Appleが発表したばかりの「iPhone Air」は、「薄さ」を最大の特徴とする。わずか5.64(四捨五入で約5.6)mmのボディーは、5.3mmの「iPad Pro(M4)」よりも約0.3mm分厚い程度だ。現行のスマートフォンは8mm台が主流なので、その数値がいかに突き抜けているかが分かる。
iPhone Airの発表に合わせて、1本の動画「iPhone Air、登場」を公開したApple。薄さと耐久性の両立を図った点をアピールするiPhone Airは、強さと軽さ、耐久性を兼ね備えたグレード5の宇宙船用チタニウムを使った、徹底的に薄型化されたフレームで構成される。この頑丈な素材に優美さをもたらすため、フレームは鏡面のように磨き上げられ、軽やかさを感じさせるカラーパレットで仕上げられている。
さらに、セラミックシールドがチタニウムフレームを両面から包み込む構造を初採用。高温プロセスで生成されるナノクリスタルによって耐久性は大幅に高まり、フロントガラスはこれまでよりも3倍の耐傷性を備えたという。過去のどのiPhoneよりも頑丈な仕上がりとなっているそうだ。
この薄さを実現するため、iPhoneのアーキテクチャは根本から見直された。象徴的なプラトーのデザインを一新し、カスタムメイドのチップやコンポーネント、革新的なカメラシステムを正確に収めるよう精密に設計されている。新しいセンターステージカメラは、デバイスを回すことなく、縦向きでも横向きでも自動的にセルフィーを最適な構図で捉える。
この動画からは、Appleの並々ならぬこだわりがうかがえるが、薄さを追求すれば犠牲は出る。例えば、アウトカメラは4800万画素カメラのシングル構成にとどまり、特に望遠性能ではProに大きく劣る。超広角カメラがなく、花などの被写体に寄って撮影する際に便利なマクロ撮影にも対応しない。
バッテリー容量も不安要素の1つだ。Appleはこれまでバッテリー容量を明らかにしない方針を貫いてきたが、2025年現在も変わらない。ビデオ再生時間は2024年の「iPhone 16 Plus」の27時間から変わっていない。別売りのiPhone Air専用Apple純正MagSafeバッテリー(1万5800円)を装着すると、ビデオ再生時間は最大40時間に伸びる。とはいえ、MagSafeバッテリーなしだと、iPhone 17シリーズと比べてバッテリーの持続時間は短い。
さらに、iPhone Airは全世界でeSIMのみの対応となっており、SIMカードの抜き差しは行えない。つまり、前の端末で使っていたSIMを取り外して、iPhone Airに差し替えればすぐにネットワークにつながるという手軽さはなくなった。代わりにオンライン上で電話番号を書き換える手続きが必要になってしまう。
一方で、薄型化の犠牲になっていない部分もある。プロセッサには2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載する6コア「A19 Pro」を採用。生成AI機能の「Apple Intelligence」を利用できる性能は確保された。
では、そもそもスマートフォンにさらなる薄型化は必要なのだろうか。例えば、「iPhone 17」は7.95mm、「iPhone 17 Pro」「iPhone 17 Pro Max」は8.75mmと、iPhone Airと比較すれば厚いが、携帯できないほど厚すぎると感じる人は少ないだろう。むしろ、あまりにも薄いとグリップ感が失われ、割れやすさへの不安が高まるはずだ。バッテリー容量や複眼カメラを犠牲にしてまで5mm台にする必然性があるのかといえば、答えは簡単ではない。
ここで引き合いに出したいのが、折りたたみスマートフォンの進化だ。サムスン電子がAppleよりも先に市場に投入した「Galaxy Z Fold7」は、閉じた状態での厚みを大幅に改善し、インパクトを残した。先代のZ Fold6は12.1mmあり、折りたたみという特性上「分厚い」「やぼったい」と指摘されることが多かった。しかしGalaxy Z Fold7では26%もの薄型化を実現し、厚さは8mm台へと到達。これは通常のハイエンドスマホと並べても違和感のないサイズであり、初代Foldから比べれば実に48%もの削減となる。
Galaxy Z Fold7がすごいのは、薄くなったからといって性能を大幅に犠牲にしなかったことだ。カメラはシリーズ初の2億画素センサーを搭載し、従来比で4倍鮮明な撮影を可能にした。センサーサイズも44%拡大し、暗所での性能が大きく向上している。さらに、バッテリーは先代のGalaxy Z Fold6と同じ4400mAhを確保しつつ、動画再生時間は最大24時間に伸びている。
つまり、薄型化が価値を持つかどうかは、どこを削り、どこを守るかにかかっている。折りたたみスマホのように、厚さが最大の弱点である製品では、数mm単位の改善が体験を劇的に変える。これに対して、既に十分薄い一枚板形状のスマホにおいては、さらに削ぎ落とすことで得られるメリットが少なく、失うものが目立ちやすい。
iPhone Airはまさにそのジレンマを抱えている。Appleは「薄く、美しい」ことを価値とするデザイン思想を貫いてきたが、ユーザーが求めるものは必ずしも同じではないはずだ。動画視聴やカメラ撮影、ゲームプレイなど消費電力が大きい用途にiPhoneを活用する人は、今回はProモデルを選択したいはず。厚みが多少あってもいいという結論に行き着くからだ。
もちろん、Airは直訳すれば「空気」で、それほど軽く、薄く、手にした時のストレスを感じさせないのが大きなメリットだ。ノートPCにおける「MacBook Air」、タブレットにおける「iPad Air」と基本コンセプトは似ており、iPhone Airは薄型・軽量を最も重視する人に向く。
加えて、Appleの場合は毎年9月に数機種をまとめて発表するのが通例になっており、おのずと見た目やコンセプトの差別化は必須になってくる。つまり、デザインで無印モデルやProモデルと差別化する方向性は筋が通っている。
とはいえ、スマートフォンの進化は年々「大幅進化」とはいいづらい方向性に進んでおり、特にハイエンドモデルの基本設計は「厚みを減らし、ベゼルを削り、持ちやすさを維持しつつも、大画面にする」傾向にある。だが、その潮流も既に成熟期にあるといえる。それどころか、近年では特に「Google Pixel」のようにAIによる体験の高度化や、サムスン電子のように「薄型の折りたたみ」といった点が重視されており、薄さをメインに打ち出される時代は過ぎ去りつつあるのかもしれない。
スマホにおける薄型化は、単なるデザインの問題ではなく、使い勝手や体験全体を左右する選択だ。折りたたみでは大きな進化となり、通常モデルではむしろバランスを崩す危険もある。不完全のままProや無印と同時発表ではなく、もう少し技術が進歩するのを待ち、無印とProの「いいとこ取り」をして、「別の時期に現行モデルより安い端末」として売り出すのはどうなのだろうか、とすら感じた。
iPhone Airが発売されたとき、Appleファン以外の一般ユーザーはその「薄さ」を喜ぶだろうか、それとも「失ったもの」を惜しむだろうか。答えは、実機を手にした瞬間にしか分からない。
「iPhone Air」の実機に触れた! 厚さ5mm台の衝撃、165gの軽さは“感覚がバグる” 「iPhone 17」も合わせて現地レポート
「iPhone 17/17 Pro」は何が進化した? 「iPhone Air」も含めてiPhone 16シリーズとスペックを比較する
iPhone 17とAirのeSIM、本当に「良いSIM」か メリットとデメリットは?
5分で分かるApple新製品 iPhone 17、薄型iPhone Air、5G対応Apple Watch 11など
「iPhone Air MagSafeバッテリー」はAir以外で使える?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.