており、2025年以降では、14ナノメートル未満のチップ製造には米国の商務省・産業安全保障局(BIS)によるライセンス取得が必要になる。

 しかし、BISが2025年1月に更新した輸出管理規則では、AI向け、高性能演算向けチップに対する規制が中心となっており、以下の条件を満たす民生用途の製品はライセンス対象外となる(参考:JETRO「米商務省、AI向け半導体などへの輸出管理を強化」)。

  • トランジスタ数:300億個未満(2029年以降は400億個)
  • 高帯域幅メモリ(HBM)非搭載
  • 搭載機器が民生向けであること

 XRING O1は190億個のトランジスタを使用していることを公表しており、HBMは搭載していない。現時点では民生機器のスマートフォン向けにのみ供給されているため、輸出管理の規制対象には該当しない。このため、TSMCはXiaomi向けにライセンス不要でチップ製造を行っているとみられる。

 また、XRING O1はセルラー通信機能を内蔵しておらず、スマートフォンとして使用するにはMediaTekやQualcommのモデムチップを組み合わせる必要がある。これはモデムを統合したSoCと比較すると、消費電力で不利なことを意味する。

 この点も5Gの特許を多く保有し、中核技術にアクセスできるHuaweiとは異なり、携帯電話として利用するためには他社のモデムが必要なことから、Xiaomiの技術的独立性が限定的であることを示している。米国が「脅威度が低い」と判断する理由の1つと考える。

Xiaomi 15S Proレビュー Xiaomi 15S ProはMediaTek製の通信モデムを採用が判明している。独自チップの機種だが、日本でも問題なく利用できる

独自プロセッサは、次の10年を勝ち抜くための重要な投資に

 それでもXiaomiが多額の投資をして独自プロセッサの開発に取り組むのは、製品の差別化という明確な戦略的狙いがあるためだ。

 スマートフォンの性能や機能は、基本的にQualcommやMediaTekといった大手プロセッサメーカーの設計に依存する。つまり、汎用(はんよう)品の限界が製品の限界にもなるという構図だ。また、独自のハードウェアや新機能を実装したくても、プロセッサ側が対応していなければ搭載できないという制約がある。

 例えば、HuaweiはKirinプロセッサを自社開発することで、マルチカメラ対応や画像合成処理といった先進的なカメラ機能を早期に実現。「カメラスマホ」として高い評価を得る原動力になった。

 XRING O1自体には特段の独自機能はまだ見られないが、独自設計のISPやAPUなどを備えている。今後の展開によっては自社設計チップを活用した機能差別化が進む可能性がある。実際、競合のvivoはSoCを補助するチップを自社開発して主にカメラ機能を中心に差別化を図っていた。OPPOは撤退したものの、画像や映像の処理に特化した「MariSilicon X」というプロセッサを開発していた。

 現在、スマートフォンのハードウェアとSoC(半導体)の両方を自社開発できるメーカーは、世界でわずか5社(Apple、Samsung、Google、Huawei、Xiaomi)のみ。Xiaomiにとって独自プロセッサは、次の10年を勝ち抜くための重要な投資と位置付けられていると考える。

 「電気自動車」も独自開発チップへの原動力と考える。Xiaomiは中国市場向けに電気自動車「SU7」を展開している。この自動車は発売直後から10万台を超える注文を集め、納車には最大で1年待ちという人気ぶりを見せている。さらに、今夏にはSUVタイプの「YU7」の投入も予定されており、自動車事業への本格参入が加速している。

 淘汰(とうた)されたとはいえ、今でも50社以上、生産能力的には供給過多ともいわれる現在の中国自動車市場において、Xiaomiは高い利益率を確保している数少ない新興メーカーとして注目されている。

Xiaomi 15S Proレビュー Xiaomiの電気自動車。写真は最上位モデルの「SU7 Ultra」

 そんな中、独自プロセッサ「XRING O1」の発表にあたり、同社の雷軍CEOは「Xiaomiは、自動車と高度な半導体設計技術の両方を有する自動車メーカーである」と強調。自動車向け半導体にも強い関心を示した。

 現在の電気自動車は一般的な自動車に加え、高性能なプロセッサを生かした自動運転や運転支援、大容量のバッテリーを生かしたインフォテインメントや各種エンタメ機能、さらにはスマートフォンとの高度な連携といった要素を統合し、総合的なデジタル体験という付加価値を提供する「スマートカー」の時代に入っている。

 これらの機能を実現するには、高性能なプロセッサと複数の機能を統合したECU(電子制御ユニット)が不可欠だ。現在のところ、その多くを欧米企業のチップやソフトウェアに依存している。しかし、地政学的なリスクや供給制約を考えれば、これらの中核技術を自社で確保しておくことは中長期的に見て不可欠な戦略となる。

 また、今後の自動車業界では、自動運転をはじめとした先進運転機能の性能が一定水準で共通化・普遍化する(チップの性能で頭打ちになる)ことで、差別化の難易度が高まるとみられている。だからこそ、自社設計プロセッサによる柔軟な機能統合や高効率な処理能力の確保は、大きな優位性となる。

 例えば、より多くのセンサーやカメラに対応できる処理性能を備えたチップがあれば、安全性の高い自動運転や高度な運転支援が実現できる。プロセッサの省電力化によって車両の消費電力を抑えられれば、そのままEVの航続距離延長にもつながる。

 とはいえ、自動運転や高機能な運転アシストには、現時点では高性能なGPUや広帯域メモリ(HBM)といったリソースが不可欠だ。これらは米国による輸出管理の対象となっており、特に自動運転向けの高性能演算向けチップに対する規制は年々厳格化している。

 現時点では、XRING O1のような民生用途・汎用スマートフォン向けチップは規制の網をかいくぐっているが、将来的に車載向けチップにも規制が拡大される可能性は否定できない。Xiaomiがどのように規制と向き合いながら、自動車用プロセッサを自社で設計していく方針となるのか。今後の展開に注目が集まる。

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