XRING O1は、自社設計では「Surge S1」以来9年ぶりのSoCとして注目を集めた。一方で、今後さらなる高性能チップの開発については、米国の輸出規制が大きな障壁となる可能性が高い。
米国はこれまでにも、中国向けの半導体製造装置やAI用途チップに対する輸出管理を強化してきたが、2025年5月にはEDA(Electronic Design Automation)ソフトウェアの規制も強化されたと報じられた(参考:EDA業界に打撃必至か 米政府が中国販売の規制を強化)。
EDAソフトウェアは、現代の高度な回路設計に不可欠なものであり、主に設計系と検証系の2つに分かれる。現在はどちらもそろえつつ、微細化された半導体設計のニーズにも応えられるシノプシス、ケイデンス、シーメンスEDA(旧Mentor Graphics)という米国に本社を構える3社が大きなシェアを持つ。
この規制により、中国では次世代に当たる2ナノメートル世代の設計環境が制限される可能性が高く、Xiaomiが次世代のフラグシップ級SoCを展開する上で深刻な影響が生じる見通しだ。
米国政府が今回の規制拡大に踏み切った背景には、タイミングを考えてもXiaomiの3ナノメートルプロセスという先端半導体開発に対する警戒感があったとみられている。
仮にも中国国内で2ナノメートル対応のEDAソフトウェアが独自に開発されれば状況は変わる可能性もあるが、それには新たなリスクも伴う。米国は輸出管理において、制裁回避を目的とした技術の“迂回(うかい)使用”にも強い制裁を科す姿勢を明確にしている。
仮に国産EDAツールが完成し、それを用いて半導体を設計、外部に生産委託して商品化した場合、ツールの開発企業だけでなく、チップ設計を行った企業や個人、供給を受けたメーカーも米国のエンティティリストに追加されたり、制裁金を課されたりする可能性がある。
こうした国際情勢を踏まえると、Xiaomiが今後も高性能なプロセッサの開発を継続できるかどうかは依然として不透明だ。現状はトランジスタ数を増やして性能を上げることはできるが、通信モデムが別実装のため、消費電力で不利になる点は避けられない。ハイエンド向けで他社と肩を並べ続けられるかは、正直時間の問題となりそうだ。
また。先端技術を必要としないミッドレンジ帯のスマートフォンやスマートウォッチ、イヤフォン向けのプロセッサであれば、現時点では設計できる余地が残されている。しかし、それすらも米国や周辺諸国の立ち回り次第で長期的には厳しくなると見込まれる。今後は技術力に加えて、地政学的なリスクマネジメントがより重要になるだろう。
独自プロセッサ「XRINGシリーズ」の道はまだ始まったばかり、世界シェア3位のスマートフォンメーカーは自社設計プロセッサを携えてどのように歩んでいくのか、注目していきたい。
●著者プロフィール
佐藤颯
生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。
スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。
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