ThinkPadは“黒いBento Box”である(前編)――ThinkPadのデザイン思想青山祐介のデザインなしでは語れない(2/2 ページ)

» 2007年03月27日 09時30分 公開
[青山祐介,ITmedia]
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カドを残すことで極限まで小さくしたエフィシェント・エンベロープ

 ThinkPadのコンセプトは、

   「Simple Unified Form」(シンプル・ユニファイド・フォーム)

   「Efficient Envelope」(エフィシェント・エンベロープ)

   「Soft Black Finish」(ソフト・ブラック・フィニッシュ)

   「Red TrackPoint Highlight」(レッド・トラックポイント・ハイライト)

という4つのキーワードに凝縮される。

 シンプル・ユニファイド・フォームとは、とにかくシンプルさを追求するという姿勢だ。多くのノートPCが液晶ディスプレイ側とキーボード側のデザインが別々の塊として見えるデザインを採用している中、ThinkPadは閉じたときに1つの塊になるようなデザインを心がけているという。閉じたときの姿を側面から見たときに、液晶ディスプレイ側とキーボード側がピッタリと閉じて、可能な限り隙間がないようにデザインされている。これはデザイン的な主張ということだけでなく、貝のように液晶ディスプレイ側の縁がキーボード側本体に重なることによって、閉じたときの強度が増すというメリットもある。

 2つ目のキーワードは、エフィシェント・エンベロープだ。「エフィシェント」には“効率のよい”、「エンベロープ」には“容器”という意味であり、合理的な形、特に内側に対して合理的な形ということで、なるべく小さくすることを追求している。ThinkPadの基本的な形状はシンプルな角張ったデザインだ。この“角張った”デザインには、前述のシンプル・ユニファイド・フォームのコンセプトもあるが、もう1つの理由としてカドにアールを付けるとボディが大きくなってしまうデメリットが生まれる。

 というのも、ノートPCの中に入っているコンポーネントはほとんどが四角いものだ。丸いものといえば、円筒形のバッテリーくらいなのである。“四角いものを丸くする”ときに普通なら“カドを落とす”ことをイメージするが、中に入っているものが四角ければ、カドを落とす造形にすると逆に形を削るのではなく足すことになる。その結果、ノートPCの場合、本体サイズがどうしても大きくなってしまう。

高橋 ThinkPadの中身は本当にパツンパツンに入っています。最近は無線LAN関係のアンテナがあるためちょっと事情は変わってきていますが、液晶ディスプレイも本当にケースギリギリまで詰めてデザインしています。アップルのMacBookやMacBook Proはカドにきれいなアールを持つデザインですよね。あれも、あのアールをやめればもっと小さくなるかもしれません。

 また、最近のノートPCは無線LAN内蔵のものが多い。ThinkPadも無線LANを標準で装備しているが、そのアンテナのレイアウトとデザインには毎回苦労するという。現在のThinkPad Tシリーズには内蔵アンテナ2本に加えてMIMO用の3本目のアンテナを、液晶ディスプレイの脇に突起する形で装備する。このような例は過去にもThinkPad S30でフルサイズキーボードの左右への張り出しを覆う部分にアンテナを埋め込ませていた。こういった、アンテナ部分の突起をThinkPadのデザイナーとしてはやめたいと思っていると高橋氏は語る。

 もともとThinkPadのトップカバーに使われることの多いCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)は電波を通しにくい。そのため、無線LANのアンテナが埋め込まれている部分にはプラスチックのパーツを埋め込み、それをデザイン的にはアクセントとして消化している。しかし、意図してレイアウトできるわけではないので、デザイナーとしては好ましいとは思っていない。このあたりも、シンプル・ユニファイド・フォームやエフィシェント・エンベロープへのこだわりの表れだ。

MIMO対応モデルのうち、3本のアンテナを内蔵するモデルは液晶ディスプレイの側面にバンプが設けられている。左の写真は14.1インチの液晶ディスプレイを搭載したThinkPad T60で約3ミリの出っ張りが、右の写真はThinkPad X60で約5ミリの出っ張りがある。高橋氏は、デザイナー的にはできる限りフラットな形を保ちたいという

ユーザー本位で考えた結果、3種類のTrackPointキャップを同梱

 ThinkPadの本体を閉じたときのあの独特の肌合いが、ソフト・ブラック・フィニッシュというキーワードによるもの。このソフトな肌触りが心地よい、落ち着いた黒い表面処理に対して、本体を開けるとさまざまな機能が詰め込まれたキーボード面が現れる。この中心となるのが、レッド・トラックポイント・ハイライトの文字通り、黒いキーボードの中心に華を添える赤いTrackPointだ。

 このようなキーワードを念頭に置きながら、デザイン的に機能的な使い勝手を積み重ねてきたのが代々のThinkPadシリーズである。例えば、本体を開けるときに操作するラッチのリリースレバーは当初は2カ所だった。これを片手でも開けられるように今では1カ所に集約している。電源スイッチもモデルによって側面にあったりしたものを、最新のモデルではキーボード面に配置して体が不自由で口でPCを操作をするようなユーザーでも使いやすいように配慮している。また、上下/左右のカーソルキーには上部にベロ状の突起がある。これは同じように口で棒を使って口で操作する際に、キーに触れる棒が滑らない工夫だ。

高橋 最近でこそ「ユニバーサルデザイン」という言葉は珍しくなくなっていますが、ThinkPadではそういうことには早くから取り組んできました。これは体の不自由なかたのためだけでなく、そうすることによって、すべての人に使いやすくしたいという考えかたで、これは常にデザインする際に考えていることです。

 このようなデザイン上の工夫は、必要に応じてユーザーの声を聞いてデザインに反映する、ということを繰り返して生み出された結果だ。その象徴的なものが、4年前にThinkPadの赤いキャップの形状を変えたことだ。決して形状を変えることありきで進められたわけではなく、長い時間をかけてさまざまな形状を検討した結果だという。使い勝手はもちろんThinkPadの大きな特徴でもあるため、ユーザーの声を聞き、さまざまなテストを繰り返した。しかし、最終的にその形状は1つに絞られることはなく、結果として3種類を製品に付属するということになったわけだ。

ThinkPad R40から、TrackPointのキャップが3種類に増えた。左からソフト・ドーム、ソフト・リム、そして従来からのクラシック・ドームだ。同社直販サイトでは3種類がセットになった「ThinkPlus トラックポイント・キャップ・コレクション」も販売されている

高橋 実際に試してみるとどれが1番ということにはなかなかならないんですね。やはり、それぞれ指の表面は、脂っぽい人もいますし、カサッと乾いた人もいる。使う人の好みもいろいろありますから、逆に1個に絞って新しいデザインとするのではなく、いくつか選んでいただくというのが結論として正しいだろうと判断し、3種類のキャップが付属することになったんです。


 ThinkPadのデザイン思想 インタビュー後編では、ThinkPadの代名詞となる“黒”へのこだわりを中心に、ThinkPadならではのデザインワークを聞いてみた。

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