くぎを刺しても発火しづらい準固体バッテリー、MOTTERUが2026年に投入 リチウムイオンやナトリウムイオンではない理由は?(1/2 ページ)

» 2025年12月12日 16時52分 公開
[金子麟太郎ITmedia]

 モバイルバッテリーの発火事故が社会的な懸念事項となる中、神奈川県海老名市に拠点を置くガジェットメーカーの「MOTTERU」が、安全性における抜本的な解決策を打ち出した。同社は12月11日、準固体電池を採用したモバイルバッテリーの製品化や、自社によるバッテリー回収について発表した。

MOTTERU モバイルバッテリー 発火 MOTTERUの「準固体バッテリー」

 近年、電車内や商業施設でのバッテリー発火トラブルが相次いで報道され、ユーザーの不安が高まっている。特に7月にJR山手線の車内で発生した発火事故は記憶に新しく、原因が経年劣化したリコール対象製品だったことから、メーカー側の安全対策と周知徹底の在り方が問われる事態となった。こうした情勢を受け、MOTTERUは「デザイン性」と「安全性」を同等に重要なテーマとして掲げ、技術革新に踏み切った。

製品の企画から、開発、設計、検証、そしてサポートまでを一貫して行う

 MOTTERUは、モバイルバッテリーやケーブルなどのスマートフォン周辺機器を中心に、デスク周りのプロダクトまで幅広く展開する企業だ。製品の企画から、開発、設計、検証、そしてサポートまでを神奈川県海老名市の本社で一貫して行っており、日本企業ならではの品質管理とスピード感を強みとする。設立当初の第1期売上は約9000万円だったが、2期目には約3億1000万円、3期目に約5億8000万円、4期目に約7億9000万円と順調に推移し、5期目には約10億5000万円に到達した。わずか数年で売上規模を10倍以上に拡大させた背景には、EC販売からスタートし、現在では多数の実店舗へと販路を広げた実績があるようだ。

MOTTERU モバイルバッテリー 発火 MOTTERUは、モバイルバッテリーやケーブルなどのスマートフォン周辺機器を中心に、デスク周りのプロダクトまで幅広く展開する企業だ。本社を神奈川県海老名市に置く

 同社は総勢16人の少数精鋭体制で運営されており、クリエイティブな発想とテクノロジーを融合させた製品づくりを掲げている。これまでも安全性を最優先事項として設計・製造を行ってきた結果、重大なトラブルは発生していないとしている。しかし、業界全体でリチウムイオン電池に起因する事故が増加傾向にあることを重く受け止め、既存の技術にとどまらない「次の一手」が必要だと判断した。そこで2026年の主力製品として投入するのが、新技術を採用した準固体バッテリーだ。

くぎを刺しても白煙すら上がらない「準固体バッテリー」の実力

 今回発表した準固体バッテリーの最大の特徴は、その圧倒的な安全性にある。従来のリチウムイオン電池は、正極と負極の間を満たす電解質が液体のため、衝撃による破損や過充電などで発熱・発火するリスクを完全には排除できなかった。対して準固体バッテリーは、電解質に固体と液体を組み合わせたゲル状の物質を採用している。これにより、リチウムイオンの伝導性を維持しつつ、液漏れやショートのリスクを劇的に低減させることに成功した。

 その実力を証明するために行われた屋外における「くぎ刺し実験」の結果を動画で確認したところ、従来のリチウムイオン電池にくぎを刺す実験では、瞬く間にバッテリーが膨張し、激しい白煙が噴き出す様子を確認できたのに対し、準固体バッテリーを用いた同条件の実験では、くぎが貫通しても煙1つ上がらず、外見上の変化も全く見られなかった。動画が静止しているのかと錯覚するほどの静寂さは、発火や爆発の危険性が極限まで抑えられていることを証明している。

MOTTERU モバイルバッテリー 発火 従来のリチウムイオン電池にくぎを刺す実験では、瞬く間にバッテリーが膨張し、激しい白煙が噴き出す様子を確認できた。一方、準固体バッテリーを用いた同条件の実験では、くぎが貫通しても煙1つ上がらなかった
MOTTERU モバイルバッテリー 発火 くぎが貫通した準固体バッテリーの展示
MOTTERU モバイルバッテリー 発火 電解質に固体と液体を組み合わせたゲル状の物質を採用した準固体バッテリーの構造詳細

 推奨される動作温度環境としては-20度から60度と幅広い。氷点下の寒冷地から炎天下の車内まで、あらゆるシーンでの使用に耐えうる仕様となっている。容量は1万mAhの大容量を確保し、最大30Wの急速充電に対応。2台同時充電も可能でありながら、ケーブルストラップが付属するため別途ケーブルを持ち歩く必要もない。バッテリー残量は側面のインジケーターにパーセント表示され、利便性も重視した。

 準固体バッテリーの価格や発売日について未定となっている。

MOTTERU モバイルバッテリー 発火 付属のストラップを側面の穴に取り付けられるようになっており、ケーブルをストラップに収納できる構造となっている
MOTTERU モバイルバッテリー 発火 バッテリー残量は側面のインジケーターにパーセント表示される
MOTTERU モバイルバッテリー 発火 最大30Wの急速充電に対応するUSB Type-CポートとUSB Type-Aポート。バッテリー本体への給電はUSB Type-Cポートから行う

なぜ「リン酸鉄」や「ナトリウムイオン」ではなかったのか

 燃えにくいバッテリー技術としては、他にも「リン酸鉄リチウムイオン電池」や「ナトリウムイオン電池」が存在する。なぜMOTTERUはそれらではなく、準固体電池を選択したのか? 技術担当の川本武志氏は、その理由を説明した。

 最大の理由は「サイズと重量」の問題だという。リン酸鉄リチウムイオン電池は安全性が高いものの、エネルギー密度が低いため、同じ容量を確保しようとすると製品サイズが大きく、重くなってしまう。MOTTERUの製品は「かわいらしさ」や「持ち運びやすさ」を重要なコンセプトとしており、ユーザーが日常的に携帯するガジェットとして、大きく、重くなることは致命的な欠点となる。

 ナトリウムイオン電池については、「市場への供給が始まったばかりであり、量産体制が安定していない」という課題があるという。加えて、製造コストが高くなる傾向にあり、「現段階での採用は時期尚早と判断した」と川本氏は説明する。

MOTTERU モバイルバッテリー 発火 エレコムの「ナトリウムイオン電池」搭載モバイルバッテリー

 これに対し準固体電池は、「既存のリチウムイオン電池の製造ラインや技術を転用できる部分が多く、量産と安定供給が可能だ」という。さらに、サイズや重量も従来のリチウムイオン電池とほぼ変わらないレベルで製造できる。全固体電池への完全移行にはまだ数十年単位の時間を要すると見られており、その間の「現実的な最適解」として準固体電池が選ばれたそうだ。

 また、川本氏は全固体電池の技術的な難易度についても言及した。全固体電池は電極と電解質の密着を維持するのが難しく、「経年劣化が早いという課題」があるという。一方、準固体はそこに液体が介在することで密着度を高め、安定性を確保しているそうだ。まさに、理想と現実のバランスを取った技術選定といえるだろう。

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